異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第195節

 俺達はフランと別れ、ジェイドとアンバーも早々に俺らの輪から外れる。
 次の試合まで何かをするにしても中途半端な時間だ。このまま会場に向かえば待ち惚けをくらい、ゆっくりと店を見て回るには時間が短い。
 今この場にいるのは俺、アイリス、ハリソン、ロージー、そしてロイス。


「カーズキー、これからどうしよっか」


 ロイスはこのままついてくるつもりらしい。本当はロイスにじっくりと魔術について教えてほしいが、この中途半端な時間では腰を据えて魔術の勉強も難しい。


「先に会場入りして、自分達の席でも確保しようか」


 待ち時間にお喋りでもしてればすぐに時間もたつだろうと思い、早めに会場入りすることにした。






「マジか……」


 早めに着たつもりだったが、既に満員だ。舞台を囲む四方の席は文字通り人で埋め尽くされ、席に座るなんてもってのほか。全員が立ち見を強要される始末だ。


「ロイス、悪いけど頼む」


 俺はそう言ってまだ魔力の詰まっている魔石をロイスに手渡す。


「しかたないわねー」


 ロイスはそういいながら俺の手から魔石を掴み取り、水の観覧席を作り出す。他の客の邪魔にならないよう配慮した観覧席だ。舞台からは少し離れているが、見下ろす形となるためやや俯瞰的に試合を見ることができる。
 観覧席は四本の脚で支持され、三メートル四方の床があり、その四方には落下防止の手摺までついている。階段等は無いため、他の観客が昇ってくることはないだろう。椅子は五人で掛けても狭くない程度に広い。


「なるほど。ロイスさんの魔術でしたか」


 ハリソンは感心したように言う。


「やっぱ、午前の試合でも目立ってたか?」


「それはもう」


 少し自重すべきだったか?


「でも、ここから見ることができるのなら多少目立ってもいいんじゃないかしら」


 ロージーはここからの景色が気に入っているようで、観覧席の端に立って周囲を見下ろしている。アイリスもロージーの真似をして周囲を見下ろしては笑顔でロージーと話をしている。
 俺は椅子に座り、携帯で時間を確認する。まだ試合まで時間はあるようだ。


「ロイス。どっちが勝つと思う?」


「あれれー。カズキはフランちゃんが勝つって思ってないのかなー?」


「そりゃあ分からんさ。贔屓で勝てるならいくらでも贔屓にするけどさ。それと、俺と二人で話してる時ぐらいその変な喋り方はやめてくれ」


「えー、いいじゃーん。それとも、カズキにだけみせるダルダルロイスちゃんが特別だと思えて胸がときめいちゃうとかー?」


「いや、そういうのいいから。単純にその話し方が苦手なだけだから」


「そっか。まぁいいけど」


 ロイスは足を伸ばしてダラーンと放り投げる。


「ロイスちゃんもどっちが勝つかなんて分からないよ。さっきのやり取り、カズキがフランちゃんに何か制限をかけてたみたいだけど、本来の戦い方ができない状態で挑んでたら危なかったかもね」


「ロイスはフランと戦って違和感を感じたのか?」


「そうね。戦士と魔術師の戦いなら、戦士の先制攻撃は基本よ。だからロイスちゃんはまず牽制のために水を生み出したの。それで少しでも警戒させれば時間が稼げるし、布石も打てる。でも、フランちゃんの実力ならもう一歩踏み込んできてもおかしくないって思うの。負けたからこそ言えるんだけどね」


「思い切りが足りないって事か?」


「そうね。ある程度戦いに慣れた人間の目から見ればそう映るんじゃないかしら。わざわざ、ロイスちゃん相手に演技をして騙さなくても、勝とうと思えば勝てたんじゃないかしら。それも一分と掛からない時間で」


「マジで?」


「ええ。マジよ」


 マジの言葉の意味を知って使っているのか、勝手に翻訳してくれてるのか知らないがロイスは冗談を言ってる風ではない。


「そもそも、魔術師が戦士を相手に一対一で戦うってのが不利なのよ」


「そうなのか? 戦士と魔術師だと魔術師の方が有利だって聞くけど」


「どうかしらね。見方によってはそうかもしれないけれど、魔術師は基本として時間をかければ強い魔術が使えて、短い時間だとそれなりの魔術しか使えないわ」


「まぁそれは分かるけど」


 俺もロナルドと戦う時に魔術を組み合わせるのに時間を要した。ロナルドは俺の実力を見たくてわざと待っていたみたいだけど、実戦であれをやってたら切られてお終いだ。
 魔術には起こしたい現象によって必要な工程数がある。
 一瞬だけ発動させたい物理障壁のような魔術は一工程。俺が勝手に空属性と呼んでいる不可視の物体を打ち出だけの魔術も一工程だ。
 水属性の魔宝石で水を操る場合は水を支配下に置き、水を操る二工程がいる。支配下に置く工程を経らずに操ろうとする場合、水を飛ばすなら飛ぶだけ、形を変えようと思ったら変わるだけ。次に起こしたい現象を連続的に行うことができない。
 また、これは吸魔石の性質上の話だが、単位時間当たりに使える魔力は決まっている。俺の脳内のイメージで言えば、どれだけタンクに水が詰まっていようと蛇口から出る以上の水は出ないって仕組みに似ている。


「カズキ、いろんな人に話を聞くのはいいけれど、鵜呑みにするのはダメよ。ロイスちゃんが森の国に居た頃はいろんな大人に魔術を教えてもらったけど、一つの魔術ことに対して全員が違うことを言う事なんて珍しくないもの。星は何のために輝いてるのかを聞いても全員が同じ答えを出すはずないもの。星は輝いているという事実があるだけ。魔術もそう。何のために魔術かなんて考えるだけ無駄なの。そういう魔術があるということだけが事実なの。そして、その事実をどう受け入れるかがカズキが考えなくちゃいけないところ。お分かりかしら?」


「結局は受け手次第って事か」


「そういうこと。カズキが違うと思えば、カズキにとってそれは違う事。カズキが合っていると思えば、カズキにとってそれは合っている事。それを他人と合わせようとするなんて無駄でしかないわ」


「だから、ロイスは裏魔術が使えるのか?」


「んー、言われてみればそうかもね。水は落ちるのが普通だけれど、噴水を見れば水だって空に昇ることができると思ったの。だから、流れる水もあれば流れない水もある。そう思わない人より、思う人の方がきっと裏魔術は使えると思うわ」


 思い込みの力ってすげーな。

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く