異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第62節

 翌朝。唐突な訪問客によって俺の予定は狂わされた。


「カンザキさん、セシルです。いまいいですか?」


 ドアをノックする音。朝食を食べ、現代から持ってきた茶葉とポットで喫茶を楽しんでいる所に水を差された。ポットはI.Gで電気を無理矢理こっちに持ってきている。俺の傍でアイリスは俺のお気に入りの急須を片手に立っている。


「いいよー。入ってー」


「カズキさん、朝早くにすみません。昨日と今日と私の都合で申し訳ないのですが、お願いがあってやってきました」


「お願い? お願いって?」


「実は昨日卸していただいた商品をあるお客様にご紹介する機会がございまして、その際、お客様が商品に興味をお持ちになり、それを卸したカズキさんにも興味があるとおっしゃいまして、本日の夕食に私とカズキさんを招きたいと提案を頂きまして……」


「俺に出席して欲しいと?」


「……そういうことです。昨日の今日で急な話で申し訳ないのですが、私にとってもカズキさんにとっても決して悪い話ではないはずです。なので、今日のご予定さえなければ今日の午後を空けて頂けませんか?」


「午後か……まぁいいけど。ところで、そのお客様ってどこのどなた?」


「……カズキさんには婉曲的に言っても伝わらないと思いますので、直接言いますが、他言しないでいただけますか?」


「ん? ああ、他言しない」


 この世界でも、誰が誰に会うってのは余計な勘繰りをされないためとか、スパイを送り込まれないようにために、とか色々と気苦労が絶えないんだろうなぁ。


「陽の国の王族、クイスティーナ王女です」


「王女?」


 ハリソンの話では近衛隊の副隊長が昨日、オルコット商会に来ていたって話だったけど。もしかして、本当の取引相手は王女、つまりお姫様だったのか?


「カズキさんにはあまり馴染みがないかもしれませんが、この国で六番目に偉い人です」


「六番目ってその上は誰がいるんだ?」


「国王、王妃、第一王子、第二王子、第一王女です」


 つまり、家系図で言えば両親と兄、弟、姉、妹がいて、これから会うのが妹にあたるクリスティーナ王女か。


「その王女様っていくつなの?」


「今年で17になるかと」


 俺より若いお姫様か。


「そのお姫様ってお転婆だったりしない?」


「決してそのような事はありませんよ。私は幼い頃よりクリスティーナ王女と接する機会がありましたが、優しく聡明で常に民の安寧と発展を願う素晴らしい方ですよ」


 人の口から出る評価で良い物ばかりが並ぶと逆に穿って見てしまうのはアニメや漫画に毒されすぎだろうか。
 ……まぁ人の評価なんて色眼鏡で通した物しか見えないしな。


「分かった。今日の午後だな」


「来ていただけるんですか?」


「ああ。その代わり、貸一つな」


「貸しですか……」


「貸しってのは返してもらわない方が大きな利益が出るらしいぜ。せいぜい早めの返済を頼むよ」


「なんだか、貸しを作ってはいけない人に貸しを作ったのかもしれませんね」


 セシルは苦笑いする。苦笑いで済んでるのは俺がそこまで悪い人間ではないと勝手に思っているからだろうか。


「そういや、夕食のために午後を丸々空ける必要があるんだ?」


「会食の場は王城となりますので、こちらで礼服を用意させていただこうかと思いまして」


「礼服?」


 俺にとって礼服といえばスーツだ。冠婚葬祭、どこでも使える便利な一張羅。大学の入学式で着た以来、着ていない。


「その礼服って俺の国の礼服でもいいのか?」


「お持ちなのですか?」


「まぁすぐに用意できるものだけどさ」


「なら、それで大丈夫です。クリスティーナ王女にはカズキさんが異国の行商人ということを話していますので、多少の儀礼は大目に見てくださるはずです。そうでなくとも、クリスティーナ様は寛容な方ですから」


 いつから錯覚していた。とか言い出さないよな。クリスティーナ王女。逆に本当にいい人ならば、まぁ逆にって言うのも変だけど、良い人ほど早死にしそうで怖い。


「それならそれで用意しないといけないか……。そういえば、俺の奴隷は服装とか気をつけた方がいいのか?」


 俺は傍に立っているアイリスの頭に手を乗せる。


「いえ、奴隷の服装ならばそこまで気をつかう必要はないと思いますが……。たぶん、その服は目立つでしょうね」


 アイリスは現代の服装を纏っている。確かに目立つといえば目立つか。


「まぁこれはこれでいいんじゃないか? 異国の服にはこういうのもありますって宣伝になるだろうし」


「カズキさんがお気になさらないなら、それでいいと思います。極端な話、奴隷はボロ服でもいいんですから」


「まぁその話はそこら辺にしよう。そういや、俺は手土産とか持っていった方がいいのか?」


「そうですね。クリスティーナ王女はちょこれーとを非常に気に入っていましたから、甘いものがいいかもしれませんね」


 ちょいちょいと袖を引っ張られる。


「なんだアイリス?」


「昨日体を洗った時に使ったあの泡立つ液体の入ったボトルを贈られてはいかがですか?」


「ボトル……ああ、シャンプーとボディーソープか」


「それです」


「なんですか、それは?」


「ああ。シャンプーとボディーソープってのは俺の国で使ってる石鹸だよ」


「カズキ様、あれは石鹸ではありませんよ?」


「あー、俺の国では石鹸の延長上にあるもんだよ」


「そのしゃんぷーとぼでぃーそーぷとはどういったものなんですか?」


「そうだな。セシル、ちょっとアイリスの髪を匂ってみて」


「匂いですか?」


「ああ」


 セシルは俺に促されて、アイリスに近づく。


「少し失礼しますね」


 セシルはアイリスの髪に鼻を寄せ、軽く嗅ぐ。


「甘い香りがしますね。香水のような強い香りではないですが……。とても良い香りだと思います」


「その匂いの正体がさっき話した物。たぶん、クリスティーナ王女も気に入ってくれると思う」


「確かに……少なくとも私は香水よりもこちらの香りが良いと思います」


「なら決まりだ。新品を後で持って行くから、なんか適当にラッピングしてくれ」


「分かりました。朝早くにすみませんでした」


「ああ。まぁある意味吉報だからな。あんまり気にしないで」


「ありがとうございます」


 そう言ってセシルは出ていった。

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