異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第197節

「まずはハンス選手から聞いてみましょう! ハンス選手! この試合への意気込みと叶えたい望みを教えてください」


 実況者はゆっくりと近づき、ハンスにマイクを向けた。


「そうですね。この国でも屈指の実力者と噂される赤き獣さんと戦えるなんて光栄ですね。私も戦いに身を投じて生きている者として是非、全力の手合わせをしてみたいです。それと、叶えたい望みですか……私のような戦いしか能のない人間でも雇ってくれるのであれば雇ってもらいたいですね」


 ハンスは何でもないように話す。その口振りに緊張の欠片も見えず、望みに関しても体裁が言いように言っているが、望のほうはあまり興味がなさそうにも俺には聞こえた。


「ありがとうございます! ハンス選手は全力のフラン選手との試合を希望しているようです! そして、叶えたい望みはロト殿下に登用してもらいたいとのこと! ハンス選手の実力であればきっと引く手数多でしょう! では次にフラン選手に試合の意気込みと叶えたい望みをお聞かせください!」


 今度はフランに歩み寄る。しかし、そのフランの面持ちはあまり良くない。少なくとも俺にはそう見えるが、アイリスはあまり心配しなくてもよさそうだと言ってくれた。だから、俺は俺の目よりアイリスの言葉を信じている。


「アタイは……」


 実況にマイクのようなものを向けられ言いよどむフラン。しかし、何かを決した様子で顔を上げた。実況者から向けられたマイクを手で遮り、俺達がいる方向とは別の方向に向かって声を大にして叫んだ。


「アタイはここで生きている! 昔と変わらない! あの頃と同じアタイを! アタイの剣は折れちゃいない! アタイの炎は絶えていない! あんたが気に病む必要はないんだ!」


 その声は誰に向けられたものなのか。誰が誰のために言った言葉なのか。頭で考える必要も無く、すっと胸の奥に入ってきた。
 アイリスの言うことは正しかった。これなら心配するだけ野暮ってもんだ。
 他の観客達は歓声を上げる前にフランのその言葉の真意を読もうと耳を傾けていた。
 フランは剣を構え、切っ先をハンスに向ける。


「我が主、カンザキ・カズキの命によりこの試合貰い受ける!」


 その瞬間、観客達がざわめき始め、口々に俺の名を口にした。


「なんと! フラン選手の主とは今大会に出場していた黒髪の異人ことカンザキ・カズキ選手だったようです! そして、フラン選手の望みは主に勝利を捧げることのみ! 戦意は十分、気力も十分! 皆様、長らくお待たせしました! これより決勝戦を始めます!」


 ハンスとフランは十分な距離を開ける。
 いつでも試合を開始できるように互いが互いへの視線を外さない。


「試合開始!」

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