異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第93節

「この国を見て?」


「ああ」


 そう訊かれても特に感慨深いものはない。本当に何もない。


「特にないな」


「カンザキ=カズキ……いや、少し呼び方を変えようか。カズキ、この国に来てどれぐらいになる?」


「二週間ぐらいかな」


「その間に知り合った者の顔を浮かべてみろ」


 命令口調なのは気に食わないが、言われた通り浮かべてみる。
 そうすれば確かにそれなりの数の人間と知り合った。
 鑑定屋のリコ、冒険者のジム、宿屋の徒弟のエイブ、元貴族のハリソン、ロージー、そしてアイリス、オルコット商会のチャド、魔宝石商のアメリアとバーナード、第二王女のクリスティーナ、親衛隊副隊長のレオ、双子メイドのジェイドとアンバー。
 俺に親切な人間が多かった気がする。
 この世界において、見知らぬ他人は常に魔族の可能性を抱えたまま接することになる。その上、俺は外国の、それも誰も知らぬ土地からの来訪者という位置づけ。にもかかわらず、俺は迫害を受けるどころか、むしろ感謝されることの方が多かったように思える。


「カズキ。その者達が魔族の凶刃に晒され、怯えて暮らす日々を送ることをよしとするか?」


「いや、まぁそれは嫌だけどさ」


「そうだろう。俺はこの国の王子、ならばこの国の民が皆、怯えず暮らせる日々を送ってほしいの願う気持ちが少しは分かるか?」


「……まぁ多少は」


「カズキ、お前に兄弟はいるか?」


「いないですね。一人っ子ですから」


「では、お前を慕う人間はいるか?」


 そういえば、現代で俺を慕ってくれる人間は一人もいない。しかし、こっちでは不思議とアイリスが慕ってくれている。


「いるようだな。俺にも慕ってくれる人間がいる。例えばクリスだ」


 たぶん、クリスティーナの略称だろう。


「そんなクリスを俺は強く守ってやりたいと思う。カズキ、お前もお前を慕う人間が窮地にいた時、守らなければならないと思わないか」


「いや、思わないね」


 つい、思ってもいないことを口に出した。


「例えば、お前が強く欲したあのハーフ」


 無意識の内に俺の眉間に皺が寄っていた。


「アイリスだったか。奴隷として買い求め、奴隷として分不相応な待遇を与えているな」


「それがどうかしたか?」


「それに、あの双子の召使い」


 ハリソンが言っていた通り、俺は幼女趣味に思われているようだ。心外だ。


「そういったか弱い者達が魔族の暴虐に晒されて構わないと」


「…………」


 そこまで具体的に言われるとさすがに否定がしにくくなる。


「それにクリスもだ」


 なんだ? なんでここでクリスティーナの名前が出る?


「俺はいずれ王となる。王となれば、民のため尽力せねばならない。その時、俺はクリスを守り続けられなくなるだろう」


「レオがいるだろう?」


「ルーカスか。奴ではダメだ。奴はクリスに従順すぎる」


「従順すぎて何が悪い?」


「従順すぎるということは自分の意志を持たない人形だ。良い時は良く、悪い時は悪い。つまりは共に歩く者ではなく追従する者だ。クリスには共に歩み、時に引っ張るような存在が傍にいなければならないと思っている」


「まぁそりゃその方がいいだろうが」


 なんだか話が妙な方向に向いてきたぞ。


「カズキ。クリスと結婚する気はないか?」

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