異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第201節

 クララの呼び声にハンスは反応しない。歓声を上げていた観客達も何かおかしいことに気付き始めた。ざわめく中、ハンスは膝を折り、地に手を付いた。


「まずい!!」


 何かに気がついたロイスが自作の観覧席に手を付き、全周を覆うドーム状に変形させる。素材が水のため少し見にくいが会場を見渡すこともできる。
 俺がそんなのんきに考えていたが、観客達のつんざく悲鳴に俺はハッとなった。観客席の四方八方から悲鳴が上がっている。注視すると舞台外に放り出されていた石武器の残骸が破裂し、観客達に被害が及んでいた。石の破片が無遠慮に観客達に突き刺さり、会場が赤色に染められていた。


「フラン!!」


 そんな危険地帯の中心にフランを残していた。


「ロイス! これを解け! フランを助けに行かないと!!」


 俺は頭の中で物理障壁で破片を躱せば何とかなるといった淡い考えしか持っていないが……要は戦うわけじゃないんだ。フランを抱えて会場から逃げるだけ、それなら俺でもできる。


「しかたないわね」


 ロイスは会場に向かって反対側に人一人が通れるだけの穴を作ってくれた。


「ありがとう!}


 俺はロイスとアイリスに魔石を投げ渡す。


「ロイスはそれでこれ以上観客に被害ができないように防御を! アイリス、お前は負傷者の救助をしろ! ハリソンとロージーはアイリスの手伝いをしろ! 簡単な治療ならお前らでやれ!」


 俺は観覧席から飛び降りる。現実だったら躊躇う高さだが、加重の魔宝石の効果を切れば着地の衝撃はそこまで無い。むしろ、今は急いでるんだ。加重の魔宝石なんて使ってる場合じゃない。
 観客席はもちろんのこと観客によって隙間なく埋められており、俺は観客達の頭上を越える事で舞台上に上がろうとした。
 俺が跳躍と風の魔宝石による補助を受けながら、舞台上空に差し掛かろうとしたとき、舞台場外で転がっていた残骸が強烈に弾け始めた。
 俺は瞬時に防御壁を展開し、無数の石の破片を防ぎ、破片が俺に触れる寸前で静止した。しかし、その石の破片が更に弾けた。
 クラスター爆弾かよ!
 二段階による破裂。さすがの俺もこれには対処しきれず、無数の礫が俺を襲った。
 石の細かな破片が皮膚をチクチクと刺さる。思ったより痛くない。松の葉で刺されるような嫌な痛みが襲ってくるが、流血するほどでもない。
 これならいける。
 俺は舞台場外に着地し、一瞬だけ舞台上の様子をうかがった。
 ハンスは微動だにせず床に手を付いたままで、フランはクララを抱えたまま控室に続く階段傍で倒れている。
 ハンスをどうにかするか、フランに近寄るか一瞬だけ迷い、まずはフランの安否を確認することにした。
 俺はハンスを刺激しないよう気を付けながらフランに走り寄り、抱き起した。このタイミングで観客を守る防御壁が展開された。


「フラン! 大丈夫か!」


「ああ、主……すまない。身体が満足に動かないんだ」


 ハリソンが言っていた体に負荷がかかるってアレか。


「怪我は無いんだな!?」


「ああ。この子を守るためにここまで来たんだが、起き上がれなくてな……」


 フランに怪我がないことを確認してから舞台場外の土を操り、即席の土壁を作り出す。とりあえず、これだけの土の量があれば石の破片ぐらいなら防げるだろう。


「クララ、お前の親父はどうしちまったんだ?」


 フランに抱きかかえられたクララの様子を伺いながらも急く気持ちで問い質した。


「…………」


 クララは俺の問いに応えない。茫然自失という感じではなく、俺の質問には答えられないと目が語っている。


「……仕方ない。とにかく、ハンスを止めないことにはこの騒ぎは止まないぞ」


 こういう大会なら警備員か衛兵か、とにかく騒ぎを鎮める奴がいるはずだ。そいつらがハンスを取り押さえるまでどこかに避難しないと。
 俺は筋力増強の魔宝石の力を使い、フランとクララを抱えて階段を下る。


「主!」


「負傷者は大人しくしてろ、後でアイリスに診てもらうからな」


 控室に着き、医務室に寄るかどうか迷ったが、俺の勘がこの場を早く去った方がいいと言ったためそのまま会場外に出ていく。
 会場外からはロイスが作り出したドーム状の防御壁が見え、騒ぎを聞きつけた兵士達が会場に向かっていくのも見える。


「とりあえず、ここなら安心だな」


 俺はフランとクララを下ろす。この騒ぎではぐれたらまずいとも思い、クララの手は繋いだままだ。


「主、これからどうしましょうか」


「とりあえず、後のことは他の兵士に任せよう。ハンスが大人しく捕まってくれれば何とか丸く収まると思うんだが」


「それはないわ」

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く