異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第64節

 オルコット商会はいつも通りの活気があり、いつものお姉さんにいつも通りセシルを呼んでもらった。


「いらっしゃいませ、カズキさん」


 セシルは俺を商談室に招き入れた。


「それがカズキさんの国の礼服なんですか?」


「ああ。スーツって言って日本男児のほとんどは冠婚葬祭にこれを着る。とりあえず、贈与品はこれで。あと菓子類も調達してきたから、これサンプル品ね」


 入浴セットとお菓子をセシルに渡す。


「ありがとうございます。支払いはいつも通り金貨で?」


「いや、贈与品やらサンプルに金はいらないよ」


「そうですか」


「それに今は金貨不足なんだろ?」


「ええ。カズキさんのおかげで商品は増えましたが……最近のお客は食品類が値上がりして新商品に手を出さない傾向があるようですので……恥ずかしながら、現金不足です」


 食品の値上がりか。


「確か、魔獣が出て収穫が減ってるとかって話だったっけ?」


「はい。それでも、王族や貴族はこんな時でも新商品に興味を持っていただけるお客さんですから、今回の会食は成功させたいところです」


「にしても、新商品に興味を持つのは分かるけど、その商品を持ち込んだ人間、まぁ俺の事だけど、興味を持つって変な話じゃないか?」


「たまにあるんですよ。異国の人間が持ち込む商品を見て、その人間はどんな国でどんな生活しているのか、そしてどんな面白い話を聞けるのか」


「つまりは人の話が娯楽になるってことか」


「砕けて言えばそういうことになりますね」


 まるで人をサーカスの珍獣扱いだ。


「まぁ話題には事欠かないだろうけど、たぶん信じられないような話ばかりだと思うよ」


「例えばどんな話でしょうか?」


「オルコット商会の商館よりでかい鉄でできた船が空を飛ぶって言ったら信じられるか?」


「さすがにそれは冗談ですよね?」


「ほらね」


 まぁ理解してもらうつもりも納得してもらうつもりもないんだけど。


「……本当なんですか?」


「まぁ何十年とかけて研究した結果だから一朝一夕でできるような話でもないからね」


 そこでふと思い出した。


「そういえば、魔法で空を飛んだりしないのか?」


 魔法使いが空を飛ぶなんて、こちらの世界の人間から見れば夢物語だ。


「できないことはないらしいんですが……」


「らしいって?」


「たぶん、そういった話ならカズキさんの奴隷に聞いた方が詳しいと思います」


 まぁ餅は餅屋か。


「ハリソン、どうなんだ?」


「確かにできないことはないです。ただし、非常に危険が伴います」


「たとえばどんな?」


「まず、飛行中に魔力が失われた場合、墜落する危険です」


 燃料がない飛行機みたいなものか。滑空制御とかできれば話は別なんだろうけど。


「それと、よくある事故なんですが、空を飛ぼうとした結果として四肢だけが飛び千切れたり、内臓が破裂していたりといった事が……」


 それってやばいじゃん。


「一時期はほうきのような媒体に跨り、そのほうきを飛ばす事によって擬似的に飛行を可能とした時代もありましたが、魔法使いという希少な人材を多く失った国は結果として飛行魔法は禁止となってしまったんです」


「そういえば、魔法使いって日常的に魔法を使う事ってないのか? あんまり街中で魔法を使う人間を見かけないけど」


 俺はハリソンに尋ねた。


「消費した魔力は回復に時間がかかります。なので、日常的に使う人はあまりいません」


「具体的にはどれぐらい回復にかかる?」


「そうですね。私であれば、魔力を失っても一週間で元の魔力量に戻ります」


「それを早める方法はないのか?」


「魔力の回復には呼吸や飲食が必要です。なので、魔力がある土地で過ごし、活力のある食事をとれば一般的に魔力の回復が早まる傾向があるそうです」


 ハリソンの話を要約すると、魔力の回復には時間がかかり、魔力を消費すると体が動かなくなるから日常的には使われない。ということか。


「魔法使いの中には自分の魔力は使わず、魔石の魔力を主に使うなんて魔法使いもいるそうです」


「ああ、その手があったか」


「そのため、国は通常、優秀な魔法使いを抱えと魔石の備蓄がなされています」


「そして、魔石は常に需要があり続けるので相場の変動が少ないというメリットもあります」


 商人らしい補足をセシルが入れる。


「百人の優秀な魔法使いを抱え続けるよりも、十人の優秀な魔法使いと豊富な魔石を抱えた方が経済的でもあるんです」


 剣と魔法の世界で経済的ってのもピンとこないが、この世界ではそういうものなんだろう。


「さてと、話が逸れましたね。えーっと、献上品に関しては承知しました。これからの予定ですが、夕方までは狭いですが、この商談室をご自由に使ってください。ただし、夕方には馬車を出しますので、遅れないようお願いします」


「ああ。……そういえば、商品の方は売れてるか?」


「そうですね……胡椒と胃薬はあまり売れてませんね。ただそれは商品の認知度が低いためだと思います」


「他は?」


「ぺっとぼとるはクリスティーナ王女親衛隊がまとまった数を購入してくださいました。チョコレートは一度城へ持ち帰り、購入するか検討するそうですが、大口の注文が受けられると思います」


 まぁ品質としては悪くないだろうからな。


「分かった。じゃあ、しばらく俺らはくつろがせてもらうよ」


「はい。後で水差しを持ってこさせます」


 そう言ってセシルは恭しく退出した。

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