異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第151節

 朦朧とした意識の中、誰かに担がれているのを感じる。
 白い視界で何も見えない。
 街の喧騒もどこか遠くに感じる。
 頬に当たるサラサラとした髪、俺より小さな背中。
 俺はこのまま身をゆだねても大丈夫だと思い、意識を手放した。


 気が付けば、俺はベッドに寝かされていた。外を見ると陽はすっかり沈んでいた。


「カズキ様?」


 すごく近くでアイリスの声がした。
 アイリスは俺の隣で横になっていた。


「あれ、アイリス……なんで」


「もう身体は大丈夫でしょうか? 寒くはありませんか?」


 アイリスは凄く心配そうにしていた。


「いや、寒くはないけど……」


「良かった……」


 アイリスはベッドから降りた。よく見るとアイリスの服に血が付いていた。


「アイリス! その血、どうしたんだ!? まさか試合で!?」


「違います! これはカズキ様の血です」


「お、俺の?」


 えーっと、そういや俺は急に眩暈がして倒れたんだったか。それをアイリスが運んでくれた……ってことでいいんだよな。


「アイリスの試合はどうなったんだ?」


「そんなことより、カズキ様は安静にしていてください。お腹は空いていませんか? 今から何か作りますよ?」


「あー……」


 食欲は無いが、腹が減っているせいか少し気分が悪い。こういう時は少しでも食べた方がいいか。


「なんか軽い物を頼む」


「分かりました。えーっと、カズキ様のお米を使ってもいいですか?」


「あー、そうだな。炊いた米とお茶を淹れてきてくれ。あと、わさびと醤油」


 この生活を始め、冷蔵庫が必要無い食材の備蓄は倉庫にある程度確保している。この世界の衛生観念を危惧しているのと、食事のたびにいちいち戻るのが面倒だからだ。


「わさびって……あの鼻が痛くなるアレですか?」


 この屋敷でわさびを好んで食べるのは俺以外にいない。俺は好きなんだけどな。


「ああ。こういう時はお茶漬けって相場が決まってるもんだ。もし、アイリスが病気にでもなったら俺が作ってやるよ。もちろん、わさび抜きのやつをな」


「その時を楽しみにしてます」


 アイリスはニコニコしながら部屋を出て行った。


「……ふぅ」


 体調は快調とまではいかないが、空元気を出せる程度には回復している。
 このまま寝たきりで居てもいいが、さすがに着替えたい。
 アイリスが来るまでに着替えぐらいはしようと立ち上がると、カチカチと音がした。音がする方に視線を向けると、窓ガラスの向こう側に壁に貼りついた男の姿があった。



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