異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第199節

 観客達の歓声が沸き起こる中でもフランの険しい表情は変わらない。そして、ハンスの方も少し驚いた風だが笑みを大きく崩すことはなかった。
 フランは剣を構え直す。その剣の軌跡にも残像を残すように絹のような炎が尾を引く。
 ハンスもまた同じく剣を構えた。
 ――しかし、ハンスが構えた剣は中ほどで折れていた。


「さっきの一撃で折れたのか?」


「たぶん、そういうことだと思います」


 アイリスが俺の言う事に同意する。
 さすがにあの速さでまともに打ち合えば刃こぼれして当然。それも剣の中ほどで叩き折るほどの威力はフランの技量だからできたのだろう。そして、フランの剣の方は折れていない、ように見える。剣の周囲を炎が纏っているためその刀身の実態は確認できないが。
 ハンスは折れた剣を舞台外に投げ捨て、床に片手を付く。そして、どこから取り出したのか一振りの剣、を地面から抜くように取り出した。


「……錬金術か?」


「錬金術? なんですかそれは?」


 俺が漏らした言葉にロイスが訊いてくる。


「あー、簡単に言うとAという物質をBという物質に変換する技の事だよ。基本的にAと同等の物しかBという形で得られないって物なんだけど」


 まぁあれはフィクションだけど……。この世界ではある程度の事は魔力と魔術でできる。床の素材となっている石版の構成をいじれば石の剣ぐらいは作れるかもしれないだろうが……。


「あいつにとって、武器は消耗品らしいな」


 実際、刀は二人か三人を切り捨てれば脂で切れ味が悪くなると聞いたことがある。剣のような叩き斬るような武器でも同じかどうかは分からないが、戦場における武器は消耗品と大差ないのかもしれない。そういう意味ではハンスが使っている魔術、俺が勝手に錬金術だと認識しているあれはかなり実戦向きの魔術なのかもしれない。
 ハンスはその剣の出来を確かめるように振るうが、フランはそこに攻め入った。今度は俺でもなんとか視認できるスピードだ。フランの素早い攻撃にハンスは対応している。だが、何撃目かで剣が折れた。剣が折れた瞬間、俺はフランが勝ったと思った。しかし、フランはそれ以上攻めることはせずむしろバックステップで距離を取った。


「なんで?」


「カズキ様! ハンスさんの足下!」


 アイリスに言われ見てみると、床と同じ色をしていたため初めは気が付かなかったが床から杭のようなものが付きだしていた。
 そういうことか。


「あいつが触れている物はある程度自在に形を変えることができるのか」


 俺はこの世界の魔術については詳しくないが、俺の世界の魔術については色々と覚えている。条件や制限、様々な種類、発想なら既に持っている。


「カズキ、知ってるの?」


「ハンスが使っている魔術の詳細は知らないけど、見た限りではそういうことだろう」


 俺が既に習得している魔術の仕組みから照らし合わせると、あの魔術はロイスが水を造形するのと同じタイプだろう。石材の造形を変質させるという魔術ならたぶん、触れることで対象を支配下に置き目的の造形に形作る。剣のような少し凝ったものは時間がかかるが、あの杭のような単純な形状なら即席で作れると見た。
 俺もだいぶこの世界の魔術に慣れてきたんだろうな。とか思ってしまう。


 俺がそんな推測をしている間にもハンスの次々と石材武器を作り出している。そして、それらをフランは悉く全て破壊し尽くしていく。
 舞台上には散乱する武器の骸が次々に積みあがっていく。


「……あれはマズイわね」


 ロイスが舞台を眺めながら呟く。


「何がマズイんだ?」


「あの武器の残骸……ロイスちゃんがフランちゃんと戦った時に周囲に水を撒いたのを覚えてる?」


「ああ。噴水で自分の支配下に置いた水を撒いて有利にするってアレだろ?」


「あの武器の残骸もあれと同じよ」


「……ってことは、後からあの残骸が布石になるって事か?」


「そういうこと。まぁフランちゃんならロイスちゃんが気が付く前から勘づいてるとは思うけれどね」


 舞台上ではフランとハンスの戦いが繰り広げられている。もはや足の踏み場がないほどに舞台上には武器の残骸が転がっており、舞台そのものもハンスの手によって凸凹としている。また、杭状の突起が至る所に生えており、俺がしでかした舞台荒らし以上にひどい惨状だ。
 身体能力的にはフランが圧倒的に有利だが、ハンスは防御と反撃が上手い。フランが攻めきれていないのはあの杭の反撃といくらでも作り出せる武器のせいだ。


「魔力の根競べでいえばどっちが有利なんだ?」


「そうね……フランちゃんの魔力消費量の方が多いわね。同じ魔力量ならフランちゃんの方が不利よ」


「魔石を持っていてもか?」


「あら、相手は魔石を持っていないとでも?」


「……そうだよな」


 相手の底が分からないんじゃ単純な比較はできないか。


「カズキ様、フランさんが何か仕掛けるみたいです」


 俺はアイリスの呼び声に反応して舞台上へ注視する。すると、フランは猛攻を一変させハンスと距離を取り、試合直後と同様にフランを中心とした逆巻く炎が発現する。ただし、その炎の色は赤色から橙色、そして眩い光を発する黄色へと移り変わり、その猛々しい炎の渦は武器の残骸を巻き上げ、舞台上から一掃された。


「あの色は……」


 大学時代の実習で見たことがある。あの色は通常の赤い炎とは違う更に高温域の炎の色だ。


「フランさん、勝負を決める気です」

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