異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第229節

 俺は一度アイリス達の所へ戻り、朝食をとった後、ロトの陣営に向かった。一応、護衛としてフランだけを連れて行く。また、クリス陣営で何かあればアイリスが俺を追ってくるよう言ってある。
 人伝に聞き、ロトの居場所にたどり着くと最も大きなテントが設営されていた。守衛に会釈をしながら中に入れてもらう。


「お、カズキか。昼頃にそちらへ伝令を向かわすつもりだったのだが手間が省けたな」


「そっちの陣営の準備が一段落するまで気を使ったのさ。それより、物資の運搬の件だけどどこに運び入れればいい?」


「すまないが、こっちはこっちで忙しくてな。物資の件に関しては全面的にカズキに任せる」


 ロトはそういって何かが書かれた羊皮紙を俺に手渡してくる。


「これを見せれば大抵の人間は動いてくれる。では、後は任せた」


 そういってロトはすぐさま出て行った。
 まぁ五万人の兵士をまとめなきゃいけないんだ。時間が惜しくて仕方がないだろう。
 別にロトと長話をするつもりもなかったため、依頼を遂行することに徹した。
 まず初めにロト陣営の物資貯蔵庫に案内してもらい、そこにIGを設置。人払いを頼み、フランには入口で誰も入らないよう見張ってもらう。その間にサニングに移動し、ロージーと打ち合わせをした後、物資運搬の試験を行う。一応、瞬間的にとはいえ俺の家を経由するため大きさには制限をかけているため、そこまで大事にはならないだろう。結果的に言えば成功した。物資管理の兵士には俺の家系に伝わる特殊な魔術で物資の転送を行っていると適当な嘘をついて誤魔化した。
 ベルトコンベヤ式のため戦地からサニングへ○○が欲しいとメモ紙を送れば、それに従ってサニングから戦地へ物資が送られる仕組みだ。
 兵士は釈然としないながらも実際にメモを送って物資が届いたので信じてくれた。
 とりあえず、ロトに対しての義理は果たした。用事が済み次第、クリス陣営に戻る。


 昼前ともなれば各陣営が基地の設営を終え、クリス陣営は櫓に人員を配置したり、物資の分配等を行っている。俺達四人は自前の食料を用意するため、提供を断った。昼の用意を再びアイリスに任せ、フランを連れて丘の上に向かう。
 昨日、急遽手に入れた双眼鏡で平野の向こうを覗いてみる。


「おお、気が付かなかったけど、なんか向こうもうじゃうじゃしてるな」


 平野の向こうにはうっすらと木々が乱立しており、その木々の隙間から二足歩行をする人の形をした化け物や四足歩行をする獣の群れが見えた。その中にはアベル人やシーク人、トール人のような者達までいる。


「主、私にもそれを貸してもらえませんか?」


「ん? ああ」


 フランは俺から双眼鏡を受け取り、平野の向こうを見る。
 俺も裸眼で平野の向こうに視線をやるが、裸眼ではただの木々が並んでいることしかわからない。


「かなりの数ですね。あの様子であれば、今日明日中に仕掛けてくるでしょう」


「こっちから先手って訳にはいかないのか?」


「それは難しいですね……。私達と違い、魔族は兵糧を必要としません。互いに準備ができていない状態で争えば、魔族側の有利に働きます。人族が戦争を有利に運ぶためには連携や作戦、そういった緻密なものも必要となります」


「そこらへんは俺の知らない定石ってものがあるんだな」


「そうですね。人族は死を恐れますが、魔族は死を恐れません。なので、舐めてかかれば簡単に押し返され全滅もあり得ます」


 死を恐れないか。それは生物としてどうなんだろうか……いや。兵糧を必要としないってことは食事をしないってことだし、子供を持たないってことは――もしかして、魔族って――


「主、どうかしましたか?」


「いや、ちょっと思考の渦に飲まれかけてた」


 俺は何とも言えない胸騒ぎを覚えながら、丘を下って陣営に戻った。

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