異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第81節

 俺達が宿に戻ると小柄な少年、宿屋の徒弟であろうエイブがやってきた。


「カンザキさん、先ほどお客さんがお見えになりましたよ」


「客? 名乗ってなかったか?」


「魔宝石を加工する職人さんのお弟子さんという方でした」


「ああ」


 魔石を加工して装飾品にしてもらい、現代で売り払う計画をしていたっけか。


「用件は何か言ってたか?」


「依頼が終わったので来てください。だそうです」


 お、もう終わったのか。


「分かった。言伝、ありがとう」


 俺自体はチップの国の住人ではないが、こういう時はたぶん渡した方がいいのだろう。大銅貨を一枚、エイブに渡す。


「ありがとうございます!」


 エイブは嬉しそうに大銅貨を一枚受け取った。素直に受け取ったことから、チップの風習はこっちの世界でも通用するようだ。


「ハリソン、ロージーとジェイドとアンバーを連れて昼飯に行ってこい。昼飯が済んだら、全員ですぐに宿に戻る事。俺とアイリスは荷物を置いたら少し出かける」


 俺は財布から大銀貨を一枚取り出してハリソンに手渡す。


「いつごろ戻られますか?」


 大銀貨を受け取りながら、ハリソンが尋ねてくる。


「そんなに遅くはならないと思う。遅くとも日が沈む前には戻ってくるさ」


「分かりました」


 俺は一度、部屋に戻り酒類を調達した後、アイリスと共に宝石加工職人の所に出かけた。
 アイリスは俺の手の傷が気になるのか、道中も俺の手を握っていた。


「アイリス。回復魔法って魔力を結構使うのか?」


 俺はアイリスに尋ねてみた。


「そうですね。回復魔法はかなり多くの魔力を消費します」


 かなり多くか。魔力を数値換算できないから、その多寡が分かりにくい。


「魔石があれば少しは消費を抑えられるのか?」


「はい。魔石があれば自分の魔力を使わずに済みますし、いざと言う時に安心です」


「そうか」






 目的地に着き、職人のおっさんは丁度昼飯を食べている所だった。


「おっす」


「お、来たか坊主」


「ああ。昼飯の所、邪魔して悪いな」


「いいさ。どうせ味気ない昼飯だ」


 おっさんが食べているのは弁当のようだ。といっても、かなり簡素でパンとちょっとしたオカズぐらいしかない。


「とりあえず、これ」


 俺は特に前置きなく酒を取り出した。もちろんビールだ。


「お。これを待ってたんだよ」


 おっさんは缶のプルタブを空けて、ゴクゴクと美味そうに飲む。


「今日はまだ仕事するんだろ? なのに昼から飲むのか?」


「仕事をするから飲むんだぞ?」


 ああ、そういう文化圏なのね。


「そうそう。頼まれてた件だが、あんなもんでよかったか?」


 おっさんが指差す先、加工台の上にいくつもの指輪が無造作に置かれている。


「これはもう持って行っていいのか?」


「ああ、いいぜ。まだ仕事があるなら持って来い」


 俺は加工台の上にある指輪を一つずつ確かめながらリュックの底に仕込んである現代に通じるイラストに入れる。そして、指輪の中で気に入った青い宝石の指輪をアイリスに渡す。


「アイリス、これはお前にやる」


「いいんですか?」


「治療してもらった礼だよ」


 そこでアイリスの指の太さと指輪の大きさが合ってないことに気がつく。
 周囲を見渡し、何か良い物がないかと物色するとネックレスで使いそうな細い鎖が目に入った。


「おっさん。この鎖って売り物か?」


「それか? 売り物じゃなくて素材だよ。気に入ったんなら銀貨3枚で売るぞ」


「ああ、じゃあ買おうかな」


 俺は財布から銀貨を取り出しておっさんに渡してから鎖を手に取り、その鎖に指輪を通す。


「とりあえず、これでいいだろう」


 アイリスの首にかけてやる。首輪の上からネックレスというのも不格好だが、まぁいいだろう。


「おっさん。世話になったな」


「仕事だからな。また酒と仕事を持ってきてくれ」


 おっさんはグビグビと酒を飲んだ後、その缶を掲げる。


「じゃあな。坊主」

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