異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第230節

 昼食を終えた頃。
 人族陣営と魔族陣営は硬直したまま動きを見せない。かといって、俺が先陣を切るには役者不足。なんとももどかしい気分だが、焦っても仕方がない。


『あなたが救国の英雄になるってことよ』


 クララが言っていた話を思い返す。
 もし、この軍勢で魔王を討ち果たせなかった場合、いずれ俺が行かなければならない。そのための武器も用意している。しかし、出番がないなら無いほうがいい。
 そうやきもきしていると、馬車が一台やってきた。それは物資を運搬するための荷馬車ではなく、街中で見かけ、俺も乗ったことがあるような人を運ぶための上質な馬車だ。御者が扉を開け、中から降りてきたのはクリスとロイスだった。


「あ! フランちゃーん!」


 ロイスは目敏く俺の隣に立つフランを見つけ、すぐさま駆け寄り抱きつく。


「カズキさん、此度のご協力。ありがとうございます」


 クリスは特にロイスを諌めることなく俺に戦争への参加に対する礼を言ってくる。


「まぁ曲がりなりにも俺はクリス様親衛隊の一員ですからね。それに上司のロナルドやレオの命令なら、聞きますよ。とりあえず、二人のところに案内しましょう」


 社交辞令を述べ、クリスをロナルド達の所へ連れて行く。その背後でフランはロイスに抱き着かれたままだ。まぁ仲良きことは美しきかな。


 今この場には俺、フラン、クリス、ロイス、ロナルド、レオ、そして初顔の四人の計十人が面を向かい合っている。


「俺達、この場にいていいのか?」


 俺は思わず口を開いてしまう。いかにもこれから作戦会議をしますと言わんばかりの空気で俺は部外者じゃないのかと思ってしまう。それにレオは笑顔で答えた。


「カズキもこの場にいてくれ」


「……ならいいけど……」


 レオがそういうならこれ以上何も言うことはなかった。俺が納得した事で会議が始まった。
 まずレオが現状の報告から始める。とはいってもほとんどが俺の既知であり、この会議はクリスに状況を説明する役割が大きい。なんというか、会議というより情報連絡会という方が正しい。
 今回のクリス陣営の役割はロト陣営が魔王を討伐するための間、右翼を守る事である。この認識は俺も共有している。戦場は両軍合わせ十二万が戦うには狭く、両軍合わせ二~三万も投入すればあの平野はいっぱいいっぱいになるだろうとのこと。そのため、戦場に向かわせる兵士のローテーションが重要となってくる。特に兵数の少ないクリス陣営にとっては死活問題だ。魔族に昼夜は関係なく、こちらもそれに合わせ、夜だろうが戦力を投入せねばならない。
 しかも、この戦争は例え魔族の頭数をどれだけ減らそうと終わらず、大将首を落とすことでしか終結しない。
 魔王の能力だが、吸魔の力、消撃の力、震撼の力は他の面々も既知のようでクララが俺に教えてくれるまでは俺だけが知らなかったことになる。
 震撼の力、あれをどう攻略するかがこの戦争のカギになる。現状、震撼の力を無効化できるのが俺自身という事だけは分かっている。ロトだって戦争を始める以上、震撼の力に対するカードを用意しているとは思うが、楽観はできない。
 俺は注意深く、この会議に耳を傾けているとクリス親衛隊の内情がなんとなく読み取れた。
 まず、クリス親衛隊は総勢約3000名からなり、大別して二つの隊に分けられる。それが戦隊と支援隊だ。戦隊は歩兵部隊、騎兵部隊、弓兵部隊、魔術部隊からなり、支援隊は輸送部隊、情報部隊、工兵部隊、衛生部隊、整備部隊からなる。
 今この場にいる俺が知らない顔ぶれは戦隊長、戦隊副長、支援隊長、支援隊副長だ。
 報告から察するにこの基地に集結している面子の八割は戦隊所属であり、残りの二割は支援隊所属らしい。一応、俺は工作兵として動いていたが、俺の場合は例外として支援隊所属ではなく親衛隊の副隊長たるレオの直属の部下という扱い、レオの直属というのは戦隊副長や支援隊副長級の偉さらしい。通りで普通の親衛隊の隊員が俺に対して丁寧な接し方だったわけだ。


「会議中の所、失礼します!!」


 突如、一人の兵士が慌てた様子で現れた。その様子から決して良くない報告であることは容易に想像ができた。

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