異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第57節 ささやかな宴会

 家に戻るまでは複雑な感情を抱いていたが、異世界の扉イマジナリーゲートを目の前にすると、随分と気が晴れる。文字通りの現実逃避だ。


「おかえりなさいませ。カズキ様」


 俺が渡した子供服を着たアイリスが出迎えてくれた。そういえば、部屋が明るいな。
 蝋燭に火がついている。たぶん、アイリスがつけたんだろう。


「ああ。ただいま」


「今度は何を持ってこられたのですか?」


 アイリスは俺が背負っているリュックを見ながら尋ねてきた。


「酒だよ。アイリスは飲んだらだめだけど、代わりにジュースを持ってきたからそれを飲め」


 俺はぐるりと室内を見渡し、レイアウトを考える。


「ハリソンとロージーをこの部屋に呼んで来い」


「いいんですか?」


「ああ。構わんよ」


 アイリスは小さな歩幅で部屋を出た。さてと、二人が来るまでに準備でもしておくか。現代の自室から椅子を持ち出して部屋に配置、テーブルは備え付けられていたサイドテーブルでいいだろう。
 ハリソンとロージーはベッドに座らせ、アイリスはサイドチェア、俺はゆったりチェア。
 新聞紙で包装されたグラスを取り出し、ワインの栓を開け、チー鱈を皿に盛りつけ、サイドテーブルに配置する。本来ならば奴隷のあいつらにやらせればいいんだろうが、それはそれ、これはこれだ。ハリソンへに同情したからこんな催しをする。言うなれば、憐みからきたものだ。


「こんなもんかな」


 コンコンコン。


「入っていいぞ」


「カズキ様、お父様とお母様をお連れしました」


「よし、んじゃ晩酌と行くか」


「あの、カズキ様。私達はどうすれば……」


「遠慮はするな。二人はベッドに座れ、アイリスは俺の隣だ」


「はい。カズキ様」


 素直に従うアイリスと戸惑いながらベッドに座るハリソンとロージー。


「長いこと酒を飲んでなかったんだろう? ほら、ハリソンとロージーのグラスはこれ。アイリスはこれな。オレンジジュース」


 俺は適当に三人にグラスを持たせる。


「ほら、自分で好きなのをついでいいぞ」


 二人に勧めながら俺はワインを手に取り、自分のグラスに注ぐ。ワインは詳しくないが、透明っぽいから白ワインか。次いで、アイリスのグラスにオレンジジュースを注ぐ。


「カズキ様、これがオレンジジュースですか?」


「ああ」


「すごく綺麗な色をしているんですね」


 まぁ着色料で見た目を良くしてるからな。しかし、初めてオレンジジュースを見るとそんな感想を持つのか。
 感動しているアイリスはいいとして、二人はまだ躊躇している。仕方ないな。


「ほら」


 俺はワインボトルを手に取り、ハリソンのグラスに注ぐ。こっちは赤ワインか。ついでにロージーにも注ぐ。
「安い酒だけど飲めるだけいいだろ。つまみはチーズ、アイリスにはチョコレートだ」


 俺はグラスをかたむけつつ、チー鱈を食べる。


「カズキ様! このジュース、すごく甘いです!!」


 アイリスは喜んでオレンジジュースを一口で飲んでしまったらしい。


「好きなだけ飲め。そのオレンジジュースは全部アイリスが飲んでいいからな」


 俺はアイリスの頭を撫でまわす。やっぱり、頭を洗ったおかげか髪がとても滑らかだ。触り心地がいい。


「カズキ様は鉛の器で飲まないのですか?」


 ロージーが妙なことを尋ねてくる。


「鉛? なんで鉛なんかで飲むんだ?」


「安物の果実酒は酸っぱくて、とても飲めた物ではありません。しかし、鉛の器で飲めば甘みが増すんです。カズキ様もご存知かと思いましたが」


「こっちのワインは酸っぱいのか? まぁこの酒も酸っぱいと言えば渋いけど、飲めないほどじゃないだろ」


 俺の言葉を訝しみながらロージーもグラスを傾ける。


「え! これが安物のワインですか?」


 ハリソンも続いてグラスを傾けた。


「これは……」


 ハリソンも絶句している。


「なんだ? 俺の酒が飲めないってのか?」


「いえ、決してそういうわけではありません!」


 ハリソンが語気を強くして言った。


「これほど美味しいワインは初めてです」


 ああ、喜んでもらえて何より。


「このチーズ、何か付いていますね? 白カビでしょうか?」


 ロージーが俺の用意したチー鱈を手に取りながら観察してる。


「それは魚のすり身。俺はチーズだけより、こっちの方が好きだから持ってきた」


「これも食べてもいいのでしょうか?」


「いいよ」


 チー鱈を手に取り、食べてみせる。やっぱり美味い。


「カズキ様、私も食べていいですか?」


 アイリスが物欲しそうな顔をしている。チョコレートがあげたのにチー鱈まで欲しがるとは欲張りめ。


「いいぞ、ただし食べ過ぎるなよ」


「はい!」

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