異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第204節

「急に押しかけて悪かったな」


 ロトは式典に備えて華美な装飾を身に纏い、俺が抱く俗な王族のイメージそのものの姿をしている。見た目からして動きにくそうだが、ロトは慣れた風に椅子に座った。


「それはいい。それより、用件はなんだ?」


「ああ。少しこの子の話を聞いて欲しい」


「手短にな」


 ロトは訝しげな視線をクララに向ける。
 クララはロトの視線をまっすぐに受けながら立ち上がり、一歩前に出て優雅に一礼をして見せた。


「私は悦楽の王の遣い、クララ。ロト・サニング、あなたに宣戦布告をする。幕は切って落とされた。明日の夜明けに悦楽の王は悲鳴の奏者を率い、陽の国を喜劇の舞台にする。踊る演者と贄となる観客を用意しろ。無間の演目はどちらかの首が落とされるまで続く」


 張りつめた空気が肌に刺さる。息を飲む事さえ忘れそうになるほどにクララの言葉は冷たかった。にもかかわらず、ロトはとても楽しそうに、愉快そうに笑った。大笑いだった。膝を叩いて涙まで浮かべ、どんな喜劇を見ればここまで笑えるのかと思うほどに笑った。


「こっちから出向くつもりだったが、そちらから来てもらえるとはな! それならば、歓迎をしてやろうではないか!」


 ロトはこれで話が済んだとばかりに部屋を出る。


「ロト、いいのか? 陽の国が戦場になるんだぞ?」


 戦争になれば土地は荒れる。それが分からないロトではないはずだ。


「ああ。まさか国内で戦争ができるなんて思いもしなかった。今から忙しくなるぞ」


 まるでゲームを購入した直後の子供のように無邪気に笑うロト。
 ロトは内政屋ではなく戦争屋だ。それも純然たる戦争屋だ。
 笑みを絶やすことなくロトは退室し、俺とクララは残された。


「カズキ、ありがとう。これで私の仕事も終わったわ」


 クララは自分の額に手を当て、額から何かが剥がれるように手の平に落ちた。


「これが約束の魔宝石よ」


 クララは立ちくらみを起こしたかのように椅子に座りこみ、魔宝石を机に置いた。
 気が付けば、履いていた靴は脱ぎ捨てられ……というよりも、クララの足そのものが無くなっていた。
 俺は歩み寄り、クララの手に触れようとするが、触れた傍から崩れていく。
 クララの目に意思の光は見えず、呼吸は止まり、着ている服がゆっくりとしぼんでいく。そして最後にはまるで最初から居なかったかのように消えた。残ったのは温かさの欠片もない子供用の服と靴だけだった。
 これが魔人の死か。

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