異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第136節

「てめぇ!」


 大男の矛先は一瞬にして割り入った人物に向けられた。


「少年。君の方が冷静そうだ。しばらく、離れていてくれないか」


「ん? ああ、じゃあ任せた。二人とも、来い」


 俺は二人の手を取り、男の方を振り向く。もちろん、挑発の意を込めてだ。


 大男は更に怒り、眼前の男に殴りかかろうとする。一応、腰に得物は付けているがそれを抜く程には正気を失っていないらしい。
 謎の人物、フードを被り全容は見えないが、声からして男。口振りからして中年から壮年ぐらい。背は俺より高いが、特別高くはない。170センチ後半ぐらいだろうか。腰には細身の剣を装備している。


「君はもう少し、体幹を鍛えた方がいい」


 細身の男は大男のパンチに対し、カウンターとして掌底を胸に叩き込む。


「ッカ!?」


 奇妙な声を上げながら男は目を白黒させる。それに間髪入れず細身の男は鋭い突きを腹部やや上、みぞおちと呼ばれる急所に叩き込んだ。
 大男は呻き、立っていられず、そのまま細身の男に寄りかかるように倒れた。


「少年。少し手伝ってくれないか」


 大男に寄りかかられたままの細身の男は俺にそう声をかけた。


「……ああ」


 ここまで圧倒する戦いを見たのは初めてだ。俺には無い戦いの技術。相手を的確に弱らせる攻撃。目の当たりにするとさすがに息を飲んでしまう。俺の眼に相手の実力を正確に測る力はないが、少なくとも俺より強い。レオとどっちが強いかと聞かれても俺は答えられない。それぐらいの力、というより技術を見せつけられたからだ。
 俺は細身の男から大男を受け取り、肩に担ぎ上げて運ぶ。


「少年、悪いね。後始末をさせてしまって」


「まぁ元々俺に売られた喧嘩ですから」


 運営側の人間が療養室に通してくれる。一応、こちらも運営側の設備で怪我の治療を受けることができる。勝者、敗者に関わらずだ。
 俺もアイリスも怪我は無いから今回は特に利用するつもりはない。
 俺は運営側の人間の指示に従い、起き上がれないものは布が敷かれた床に横たわらせ、また会場に戻る。


「少年……いや、カズキ君だったか。勝手に首を突っ込んで申し訳ない」


「いえ、謝られるようなことじゃないですから」


 もし、俺があの大男を殴っていたら素人パンチでも恐ろしいことになるだろう。まぁたぶん、俺の拳の方もいかれるだろうからあんまり素手で殴り合いはしたくない。


「それにしても、先ほどの攻撃は凄かったですね。掌底で動きを止めてからの突き、あれだけ動けないようにするってことは狙ってみぞおちを狙ったんですよね?」


「ほう。今の動きが分かったのかね?」


「まぁ見たまんまだったんで」


 漫画とかでは地味系の部類の戦いだが、この細身の男は一秒未満の間に二撃を加え、その二撃であの大男を倒してしまった。この世界でも重さはパワーは通用するが、これだけの技術を前にすると俺の力もあまり関係ないかもしれない。


「カズキ君、君とは是非戦いたい。三回戦で待ってる」


「三回戦? えーっと、名前は?」


「ロンだ。それでは」


 ロンはそういって笑った。フードを目深にかぶっていたが、最後の最後でその口元が見えた。紳士髭を蓄えたほうれい線の浮かぶ初老の男だった。

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