異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第70節

「私が行商を終え、サニングに戻ろうとしていた所、一人の村人と会いました。その村人はとても焦った様子だったので、私が雇っていた傭兵の一人が事情を聴くと、その男はしどろもどろながらも、十匹を超える狼に似た魔獣が村を襲い、自分はオークス様に助けを求めるため飛出してきたと説明しました。その話を聞いた私達はその村を助けなければと、その男を馬車に乗せ急いで村に向かいました。しかし、村に着くと魔獣は逃げ去った後でした。村人に話を聞くと、見知らぬ青年が鉄の棒一本だけで魔獣を追い払ったと言うのです。私は興味を持ってその青年を探し、すぐに見つけました。しかし、その青年は青年というには幼い顔立ちだったので私は驚きました」


 俺の事をそんなふうに思ってたのかよ。自分だって童顔の癖に。


「私は話しかけました。しかし、その青年は私の言葉が分からないようで、私にとっても聞きなれない言葉を口にしていました。たぶん、私の言葉が分からないと言ったのでしょう」


 その通り。


「私はすぐに翻訳の耳飾りと首飾りの魔装を渡すと青年は私の言葉が理解できるようになり、驚きました。そして互いに自己紹介をしました。それが彼、カンザキ・カズキさんだったのです」


 懐かしいな。もう一週間ぐらい前の話だ。


「彼はたまたま村に立ち寄り、魔獣に襲われた村人を助けるため、ろくな装備も無い中、火かき棒一本で魔獣を追い払い、それだけでなく村人の治療にまで手を貸したそうです」


 そういや、アニーはあれから大丈夫だろうか。無事に回復したのか確認しないとな。


「カズキさんは魔獣を追い払った見返りを求めることなく、それどころか高価な薬を使って村人一人一人の治療をした姿がまるで私が子供の頃に聞かされた英雄譚を彷彿とさせました。勇気を宿した心で魔族に立ち向かい、慈愛に満ちた心で村人を治療する。本当に胸を打たれた気持ちでした」


 クリスティーナに聞かせるために脚色した話と分かってはいても背筋が痒くなる思いだ。
 話しているセシル自身、興奮してきたのか椅子から立ち上がり、力説する。スポットライトと観客が居ればちょっとした舞台になりそうだ。


「それから私はカズキさんと多くの言葉を交わしました。カズキさんは魔法や魔族が無い国からいらっしゃったようなので、私は色々と話しました。そんな時間が約二日。その間にもカズキさんはこまめに村人を診察しては村人達から人望を集めていました。それでもなお、カズキさんは自分からは決して見返りを求めませんでした。時折、村人から食べ物を受け取るときはとても丁寧な物腰で礼節を尽くしていました。そんなカズキさんを私は街への帰路へカズキさんを誘いました。残念ながら、この申し出は断られましたが、後日、オルコット商会の扉を叩いてくださいました。これが私とカズキさんとの出会いの物語です」

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