異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第206節

 俺はニールと名乗った男の治療が終わった後、少し話がしたくて外に連れ出した。
 外に出ると夕日が眩しく、近くの建屋の影になった場所に積まれた木箱に腰を下した。


「今日は災難でしたね」


 俺はニールの傷の事に触れてみた。


「これぐらい大したことないさ」


 ニールはそういうが、着ている服に付着している血が目立っている。それなりの血が流れた事は容易くわかる。
 俺は苦笑しながら、ニールと話を続ける。


「ニールさんは今は何を?」


「この腕じゃ、まともな仕事はできないからな。仕事で知り合った仲間から簡単な仕事を貰って生活してる」


 ニールは俺の常識に当てはめれば身障者だ。この国の社会保障的な物がどれだけ充実しているか分からないが、行政的な手助けは望めないだろう。それでもニールの服装は決して貧しい物ではない。先の騒動で傷んではいるが、傷む前の服装であれば中流の富裕層相当であることが伺える。


「カンザキさんはフランをどうして武闘大会に出場させたんだ?」


「もともとはちょっとした好奇心だったんですけどね。フランの実力を見てみたいという」


 実際、あれだけの戦闘力を持っているとは全然思ってなかった。


「今のフランは俺達とチームを組んでる時より強くなってる」


「そうなんですか?」


 ニールはそういったが、俺にとっては意外だ。


「ああ、なんなら昔より伸び伸びと戦ってるように見えた。まさか、フランがカンザキさんの……その、奴隷になってるなんて昨日まで知らなくてな」


「まぁいろんな巡り合わせでそうなったんだがな」


「ああ。もとはと言えば俺のせいだったんだ……」


「そう、らしいですね。話は聞いています」


 このニールって男を助けるためにフランは奴隷になるはめになったんだ。


「カンザキさん、頼む! 今はまだ金が無いが、必ず払う! だから、フランを解放してくれ!」


 ニールは突然、俺に懇願してくる。


「それは無茶な相談ですよ」


 俺は冗談を受け取ったように笑った。
 それでは筋が通らない。それに、俺は金銭が欲しいわけじゃない。


「……頼む。俺の命をカンザキさんにやってもいい。……だから、フランを……」


「絶対服従の契りの事ですか?」


「……ああ」


 絶対服従の契り。それは金銭で奴隷を買うのとはまた違った意味合いだ。文字通り、命すら賭して命令に従う奴隷。そういった存在になるとこの男は言っている。


「フランがニールさんを助けるための借金がいくらか知っていますか?」


「……金貨80枚と聞いてる」


「そうですね。少し嫌な言い方ですが、フラン一人は奴隷数人にも勝る価値があるということです。ニールさんが絶対服従の契りによって従者になったとして、フラン一人の価値に勝るとお思いですか?」


「…………」


 ここで断言できるのであれば、少しは考えてもいいと思った。だが、ニールは答えられなかった。


「すみませんが、俺はフランを手放す気はないです。いくら金銭を積まれても、俺は決して首を縦に振るつもりはありません。それに、お尋ねしますがフランがニールさんに奴隷の身から解放されたいと相談でもしたんですか?」


「……いや……」


「少なくとも、俺はフランに対して奴隷の身分の割には良い待遇をしているつもりです。衣食住を与えて、少ないが自由も与えてる。貴族にしか飲めないような酒を飲み、肉を食べさせてもいます。そして、冒険者として培った腕を振るえるような仕事も与えている。仮にフランが俺に金銭を求めるのであれば、仕事に成果に相応しい対価だって渡す用意があります」


 俺はフランに相応しい主でいなければならないという自戒の念が無いわけじゃない。奴隷に愛想を尽かされないように気を付けているつもりではある。


「でも、結局はフランは本当の意味で自由じゃないんだ」


 言わんとしていることは分からなくもない。フランの自由はあくまで俺が許容しているからに過ぎない。俺が心変わりをしてフランを閉じ込めようと思えば閉じ込めることだってできる。そこにフランの自由意思による選択の余地はない。


「そうですね。結局はフランは奴隷という首輪を繋げられ、俺が許す鎖の長さの分だけの自由しかないわけですから」


「それじゃまるで飼い犬じゃないか」


「そうですね。フランは優秀な番犬ですよ。それが何か?」


「……フランからはカンザキさんはとても優しい人だって聞いてたんだ」


「それはフランの目が節穴なだけだ」


「…………」


 ニールは苦虫を潰したような顔を浮かべる。


「……カンザキさんはフランの事をどう思ってるんだ?」


「……どうとは?」


「その……一人の女として」


「とても魅力的な女性ですね。強くて凛々しくて俺を慕ってくれて、とても素晴らしい女性です」


「なら……もう……」


 ああ、そう言う所が気になったのか。いや、やっぱ気になるよな。男として。


「ニールさんが思ってるよな事はないですよ。俺は現実の……じゃなかった。三次元の女性は愛さないことにしてるんで」


「女性は?」


 いや、喰いつくところ違う。むしろ三次元について食いついてくれ。というか、三次元って言葉は二次元に対比しての表現だから二次元の概念が無いとこの言葉は通じないのか?


「いや、まぁとにかく俺はフランとヤってない」


「本当にか?」


「ああ」


 というか、俺は一生できないだろうな。


「……分かった」


 ニールは木箱から降りる。


「俺はもう帰るよ」


 ニールは俺の返事を待たずに去ろうとする。


「ニールさんはフランの事が好きなんですか?」


「当たり前だろ」


 本当に当たり前そうに言って去って行った。照れの一切ないその物言いが少しかっこよく見えた。

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