異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第114節

 スーツを身に纏い、ネクタイを締め、タイピンを付け、姿見で一応チェックをする。
 髪は跳ねてないか。襟回りにフケは落ちてないか。エリが立ってないか。袖のボタンは留めたか。
 王城にこれから向かうというのに、あまり緊張感はない。たぶん、来年の今頃の俺なら就活一つで緊張するんだろうが。
 ちぐはぐな自分の胸中に自分で苦笑する。
 俺は黒の革靴を履き、本当の意味での紳士の社交場へ向かった。






 今日の王城はいつにも増して賑やかだ。
 城門入口では受付を行い、馬車を預け、中に入る。
 老若男女、それどころか種族を問わず多くの人間がいた。背の高い者や低い者、華奢な者や頑強そうな者。それら一人一人が王侯貴族なのだろう。
 適当に人間観察を行っていると兵士の一人がこちらに歩み寄ってきた。


「カズキ殿。お待たせしました。お連れ様の衣装をご用意していますので、ついてきていただけますか?」


「ああ」


 振り返ると、今いる面子の中でフランだけが少し浮き足立っていた。
 そういえば、ハリソンやロージー、アイリスは貴族出身だったし、ジェイドとアンバーはこの城に勤めていたんだ。何度かはこういった場にも立ち会ったことがあるのだろう。


「フラン。緊張してるのか?」


「いや、緊張じゃないんだけどな。どうにもこういった楽しげな雰囲気にいると血が疼くんだよ」


 フランは危ない人かもしれない。


「なにが疼くんだ?」


「冒険者時代の時は人が集まればまずは酒だ。体が酒樽になるかと思うぐらい飲んでたからな……主、アタイにも少しは酒を飲ませてくれるんだろう?」


「まぁいいけど」


 フランは俺を主と呼ぶ割には少し気やすい気がする。それが冒険者特有の性質なのか、それともシーク人の性質なのかは分からない。ただ、俺はそんなフランとの距離感はそこまで嫌いじゃない。主従でありながら友人同士で接するような一面を時折見る時がある。
 フランは嬉しそうな表情を浮かべたまま軽快に案内する兵についていった。


「カズキ様」


 話しかけてきたのはアイリスだった。


「どうした?」


「カズキ様はフランさんととても仲が良いように見えますが、何かありましたか?」


 そう俺に訊くアイリス。しかし、俺に思い当たる節はない。何も特別なことはないからだ。


「いや何もない」


 俺は考えた末、そう答えた。するとアイリスが突然、俺の胸に顔を埋めてきた。


「アイリス、どうしたんだ」


「なんでもないです」


 アイリスは俺の胸に顔を埋めたまま喋った。
 スーツが少しだけシワになる。
 俺はアイリスの肩を掴んで優しく離した。


「大丈夫? 飴食べる?」


「もういいです」


 アイリスは少しだけ立腹そうな表情を浮かべて案内役の兵士を追った。


「何なんだろうな」

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