異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第91節

「カンザキ=カズキだな?」


 突如現れた兵士、革の軽装備を身に纏い、片手剣を腰に差している。


「ああ、そうだけど」


「ロト殿下が貴様を呼んでいらっしゃる。来てもらうぞ」


「待て待て、ロト殿下って誰さ」


「何!? 貴様、ロト殿下を知らぬのか!?」


 驚愕の声を上げた兵士は剣に手をかける。


「待ってください!」


 ハリソンが俺と兵士の間に割って入った。


「カズキ様は遠い地より来たため、この国についてあまり詳しくないのです」


「しかし、殿下の名を知らぬ等、不敬である!」


 兵士はひどく怒りを覚えているようだ。


「不敬だからと殿下がお呼びになっているとなれば、カズキ様は客人です。それでも手にかけるのですか?」


「クッ……」


 どうやら兵士はハリソンに言いくるめられたらしい。


「それで、ロト殿下が俺を呼んでる理由は何なんだ?」


「それは俺の知ったことではない。貴様は殿下の命令に従えばいいのだ」


「…………」


 さてと、どうしたものか。
 連日、金策に走ったためわりとルーチンワークに飽き気味だ。ある程度の資金も調達でき、余裕もできた。クリスティーナからの招集もなく、簡単に言えばやることがない。


「分かった」


「馬車を用意してある。付いてこい」


「あ、こいつらを連れて行ってもいいんだよな?」


「こいつら?」


 兵士は俺達面子を眺める。


「こんなに乗り込めるわけがないだろう。来る分には構わないが、徒歩で来るんだな」


「仕方ないか。俺ともう一人ぐらいは乗れるんだろう?」


「……それぐらいならいいだろう」


「そうだな……じゃあ、アンバー。来い」


「……私ですか」


 いつもならアイリスを横に置いておきたいが、ロト殿下って奴について聞きたい。このメンツで言うならジェイドかアンバーだが、なんとなくアンバーを選んだ。


「他は馬車で来てくれ。ロージー、御者を頼む」


「はい。カズキ様」


 話は済んだ。
 俺とアンバーは兵士が用意した馬車に乗り込む。
 馬車に乗るのは俺とアンバーの二人で他には誰もいない。元々、二人掛けの馬車のようだ。


「アンバー、ロト殿下について教えてくれ」


「ロト殿下についてですか……何から話しましょうか?」


「まず、どんな奴なんだ? 外見やら性格やら何でもいい」


「……そうですね。まず、クリスティーヌ王女様の兄で王位継承第一位ですね。各国の王女様と縁談があるそうですが、まだ特定の人はいないそうです。剣術や槍術、弓術も優れており魔法に関しても並の魔法使いでは相手にならない程。陽の国の王子にふさわしく活性の魔法を使います」


「活性の魔法がなんで陽の国の王子にふさわしいんだ?」


 アンバーが手を差し出す。これはチョコレートを要求している仕草だ。
 俺は菓子袋からチョコレートをひとかけらつまみ、アンバーの手のひらに置く。
 アンバーはそれを受け取ると、食べずに懐に仕舞う。後で食べるようだ。


「ロト殿下の魔力の性質は陽、つまり元気や活力です。肉体的な能力の向上、応用として治癒も行えます。そのせいかは分かりませんが、生まれてから一度も病気になったことがないそうです」


「それはすごいな」


 やっぱり個人によって魔力の性質が違うのか。ハリソンも風や光が得意って話もあったし。


「そのせいかは分かりませんが、非常に好戦的な方です。今の陽の国の王様が春の陽光だとすれば、ロト殿下は夏の日差しのようなものです」


 なるほど。同じ陽光でも確かに違うな。それと、この国でも四季はあるのね。


「あまり詳しくはありませんが、今話題になっている軍の編成。ロト殿下の性格を考えればかなりの大軍を編成していると思われます」


 まぁ戦力の逐次投入は損耗を増やすだけだから、大群による短期決戦はある意味正解だ。まぁこの世界の戦争ってのが俺の常識の範囲内であればの話だけど。
 そしてまたアンバーは手を差し出す。今日は稼ぎ時だと言わんばかりだ。まぁこういう所は扱い易いので気にはならないけど。
 チョコレートをちょこんと乗せる。


「今回の呼び出しは私の推測ですが、兵糧についてだと思われます。ご主人様から頼まれて商品をオルコット商会に卸す際、ロト殿下の親衛隊の一人が食料の買い付けに来ていたのを見たことがあります。なので、ご主人様と直接食料の買い付けをして兵糧を蓄えたいといった所だと思われます」


 なるほど。確かに筋は通っている。ここ連日は食料を下ろしてばかりした後の唐突な呼び出し。アンバーの推測は可能性の一つとしては十分にあり得る。


「分かった。アンバーの話を聞いて腑に落ちた」


 俺はオマケとしてチョコレートをもう一粒手渡し、アンバーは無表情に受け取ってそそくさと仕舞った。



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コメント

  • ノベルバユーザー254917

    メイドが主人の命令を聞くのに対価を要求するのは如何なものか?押し付けられたメイドなのに調子に乗りすぎ。

    1
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