異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第58節 宴もたけなわ

 酒宴も終わり、アイリスとロージーは既に舟をこいでいた。
 三本のボトルは空になり、オレンジジュースもすっかり無くなった。つまみも早々に無くなり、代わりのチョコレートも全部なくなった。


「カズキ様、ありがとうございました」


 肌の白いはハリソンも今ばかり赤ら顔だ。


「気にすんな。俺がやりたくてやったことだ」


 俺が思った以上にハリソンやロージーはこの酒宴を楽しんでくれた。
 ハリソンは一人でボトルを二本も空にし、ロージーはその体躯のせいか酔いが早く、アイリスは楽しんでオレンジジュースを飲みながらチョコレートを食べていた。
 酒宴中のトークテーマは主にハリソンとロージーの馴れ初めから、アイリスが生まれてどんなに嬉しかったか。特に酒が入ってからのロージーはアイリスを抱きしめながら泣いていた。
 我が子が奴隷となった母親の気持ちなんてものは分からないが、よっぽど色んなものが溜まっていたんだろう。酒の勢いで随分と吐き出したようで、今はわりとスッキリしたような顔に見える。


「私も貴族だった頃は奴隷を所有していました」


 現代世界の価値観からすれば、奴隷ってのは各家庭に一台ある車のような感覚なのかもしれない。まぁローンのような金融システムがきっとない分、手に入れにくい部分はあるのだろうが。


「私は奴隷に対して酒宴を開こう等と考えたこともありません。それどころか、日々尽くしてくれる彼らに対し、感謝することすら無かった」


 まぁそういう文化圏なんだろうから、良い悪いとは思わないけど。


「でも、カズキ様は違う。家族として今こうしていられる機会を私達に与え、道具を与え、酒さえ与えてくださった。きっと、他の人から見れば奇異に映ることだと思います。それでも、私は感謝しています」


 感謝か。


「ハリソン、酔ってるのか?」


「そうかもしれませんね。これほど美味しい酒は初めてなので……」


 ハリソンは言いながら、とろんとした目をしたまま空のグラスを揺らしている。俺はそれを取り上げた。


「ほら、そろそろお部屋に戻れ。ロージーは俺が運んでやるから」


 酔ったままのハリソンでは危ないと思い、俺は立ち上がる。


「いえ、カズキ様のお手を煩わせるわけにはいけません……それに……」


「それに?」


「ロージーは私の妻ですから」


「……そうか」


 くさいセリフのように俺には聞こえたが、そのくささも悪くはないように感じた。俺れにもそう思えるような人が現れるのだろうか。ロージーを優しく抱きかかえるハリソンの姿を見て、そう思わずにはいられなかった。


「カズキ様、アイリスをよろしくお願いします」


 ハリソンは恭しく頭を下げ、部屋を出た。


「どう、よろしくすればいいんだろうな」


 俺はアイリスを抱きかかえ、ベッドに横たわらせる。この部屋にベッドは一つしかないため、俺はその隣に横になる。
 アイリスからシャンプーの良い香りがする。
 これも一つの自慰行為か。
 すやすやと眠るアイリスの寝顔を見ながら、俺も目を閉じた。

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