異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第226節

「それじゃ、みんなお疲れさま! かんぱい!!」


「「かんぱーい!」


 俺の音頭で幾重ものグラスの音が響き渡る。
 日が沈む頃には目的の建築物は作り終わり、今は皆でバーベキューを始めていた。肉に野菜にビールにおつまみを揃え、でかい網に各々が自由に食材を焼いて行く。
 もちろん、紙皿と焼肉のたれも用意しているし、プラスチックコップだって用意している。


「カンザキ殿、おつかれさまでした!」


「いやー、ジョンが取り仕切ってくれたから作業が滅茶苦茶早かったよ」


 俺達は笑いながらビールを飲みあった。


「それにしても、本職の人間には敵わないな。建築の事は正直、さっぱりだから」


 そこにフレデリックがやってきた。イケメンは肉の食べ方も上品だな。


「ご謙遜を。カンザキ殿のおかげで設計が楽になりましたよ。さっぱりと分からないと言いながら、図面を読めるなんて驚きました。正直、カンザキ殿の助言で新しい知見も得られました」


「そう言ってもらえると嬉しいよ。そういや、あの道具の使い心地はどう?」


 俺の質問にアリソンが急に食いついてきた。女の子が口元をタレで汚している。これがアイリスなら拭ってやるんだが。


「すごく良かったですよ! あの道具、どこで手に入れたんですか? 私も欲しいですよー」


 アリソンが言っている道具とは俺が大学の講義で使っていた製図セットだ。


「あれは俺の国で手に入るものなんだけど、それなりに高価な物だからあげられないよ」


 俺は意地悪に笑った。


「あの林に仕掛けたトラップもカンザキさんの国のものなんですか?」


 ベイリーが紙皿にふんだんに肉を持って現れた。小柄な割に良く食うやつだな。


「まぁね。細くて見えにくいし、丈夫だから間違えると体がスパっていくから気をつけないといけないんだけどね」


 俺も仕掛けるとき、少し手を切ったからわざわざジョンに革の手袋を借りたほどだ。


「そういや、皆ってなんで兵士になろうって思ったの? 工兵って技術があるなら、普通に建築家とかで生活もできそうな気もするけど」


 俺は現代アイテムから話題を逸らすため、おもむろに聞いてみた。
 最初に答えたのはジョンだった。


「親父が大工をしてて、俺も建築に興味があったんです。それでもっと詳しく勉強がしたかったんだけど、学校に行けるほど裕福じゃなくて諦めかけてたんだけど、兵役に付けば勉強ができるチャンスがあるってロナルド隊長に教えてもらったんですよ」


「ってことは、ロナルド隊長はある意味恩人なわけか」


「そうですね。隊長も俺の事を覚えてくれていたみたいで、声をかけてもらいました。それがクリスティーナ王女親衛隊に入るきっかけにもなったんですよね」


「なるほどね。フレデリックは?」


 次にフレデリックに聞いてみた。フレデリック程の容姿があれば、現代であればモデルや俳優にもなれそうだが。兵士になる経緯が気になった。


「僕は彫刻家になりたかったんです。だけど、弟子入りができなくて、彫刻家として食べてもいけなくて、そこで兵役に付けば実入りもいいし、税も免除され、武勲を立てれば年金も手に入る。そうすれば彫刻家として生計を立てられると思って兵役に付きました。そういった経緯もあって石材について学んでいたら組長に拾われたんです」


「石彫りがメイン? 木彫りとかはしないの?」


「もちろん、木彫りもしますよ」


「もしよかったら、俺の国の彫刻も見てみる? フレデリックの何かの参考になるかもしれないし」


「それはぜひ! それと、できればカンザキ殿のお国に彫刻の道具などがあればそれも……ある程度蓄えもありますから、お願いします!」


「ああ、分かったよ」


 彫刻刀とかノミとかなんかフレデリックのためになるものがきっとあるだろう。


「アリソンはどうして兵役に?」


 そういえば、俺の知り合いで女性の親衛隊の隊員って今までいなかったな。


「私も組長とほとんど同じ理由ですよ。私の夢は私が設計した建物や橋が何十年、何百年と残って伝わることなんです。あれだけ大きなものが後世にまで伝わる感動! カンザキ殿は分かりますか!?」


 凄い迫力だ。たぶん、アリソンってかなりの建造物オタクかマニアなのか? まぁアリソンが言わんとしていることは分かる。何百年と残り続けた、ただそれだけでその価値はあるし、感動も覚える。


「そうだね。その建物がどんな歴史を見てきたのか、壁の傷一つ、染みの一つ、それに思いを巡らせたりすると時間を忘れるかもね」


「分かってくださいますか!」


 アリソンは俺の手を取ってブンブンと振ってくる。俺は苦笑いをするしかない。


「ベイリーはどうなんだ?」


 アリソンの手をほどき、話題をベイリーに変えた。たぶん、アリソンの様子からして話し始めたら朝になりそうだ。


「俺は徴兵で兵士をやってるだけだよ? だから、なんで兵士になったのかって聞かれても困るんだよな」


「徴兵か」


 徴兵といえば、ある年齢になったら一定期間兵役に就くことだ。日本でも徴兵制はあったし、この世界の文化レベルであればあってもおかしくないか。それに魔族っていう危機もあるんだから、兵役について多少の戦いの術を知るのは悪い事じゃないかもしれない。


「俺は頭使うより体使うほうが好きだから、設計とかよく分かんないや。たぶん、バリーやウィリアムのおっちゃんも同じだと思う」


 ベイリーが二人に視線を送ったので俺もそれに釣られた。バリーは肉を美味い美味いと言いながら、フランと大食い競争をしている。ウィリアムの方はハリソンと静かに酒を飲み交わしている。アイリスはこんな時まで気をまわしてか肉を焼いたり、野菜を焼いたり、ゴミを片づけたりと忙しなく動いていた。飯を食え飯を。


「ジョン、あの二人は?」


「バリーは俺の親父の友人の息子で、俺を兄のように慕ってくれているんです。あの体格だから、戦士として大成しそうなんだけど戦いには興味が無いんです。それより、親父の跡を継ぐためにも大工の仕事に近い工兵部隊に徴兵された直後に志願したんです。バリーのおじさんは折角親衛隊に加入できたんだから、そのまま兵役についてろって言われてるらしいんですよね。一応、バリーのおじさんに面倒を見てくれって俺自身も頼まれてるんです」


「ウィリアムは?」


「ウィリアムさんは元々歩兵部隊に所属していたんです。剣の腕も確かで、組長の俺よりずっと強いんです。ただ、怪我のせいで前線に出られなくなりまして……その時、ロナルド隊長とレオ副隊長から相談を受けまして、それなら石組にと提案したんです。ウィリアムさんは力もありますし、石組に欠けている武力も持っていますから」


「そういうことか」


「ウィリアムさんが入って間もないので、なかなか打ち解けれてないんですけどね」


「そこらへんは難しいよな」


 人間関係ほど面倒な物は無い。俺はそういったものが嫌いだから、一人が好きなんだけど。ただし、アイリスは別だ。余計な口出しはしないし、俺の邪魔は基本的にしない。


「カズキ様ー、お肉が無くなっちゃいましたー」


「ええ!? もう無くなったのか!?」


 コストパで余るだろうと思ったぐらいの量を買ったつもりだったんだけど、あそこの食い意地が張った二人が消費し尽くしたらしい。


「……んじゃ、今日はお開きだな。皆、片づけ手伝ってくれ」


「「はーい」」

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