異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第161節

 俺はハリソンとの話を切り上げ、ショッピング中のロージーに話しかける。


「そんなに熱心に何見てんだ?」


「ああ、カズキ様。これらの商品がどれだけ売れているのかと気になりまして」


 そう言うロージーの手元を見ると、俺が持ち込んだ野菜だった。この世界ではまず目にしないタマネギだ。


「まだ食材としての認知は低いようで、調理法も分かりませんし、あまり売れ行きは良くないようですね」


「ああ……まぁ確かに」


 どんな料理に使えばいいのか分からないだろう。生で食べると辛いし。飴色になるまで炒めると甘味が出て美味しいんだけどな。


「他にもカズキ様が持ち込んだ食材が店頭に並ぶのを目にしますが、売れ行きとしては微妙な所ですね。味は間違いなく良いのですが、何かキッカケがないとこのまま食材が傷んでいきます」


「あー……まぁタマネギなら常温で二ヶ月ぐらいなら保つから大丈夫だとは思うけど、何かしら売れるキッカケを作った方がいいのか」


「ええ……味は申し分ないだけに惜しいですね……」


「……なら、試食をするしかないんじゃないか?」


「……試食ですか……」


「ああ。やっぱり、新規の顧客を獲得するなら入口は広くしないとな。ハードルを下げるためにも最初の一口は無料で提供するんだよ」


「無料……ですか……」


「ああ。まぁ短期的に見れば利益は少なくなるけど、長期的に見れば食材を買ってくれる人間が増えるからな。ある意味、シェア拡大の手法の一つだな」


「……その手がありましたか……いや、でも……」


「何か問題があるのか?」


「いえ……試食をするにしても、無料による提供はやりすぎでは?」


「こっちではそうなのか? 俺の国だと当たり前のようにやってるぜ。デパ地下とか」


「デパチカ? そういうお店があるのですか?」


「あー、まぁそんな感じ。今日の朝食で出たウィンナーとかもデパ地下で試食とかしてるんだぜ。無料で一本提供してはお客さんを引き込む手法」


「本当に無料でですか?」


「ああ、そうだけど……こっちだと無料で提供するのは何か問題があるのか?」


「いえ……無料で提供するということはそれだけお店の品格が下がると見られる可能性があるからです。お店は儲けのために存在しているのであり、お客のために存在しているわけではないというのが普通の考え方です。しかし、カズキ様の考え方であればお客にお店が媚びている様に感じます」


「ああ……。そういうことか」


 こっちだと客の立場より店の立場がまだ高いんだ。……それに不要な価格競争を避けるためか、一種の専売性に近い形態で店は営業している。単純に言えば、独占販売が当たり前なんだ。この国には商会がいくつかあるけれど、その商会に所属するメンバー同士で食い潰し合わないように調整してるのだろうか、あまり同じ商品を取り扱う店は少ないように感じる。
 そのせいか、シェアを奪い合うという行為そのものがあまり無い……ということか? 俺の推論が正しければ、これはある意味でのチャンスだ。まぁそのチャンスをモノにする場合、オルコット商会に戦争を仕掛けるみたいなものだから具体的な行動には起こさないけれど。


「何か分かったのですか?」


「ああ。少し長くなるけど聞くか?」


「はい」


 ロージーは少し興味深げに耳を傾けてきた。それに対し、俺は一つ一つ説明した。俺の常識がロージーにとっての非常識だったりして、それを説明するために二歩進んでは一歩戻るようなやりとりを幾度となく繰り返した。


「……驚きました。カズキ様は私なんかよりもずっと先を見ているのですね」


「まぁこういった考察は無駄にしてたからな」


 伊達に留年はしてない。無駄知識を収集した賜物とも言えるだろう。


「もしも、カズキ様がその気になればこの国で一番の商会を作ることだって夢ではないでしょうね」


「それは買い被りすぎだろ。今の話はあくまで机上の空論。裏付けのない話しさ」


「いいえ。少なくとも、元商家の娘の私の考える限り、カズキ様の推察はどれも的を射ています。カズキ様が仰るように全てが合っているとは限りませんが、どれも可能性として高い話だとも思います。その先見性と商品の価値と供給量、カズキ様個人で商会一つと同レベルの力があると今、確信しました」


「……そこまで持ち上げられると照れるぞ」


「そして、ロト殿下がカズキ様を引き込みたい理由もそういった所かもしれません」


「いや、ロトは俺の能力に期待してるからって――」


「いいえ、一国の王子がそう簡単に本音を語るとは思えません。それ以外の何かがきっとあるはずです」


「……そういうもんか?」


「ええ……お気を付けください。カズキ様はそのうち、人間からも命を狙われる可能性すらあります」


「……物騒な話だな」


「カズキ様の身体能力、発想力、先見性、どれも私達の先を行っています。その力を頼るものも居れば、怖れる者もいます。商売に成功した善良な商人が翌日には無一文になるような事があります。いつ誰がカズキ様に悪意を向けるかは分かりません」


「……」


「きっと、あの子はその事に既に気付いているのでしょうね……」


「あの子ってアイリスか?」


「あの子はとても賢い子ですから……カズキ様を悪意から守る。そんな事を考えているのかもしれません」


「だったら、俺はいい従者を持った」

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