異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第142節

「試合も大詰め! 互いの実力を引き出し合う二人! 特にカンザキ選手のあの機敏さ! 一回戦からは想像もできない! あの身軽なフィル選手と互角に渡り合っている! しかも舞台を破壊する程の怪力で振るわれる瓦礫の投射攻撃! 普通の人間ならば防戦一方だが、フィル選手は負けじと瓦礫を投射する! しかし、出場選手中、もっとも軽装なカンザキ選手はひるむどころか涼しい顔だ!」


 実況が観客を盛り上げ、観客は歓声を上げる。そして、俺のテンションも上がる。ここまで盛り上げられると不思議と戦いの恐怖心が薄らぐ。
 サンキュー実況。


「どうせ戦いの素人、型破りで行くぜ」


 戦いにおいて怖いのは修復不可能な怪我。しかし、アイリスは治癒の魔法が使えるらしい。なら、多少の怪我なら怖くはない。
 俺はメイスに付けた加重の魔宝石に通常以上の魔力をやや強引に流し込む。するとメイスは重さを増し、片手では扱えなくなる。


「避けろよ。フィル」


 俺はメイスをフィルに目掛けて振り下ろす。
 叩き潰すなんて生易しい火力じゃない。圧殺する暴力の塊そのものだ。
 フィルは俺の攻撃を避けつつ、俺をもう一度投げ技や掴み技で倒そうと試みるが、俺の今の自重はフィルの体格ではとても投げられないし、引き倒しもできない。短剣でこちらを攻撃するが、障壁によって半分は防ぎ、半分は根性で耐える。耐えるといっても、浅い傷ばかりだ。
 俺の半ば捨て身の攻撃は肉を切らせて命を断つといった鬼気迫る攻撃にフィルは少しだけ躊躇している。この場合、馬鹿なのは俺の方でフィルの方が正しい。戦いに生きる者ならいかに損耗を避け、負傷を避けるかが重要。でも、今の俺にはそこらへんはスッポリ抜けた……フリをしている。
 俺は肉体的に、フィルは精神的に、次元の違うチキンレースをしている。
 俺は自分の身体をベットし、フィルは集中力をライズしている。互いに降りる気がないまま十秒、二十秒と経過していく。
 何度攻撃したのか、カウントアップする意識も無くなりつつある。
 ただただ、舞台の縁を削り取る。二十メートル四方もあったその舞台が今では半分ぐらいにまで減っている。


「おい、兄さん! さすがにそれはやりすぎだろ!」


「いいや! まだだね!」


 俺の筋肉は疲れ、腕の筋肉が真っ白になったような錯覚を覚える。しかし、それでも笑みは絶やさない。笑みは自分への鼓舞であり、相手の精神を折ることができる。少しでも相手に不気味だと思わせられるなら儲け物だ。


「……分かった。俺の負けだよ兄さん」

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