異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第179節

「カズキ様、夕食のご用意ができましたよー」


 アイリスの声が聞こえてくる。


「それじゃ行こうか」


 俺はフィルを連れて食堂へ向かう。
 既に肉の焼けた美味い匂いが二階にまで届いており、この匂いを嗅いだらどんな人間だって空腹を覚えるだろう。


「こりゃあ何の匂いだ?」


「ああ。焼肉の匂いだよ」


 一人暮らしになってからは未だに一度も食べていない。しかし、この匂いを嗅げば家族でホットプレートを囲んでいた頃を思い出す。ああ、腹が減ってきた。


「焼肉ってこんな匂いだったか?」


「まぁ俺の国の秘伝のタレを持ってきたからな」


 肉を焼いても家焼くなってアレ。
 俺は食堂の扉を開く。


「ご主人様……遅い」


 アンバーが不満の声を上げる。そりゃあ、一番美味い料理の傍で一番美味そうな匂いを嗅いでるんならそんな不満の声が出てもおかしくないだろう。


「待たせたな。とりあえず簡単に紹介するけど、こっちが俺の仕事の仲間のフィルだ。何人かは知ってると思うけど、俺が武闘大会で二回戦に当たった相手だ」


「よろしく」


 フィルは笑顔で短くあいさつした。


「さてと、飯が冷める前に食べるぞ」


 皆それぞれ何かを言いたそうにしていたが、俺だって腹は減ってるんだ。質問は抜きにして席に着く。
 俺が上座で両隣にゲストとしてセシルとフィルの席を設けた。
 テーブルの上では俺が持ち込んだ陶器製の食器が並べられており、白皿にタレが染み込んだ肉が盛られており瑞々しいレタスが添えられている。汁物としてカシワとタマネギのスープが並んでいる。そして俺にだけ白米が用意されている。他の皆はパンだ。
 焼肉をご飯で堪能できる俺はこの世界で特別な存在。そんな気さえしてくる。
 この世界で上手に米が炊けるのはたぶんアイリスぐらいのものだろう。


「カズキ様? どうかなさいましたか?」


「あんまりに美味そうだったんでな。ちょっと感動してた」


 俺は席についている者を見渡す。
 セシル、アイリス、ハリソン、ロージー。
 ジェイド、アンバー、フラン、フィル。
 それぞれが俺に視線をよこす。


「んじゃ、お前ら手を合わせろー」


 俺に倣って皆が手を合わせる。俺の掛け声で皆が手を合わせるのはある意味壮観だ。


「いただきます」


「「「「「「「いただきます」」」」」」


「「いただきます」」

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