異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第101節

 扉を開けるとフランが立っていた。
 そういえば、まだボロ布で身を隠しているだけだっけか。


「どうした?」


「少し話したい」


 まぁ一段落してやることもなくなったしな。


「分かった。とりあえず、中に」


 フランを招き入れる。
 室内にはベッド、テーブル、椅子、クローゼット、暖炉といった家具があり、飾りとして絵画や花瓶等もある。
 俺とフランは椅子に座り、テーブルで向かい合う。


「どうした?」


「相談があって……」


 随分と歯切れが悪い。


「その……アタイは元冒険者だけどさ……さすがに得物もないで護衛をやれって言われて、困ってんだ」


 まぁ確かに丸腰で護衛もひどい話か。


「ああ。それなら明日にでも調達しに行くか」


「いいのか?」


「そりゃいいさ。俺は仕事に必要な道具は奴隷にもきちんと与えるようにしてるからな」


「……やっぱり、奥方の言ってた通りなんだな」


「奥方?」


「ああ、ロージーさんの事。主が研究室とやらに篭ってる間に少し話してたんだ。主は優しい人だってさ」


「まぁそれは受け取り方次第だろ」


 どちらかといえば、俺自身は奴隷の主らしく偉そうに接してたつもりだ。……まぁ誰が俺の事をどう思おうと勝手だし、あまり気にしないように心掛けているつもりだけど。
 俺のぶっきらぼうな物言いにフランは少し笑った。


「主はアタイが思ってたよりもずっと良い人なんだな」


「それはどうかな」


 俺はあえて悪い笑みを浮かべてみせた。しかし、フランはそれさえも微笑み返してきた。


「アタイは奴隷になってからどんなひどい目に合わされるかずっと不安だったのさ。シーク人の冒険者だったけど、奴隷の身分になれば自分の身を守る守らないも主が決める。アタイは自分の力だけでこの世界を渡ってきたのにさ、自由に自分の力が使えない事が凄く恐ろしかったのさ」


 あまりピンとこないが、自分の力に枷がかけられるってのは不安ってニュアンスでいいんだろうか。


「今はもう不安じゃないってことか?」


「まぁね。主は良い主だってあのお嬢ちゃんに太鼓判を押されてね」


 アイリスの事か。


「ここに来て、新参のアタイにまで部屋が用意してもらえるなんて到底思ってなかったのさ」


「さすがにこれだけ広い屋敷だぜ。使わない部屋を使わないままにする理由もないだろ」


「まぁ確かにそうだけどさ、アタイが知ってる奴隷の所有者ってのは奴隷に与えるものは絞るのが普通さ。飯だって最低限。暖をとる薪もない。奴隷同士が寄せ合って凍え死にしないように知恵を使う程度しかできなかったのさ」


「……それは実体験か?」


「いや、そうじゃない……」


 饒舌になっていたフランの調子がストンと落ちた。わりと感情的な部分があるらしい。シーク人の特徴だったかな?


「まぁいいや。とりあえず、用件ってのは武具の調達だけか?」


「ああ。贅沢は言わないからさ、片手剣の一本でもあればアタイは戦える」


「んー、分かった。適当に予算を作るから、その範囲内で自由に使ってくれ」


 俺は異世界用の財布を取り出し、相場を考えようとしたが止めた。武具をケチって怪我をさせるのはなんとなく間違いな気がしたからだ。


「とりあえず、これだけ渡しとく」


 金貨を五枚取り出してみせた。これだけあれば武器と防具ぐらいは買えるだろう。


「ええ! こんなにかい!?」


「多すぎたか?」


「多すぎってもんじゃないさ! これだけあれば魔剣だって買えるさ!」


「だったら、魔剣でもいいよ。とりあえず、その資金の中で武器と防具を揃えてくれ」


「本当にいいのかい?」


「ああ。こういうのも変だが、あんたの実力はロト殿下のお墨付きだからな。名手に名剣は付きものだろ?」


「……そうかい。なら、その期待に応えなくちゃね」


 フランはその金貨五枚を握りしめた。


「ああ。存分に応えてくれ」

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