異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第97節

 ロトとの話を終え、俺達は新しい住処に向かった。
 城から新居までの道程は馬車二台が余裕ですれ違える程度に広く、レンガによって舗装されていた。道一つとってもこの界隈は上流階級であることがうかがえる。
 今は俺とフランが兵士の馬車に、残りのメンツはロージーの馬車に乗っている。
 準備の良いロトは奴隷の譲渡の手続きすら直ちに済ませていた。


「えーっと、フランだったか」


「……ああ」


 俺が名前を確認し、フランは肯定する。
 フランの恰好はボロ布を身に纏い、局部とその周囲を隠す程度だ。
 元冒険者というだけあって、胸を除いて無駄な肉はない。少し髪や肌が荒れているが、きちんとした生活を送れば元に戻るだろう。


「俺は神崎一樹。神崎が家名で一樹が名前」


「カン……ザキ……カズ……キ……」


 密室空間に俺とフランの二人きり、フランは俺を警戒し、そんなフランに俺も警戒する。


「フランは借金で奴隷になったんだってな?」


「……ああ」


「なんで借金なんか作ったんだ?」


「…………」


 言いたく無いらしい。


「まぁ言いたくないならいいや」


 酔い止め代わりの飴玉を口に入れ、いつもの癖でフランにも渡す。俺はグレープ味、フランにはオレンジ味を渡す。


「……これは?」


「酔い止め代わりの飴玉。噛まずに口の中で転がすんだぞ」


 フランは俺を真似て包装を解き、オレンジ色の飴玉を口に入れる。


「……甘い……」


 そう呟いたフランは何故か目に涙を浮かべた。


「大丈夫か!?」


 俺は思わず立ち上がり、フランの肩を掴んだ。


「い、いや。なんでも……」


 フランは目元をゴシゴシと拭って顔を俯かせた。
 俺はフランの肩を放し、席に座る。
 まさか、急に泣き出すとは思わなかった。


「…………」


「…………」


 互いの間で気まずい雰囲気が流れる。
 手持無沙汰になった俺は吸魔石にせっせと魔石を与え、魔力を吸わせる。
 方法はいたって簡単。吸魔石に魔石を接触させるだけで魔力が移動するらしい。
 吸魔石にも一応、蓄えられる限界はあるらしい。俺が貰った吸魔石で言えば平均的な魔石の千個分に相当するらしく、宮廷魔術師に支給される吸魔石と同様のものらしい。
 俺自身、魔力を感じる力がないためどうしても実感が湧かないが、吸魔石の存在はハリソンが肯定してくれ、俺の手元にあるものも吸魔石に間違いないと太鼓判を押してくれた。


「主」


 俺の事をアルジと呼ぶフラン。それがご主人様とか主君を表す主だという言葉に繋がるまで僅かな時間がかかった。

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