異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第165節

「ロイス選手が生み出した無数の水球は容赦なくフラン選手に襲い掛かった!」


 実況者は何を見ているんだ。そんなことより、もっと見る所があるだろ。
 鮮やかな橙色の炎を纏った刀身。その刀身から舞う火の粉は舞い散る紅葉を連想させた。
 襲い掛かる水球、それをフランはその刀身で次々と両断する。すると水球は刀身に触れた瞬間、蛇の姿を形取り無数の蛇がその刀身を這おうとしたが数秒と経たず消え去った。


「バレちゃったか」


 キャッキャと笑うロイス。それとは対照的にフランの表情は険しくなる。


「そんなに難しい顔しないでー。こんなのただのお遊びじゃん。もっと楽しもうよー」


 ロイスは再び水球を生み出し、その水球を卵に見立て、ポコポコと蛇が生まれる。そしてその蛇はロイスの足元で数匹、十数匹、数十匹と蠢き始めた。


「悪趣味だ……」


 俺は思わず呟いてしまった。
 別に蛇が嫌いというわけではないが、あれだけ群れをなした蛇は誰だって生理的に嫌悪感を抱く。


「ニョロニョロっと進軍だー」


 ロイスの気の抜けた号令とともに蛇はフランへと這いよる。


「あれは上手いですね」


 ハリソンが思わず口にした。


「上手いって?」


「あの水の蛇は切られても再生をするという意味を持ち、単純な斬撃では効果がありません。しかし、フランさんは火の力を使い再生の力そのものを無力化。それに対しロイスさんは熱は上昇する性質から地を這わせることで火の力を有効に使わせないようにした。ということです」


「水に蛇の形を与えて意味を持たせるって、それってどう言う意味だ?」


「魔術師は支配下に置いた対象が多いほど制御が難しい。なので、あらかじめこういう時にこう動けという命令を対象に与えるのです。あの蛇一つ一つはきっと独立しているように見えて、ほぼ同じ命令を与えられていると思います」


「へぇー」


 魔術もまだまだ奥深い。
 フランは襲いかかる蛇を躱しながらも一匹一匹処理している。蛇の動き自体はそこまで速いものではないが、なにせ地を這いながらフランを囲もうとする動きだ。処理の速度が遅れるか、移動経路を間違えればすぐに囲まれ四方八方から同時に攻撃を受けることになるだろう。


「フランさんも見事ですね。対魔術師戦を数多くこなしているように見えます」


「分かるのか?」


「カズキ様はお忘れかもしれませんが、私も魔術師ですよ? 私も魔術師対策を行った戦士と戦ったことも少なくありませんから」


「なるほどね」


「魔術師は多くの魔術を持ち、遠距離戦に優れ、知識に富む傾向があります。それに対し、戦士は剣術や槍術といった武器に依存した戦術を取り、一般的に近接戦に優れ、筋力に富む傾向があります。単純に比較すれば戦士は魔術師に対し劣勢を強いられます」


「まぁそうだろうな」


「ただし、フランさんが噴水流を薙ぎ払ったように戦士は魔術師の支配下にある対象の支配を解くことができます」


「その理屈が分からん。俺も魔術を使ったのにロナルドにその支配を解かれた……んだと思う。むしろ、支配を奪われたって感じだ」


「単純に言うと距離の問題です」


「距離?」


「はい。魔術師は危険を避けるため接近戦を避けます。それに対し、戦士は危険に飛び込み接近戦に持ち込みます。その時、魔術師が操る対象はどちらに近いでしょうか?」


「……ああ、そういうこと」


「簡単な話、戦士はごく近い範囲において支配下に置かれた対象の支配を解くという技術を持ちます」


「でも、その理屈だと魔術師は戦士から次々に支配を奪われるんじゃないか?」


「そこで対象に込める魔力の量が問題になります」


「……ってことは、より多くの魔力を込めれば支配を奪われにくくなるってことか?」


「そういうことです。ただし、操る対象が複数の場合、その数だけ魔力の消費量も増える。なので、魔術師は操る対象を制限し、その対象により多くの魔力を注ぎ込む。例えば、あのロイスさん。操る対象はあの水球に限っているように見えます。なので、フランさんの刀身に触れても数秒は蛇の形を維持できた。逆に噴水流はその場にあったものを簡易的に使ったため、炎を纏っていない刀身でも支配を解くことができた。ということです」


「でも、あの水球の数も結構な量があるぞ? あれだけ一つ一つに魔力を込めてるのか?」


「たぶん、主力の蛇と撹乱する蛇に分けているのでしょう。魔力を多量に込めた蛇と僅かな魔力で生み出した蛇を混ぜているのでしょう。ロイスさんはこの試合をお遊びだと言いましたが、知的遊戯としてみているようですね」


 そういや、ハリソンもボードゲームが得意って言ってたしそういった分析力とか優れてるのか?

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