異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第207節

 ニールを見送り、俺はアイリス達の所へ行こうとした所でフランと出くわした。


「あれ、もう起きれるようになったのか?」


「はい。アイリスさんのおかげで痛むところはないですが、少し体が重いので少し動いてほぐそうかと」


「ああ、そういうこと」


 俺はフランに歩み寄る。
 夕日も沈み、いつの間にか周囲の街灯に火が灯されている。式典の最終日で案内灯の役割でもあるのだろう。


「アイリスさん達は閉会式までは治療に専念するそうです」


「そうか」


 今からアイリス達の所に行ったところで俺にできることはない。現代に帰り薬品類を持ってくるという方法も無くはないが、この世界の治癒魔術の方が即効性がある。どういう理屈で治癒ができているのか分からないが、細胞が滅茶苦茶活性されるとかそんなところだろう。フィクション脳的な発想だけど。


「俺達の家まで少し歩かないか?」


 徒歩で数十分という距離だ。散歩としては悪くない。


「閉会式には出ないのですか?」


「ああ。どうせロトが演説をするだけだろ。内容も見当がつく」


 あんな笑みを浮かべていたんだ。明日から始まるドンパチが楽しみで仕方がないのだろう。


「……フランは戦いが好きか?」


「嫌いではないです。前にも話しましたが、アタイは冒険者に憧れていましたから強敵に打ち勝つ事に憧れていました」


「そうか……」


 今、一番重要なのは明日からの戦争の事だ。おそらく、この事実を知っているのは現時点ではロトと俺だけだ。まぁそれもあと数十分もすれば国内のほぼ全員に知れ渡るのだが。
 戦争になったら俺は何をするかを決めなければならない。俺が取れる選択肢は無数にあるが、効果的な物となるとある程度絞られてくる。もちろん、俺に限れば戦争が終わるまで現代に逃げることはできるだろうが、その選択肢を選ぶつもりは無い。というよりも俺が選びたくない。
 戦争時に俺ができることを改めて色々と考えてみる。
 目的は戦争の終結。そして、その目的のための目標としては悦楽の王と呼ばれる魔王を倒すこと。魔王を倒すには実力者を魔王の所に連れて行く必要がある。実力者を上げるのであれば俺の知る限りだとロト、レオ、ロナルド、そしてフランだ。俺の動かせる駒の中に実力者がいるのは大きい。
 そして、実力者が魔王を討伐する事で戦争は終結する。
 戦争の終え方としては他にもいろいろあるのだろうが、相手は魔族でこっちは人族、和平を望むことは叶わないことを前提とすれば全滅させる以外に道はない。普通の戦争なら指揮官を失えば後は掃討戦になるだけだが……その常識が当てはまるのか怪しいけどな。
 そのために俺ができる事。一つ目は俺、アイリス、ハリソン、そしてフランで直接戦争に乗り込む。二つ目は物資供給による後方支援。三つ目は一つ目と二つ目を平行に行う折衷案。四つ目は現代兵器を手に入れ、無双をするという方法。
 それぞれメリット・デメリットがあるが、四つ目以外は効果は出易い。
 戦争は明日だ。こういう時は初動が大事だ。


「フラン、お前に話しておくことがある」


 大通りを歩いているにもかかわらず、人気は全くない。街のほぼ全員が閉会式に参加している加羅だろう。


「なんでしょうか?」


 俺はどう言葉を繕うかを考えて止めた。フランにそんな必要はない。


「明日、魔王が軍勢を引き連れココにやってくる」


「魔王が……」


 フランは俺の言葉を疑わず、耳を傾けてくれた。


「俺は魔王を倒すために何かしたいんだ」


「主が魔王を?」


「いや、俺じゃなくてもいい。戦う技術ならフランの方がよっぽど上だからな。俺ができることは物資の供給のような後方支援ぐらいだ。相手が魔獣なら俺も戦えるだろうが、フランとハンスの戦いを見て俺には無理だと分かったしな」


 俺の言葉をフランは否定しない。


「だから、明日……いや、今日から戦争の準備を始める――」


 つい、負けた時のために逃げる準備をしようと口走りそうになる。しかし、この国には世話になった人間が増えすぎた。


「分かりました」


 フランは己の剣の柄に手を添える。命令があればいつでも戦う意思があるということだ。


「頼むぞ」

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