異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第205節

 俺はクララの魔宝石を手に取り、王城を後にし、アイリス達を迎えに来た道を戻る。
 式典最後の日には閉会式が行われせいか、開会式の式場にもなった武闘大会の会場には多くの人間が詰め寄っていた。
 引き寄せ石でアイリス達の居場所を探してみると方向的に武闘大会の間は選手控室として使われていた部屋を差している。
 既に大会も終わっているため、控室に簡単に入れるかどうか分からなかったが、俺が立ち寄ろうとすると俺の心配を余所に警備をしていた兵士達に歓迎された。なんでもアイリス達が老若男女貴賤に限らず公平に治療をしていた姿を兵士が見つけ、野ざらしの環境で治療するよりもの医療室をアイリス達に開放したらしい。その時にロージーが俺の名前を使ったため俺まで感謝されているという事らしい。
 兵士の一人が美談として、金持ちのある男が金銭を積み優先的に治療をするよう申し出た所、ロージーがその男の怪我の具合から優先度が低いからと贔屓にしなかったという話を語っていた。
 まぁ俺がロージーの立場だったら同じ判断をしたと思うし、それはそれでいいだろう。
 元選手控室に入ると重軽傷交えた患者達が待機している。軽傷患者達は椅子や地面に腰を下し、重傷患者は床に麻布のようなものを敷いた上に寝転がっている。
 俺は並ぶ患者達に頭を下げながら医療室に入る。


「すみません。まだ他の患者を見ている所なの。もう少し待っていてください」


 ロージーがこちらに気が付かずに言葉だけ投げかける。どうやら、こちらに視線を向ける事すらできない程に忙しそうにアイリス達は動いているようだ。
 フランもこの部屋で休息を取っているようで奥のベッドに横たわっている。


「皆、お疲れ」


「カズキ様!」


 アイリスは俺の方に駆け寄ろうとするが、手で静止する。


「俺の事は気にしなくていいから、そのまま続けて」


 俺はアイリス達の脇を通りフランに歩み寄り、様子を見てみる。
 目立つ外傷もなく静かに寝息を立てている。さっきまであれほど激しく戦っていた人物と違うんじゃないかと錯覚を覚えるほどにフランの寝顔は穏やかだった。


「結局、最後まで無傷で勝ち抜いたんだよな」


 俺は近くの椅子を持ってきて、フランの横に座り、感慨に耽る。
 ロトから引き取った当初は無愛想で、警戒した狼のように張りつめていて、かと思えば飴を食べただけで緊張が解けたのか馬車で泣き出したり、俺を主と称して忠誠を誓った。実力も本物でこうやって優勝までして見せた。正直、俺には過ぎたる奴隷だ。というか、フランの実力ならば本来は奴隷の身分になる必要も無かっただろう。不幸な巡り会わせとフランの人情深さが無ければ、俺とフランは知り合う事さえ無かっただろう。


「次の方ー」


 アイリスが扉を開き、新しい患者を招き入れる。


「椅子に座って怪我を見せてください」


「ああ」


 声からして男のようだ。椅子が軋む音と衣擦れの音がする。


「あの……失礼ですが、そちらの腕はどうされたんですか?」


「これか? 少し前まで冒険者をやってたんだが、その時にな」


 俺は新しい患者の事が少し気になり、そちらに目を向けた。男の方も俺に気が付いたようでこっちに会釈をしてきたので、俺も会釈をし返す。
 男は右腕、肘から先を失っていた。


「……あんたがカンザキさんか?」


「ああ、そうだけど」


 初対面のはずだが、俺の事を知っているみたいだ。俺の試合を見に来ていた観客の一人なのかもしれないが……。


「もしかして、フランと昔チームを組んでた人ですか?」


「知ってたのか?」


 男は少し意外そうに驚いた。


「まぁ少しはフランから聞いてる」


 フランの話では片腕を失って衰弱してるって話を聞いていたが、目の前にいる男は腕を失い、ハンスによる無差別攻撃を受けているにも関わらず元気だ。左半身に多少の負傷は見えるが、これぐらいならアイリスはすぐ治せるだろう。


「アイリス、とりあえず治療は続けて」


「分かりました」


 アイリスは俺の言葉を受けてから治療に専念し、男も左半身をアイリスの方に向ける。


「えーっと、あなたのお名前は?」


 俺は男の名前をまだ知らなかった。


「ニールだ」

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