異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第123節

 翌日。
 夜分に襲われることもなく快眠を経て目覚めた俺は現代の自宅で着替えをし、普段はあまり使わない工具入れ用のポーチを腰に付ける。中には各種魔宝石と魔石、それから現代小道具を何個か入れている。
 そして、異世界に戻ると式典会場まで送るという馬車が手配する申し出を受けたが、そちらの方は断った。なにせ、自分達の馬車があるのに人様の馬車に乗るのは気が引けるからだ。
 ロージーに馬車を用意させ、皆で乗り込み、各々が固まって座り込んでいる。いつものようにハリソンとロージーが御者台、ジェイドとアンバーが荷台の後方、俺とアイリス、それにフランが荷台前方で固まっている。
 俺はなんとなくアイリスの頭を撫でた。


「カズキ様、どうかしましたか?」


「いや、こうしたかっただけだ」


 俺はアイリスの長い髪を手櫛で梳く。
 あの時、アイリスの事を思い出さなければこの荷台に乗る人数が一人増えていた。
 今ではあの時、雰囲気に流されなくてよかったと思える。


「飴食べる?」


「いいんですか?」


「いいよ」


 俺の膝にアイリスの頭を乗せ、飴玉を直接口の中に入れる。飴玉を含むアイリスの口になぜかドキリとした。
 ダメだなぁ。昨日の今日だから、意識してしまう。
 俺は頭を振ると、フランが一点を凝視しているのに気がついた。
 フランは飴玉の包装紙を凝視していた。


「どうした?」


「いえ……」


 そういや、コイツは昨日、酒を飲んで酔いつぶれていたっけか。そういえば、少し顔色も悪い気がする。ムチとして二日酔いの刑にするか、アメとして酔い止めを渡すか。
 …………。
 まぁ今日は武闘大会、実力を出せないというのも悲しい話か。
 つくづく自分が甘い人間だと認識させられる。


「ほら」


「主、いいのですか?」


「ああ。その飴玉分ぐらいは良い戦績を出してくれ」


「分かりました!」


 フランは速やかに飴玉を口に入れた。
 その時、うっすらと酒の匂いがした。
 …………。
 こっちが酔いそうになる。


「カズキ様、そろそろ式典会場に到着します!」


 御者台からロージーの声が聞こえる。そういや、周囲の雑音も大きくなっているせいか、ロージーも大きな声を張り上げてる。


「あれ? 武闘大会の会場に行くんじゃないのか?」


「式典会場がそのまま武闘大会の会場になります! さすがに多くの国民を収容できるほどの施設はいくつも建てられるわけではありませんから!」


「ああ。そういうこと」


「一応、カズキ様の名前で会場の最付近まで近づくことはできましたが、ここから先は徒歩じゃないとダメだそうです!」


「ああ分かった。それじゃ、みんな降りろ」


 俺の支持でてきぱきと動く。ジェイドが先に荷台から降り、アンバーが荷台の隅に置いてある足場を運び出し、ジェイドが設置する。そして俺達が順番に降りる。
 …………。
 既に会場は人で溢れ、この国の国民の全員が集まったのではないかと思う程に多い。明らかに病人や怪我人、あるいはカタギじゃない人間や、俺が知らない種族もいる。


「よく集まってくれた! 陽の国の民達よ!」

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