異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第202節

 俺の言葉を否定したのはクララだった。


「それってどういう意味なんだ?」


「ハンスはもう、正気には戻らないわ」


 俺はクララに対し、何か違和感を覚えた。実の父親に対する物言いではない。


「正気に戻らないって?」


「あなた……カンザキ・カズキって言ったわね。少しいいかしら」


 俺の問いには答えず、クララは強引に話を進めてきた。俺の手を引き、フランから少し距離を取る。フランは俺達に付いてこようとしたが、手で大丈夫だと応え、近場で休めと伝える。
 クララは俺を人目につきにくい一角に連れてきた。


「あなた、ロト・サニングと知り合いだって聞いているけれど、私をロト・サニングに合わせてくれないかしら?」


「なんで急にロトの話になるんだ?」


「……そうね。あなたにはきちんと話す必要があるわね。どこから話そうかしら……まず、私は魔人なの」


「魔人?」


 クララは自分でそう言っているが、俺にはいまいちピンとこない。人と同じ知性を持ち、人の姿形をしていれば見分けがつかないとは聞いていたが、俄かには信じられない。


「ええ。私とハンスはこの国の王子、ロト・サニングに宣戦布告をしにきたの」


「……せんせんふこく?」


 いまいち俺の頭の中でクララが言っている言葉の意味がつながらない。宣戦布告が戦争の引き金ってのは分かるが……。


「私達の王、あなた達が言う所の魔王が陽の国を滅ぼしに行くとロト・サニングに伝えなければならないの」


「……別に宣戦布告しなくても進軍すればいいんじゃない?」


「……あなた、驚かないの?」


「何が?」


「……調子が狂うわね。人間ってもっと魔人に対して憎悪や敵対心を持って当然だと思ったのだけれど……。聞いた通り、あなたは少し変人なのね」


「普通だと思うけど」


 変人だなんて心外だな。


「まぁいいわ。私達の王はハンスに武闘大会で優勝させ、ロト・サニングに対して国を貰うと宣言することで宣戦布告をするって筋書を書いていたのだけれど、それができなくなったからハンスは暴走したの。たぶん、私達の王の命を叶えられなかった結果ね」


「…………」


 よく分からないが、魔王と魔人の関係ってのは絶対的な物らしい。


「私の役目はハンスが目的を達成できなかった場合、私自らロト・サニングに宣戦布告をすること」


「もう一回聞くようで悪いけど、なんで宣戦布告をする必要があるんだ?」


「簡単よ。他の王に邪魔をされないため」


「他の王?」


 ってことは魔王って複数体いるってことか?


「ええ。それで、私をロト・サニングに会わせてくれるの? くれないの?」


「もし、会わせなかったら?」


「無防備な国に魔人や魔獣の大軍が押し寄せてくる。それだけのことよ」


「でも、それだと他の王が邪魔しに来るんじゃないか?」


「そうね。一万だったはずの大軍が一万と一万の大軍になるだけよ」


 どっちみちダメじゃねぇか。


「それに仲介してくれるなら、私は対価を支払うわ」


「対価?」


「私の核、あなた達が言う所の魔宝石ね。それをあげるわ」


 ……そういや、うっすらと記憶している。猫目石にある魔宝石に宿っている魔人は何かの願いを叶えて貰った代わりに魔宝石となり力を貸していると。クララが言っているのはそういうことなのか?


「そんな簡単に渡していい物なのか?」


「いいのよ」


 何か釈然としない。でも、俺には何のデメリットもない。仮にロトにクララを合わせてクララが暴れた所で俺に被害はない。まぁロトが俺を見限るかもしれないが、それならそれでいい。別にロトに対して思うところは何もないし。


「分かった。会わせよう」

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