異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第56節 再会

 体を洗ったアイリスとロージーの二人は髪を濡らしたまま厩から出てきた。そういえば、タオルを用意するのを忘れていた。
 ロージーからリュックを受け取り、いつもバスタオルを干してあったあたりに手を伸ばして、バスタオルを取り出す。乾いたバスタオルはこれ一枚しかないため、二人で使ってもらった。
 流れでハリソンにも体を洗ってもらう。その後、俺たち四人は部屋に戻った。
 その頃には空も暮れ、晩酌にはいい頃合だ。


「アイリス、俺は国に戻るから留守番をしてるんだぞ。ハリソンとロージーでも部屋に入れるな」


「はい」


 アイリスの返事を聞き届けた俺は現代世界に戻る。


 現代財布を持ち、スーパーに向かいながらスマホで時間を確認する。この時間帯なら酒の肴になりそうな惣菜が割引されている頃合か。
 スーパーに到着し、買い物かごを片手に商品を適当に見繕う。
 普段はワインなんて買わないからわからなかったけれど、スーパーのワインの品揃えってこんなに多かったのか。
 適当にワインを3瓶をチョイスして、次に酒の肴となりそうな物を選ぶ。おつまみコーナーにはスルメやナッツ類、サラミ等があり、ワインといえばチーズといった短絡的なチョイスだ。ちなみに俺が好きなのはチーズ鱈だ。
 あとは食器コーナーで安物のグラスを三種類選ぶ。俺とハリソン、おまけにロージーの分。アイリスには酒は飲ませない方針だ。


「あれ? 神崎?」


 突然、名前を呼ばれて俺は周囲を見渡した。
 黒髪の可愛い系の女性以外に誰もいない。


「神崎だよね?」


「えーっと……」


 分からん。向こうはこっちを知っているみたいだけど、俺は心当たりがない。というか、女性に声をかけられるとか何年振りだろうか。思い出そうとすると悲しくなるからやめておこう。


「神崎ってこの辺りに住んでたの?」


「ああ、うん」


「いまなにしてるの?」


「大学に行ってるよ」


「もしかして、院? 神崎、中学の頃から頭良かったよね?」


 ああ、中学時代の知り合いなのか。……あ、思い出した。水城愛理だ。


「ああ」


「やっぱりそうなんだ」


 思い出してつい返事をしてしまったが、質問の肯定と受け取られた。今更、大学を四留してると訂正しづらい。


「水城は今何してるんだ?」


「私は仕事してるよ。ヘッドハンティングって言えば分かるかな。うちの会社にぜひ来てくださいっていうスカウトの仕事。今日は出張で近くのホテルに泊まってるんだ」


 そういえば、水城は化粧をしており、他所行きの格好をしている。


「そうなんだ。仕事は楽しい?」


「うん。私にしかできない仕事だから、やりがいはあるよ。神崎も就活は順調?」


「ああ、まぁボチボチだね」


「やっぱり理系は卒研が大変だから、就活も大変だよね」


 すみません。俺まだ3年生なんで就活とかやってないです。すみません。


「水城の会社って何系の仕事? ヘッドハンティングするぐらいだから大手だよね?」


「大手ってわけじゃないんだけどね。人材不足だからこそ、人手が欲しいってこと」


「どういった人材が欲しいとかってあるん?」


「他の人にはできないような技術を持ってる人かな?」


「資格を持ってるとか?」


「んー、資格といえば資格かな。あとは英語ができれば便利だね」


「海外に支社があるとか?」


「どっちかというと海外にも市場があるって感じかな。うちの会社も支社はあるけど、国内にしかないしね」


「なら、水城がスカウトした人達は本社や支社に移動するのか」


「うん。あ、神崎、連絡先交換しよ?」


「ああ、いいけど」


 俺はスマホを取り出して連絡先を交換し合う。親父と上やんぐらいしか連絡をしない俺のスマホに女の子の連絡先が登録される。感慨深いが、相手が水樹だと少し胸が苦しくなる。


「それじゃ、神崎、またね」


 水城はそう言って立ち去った。
 ……随分と綺麗になったんだな。中学の頃は可愛くて俺は惚れていて、一時期は付き合ったりもしていた。でも、一年も経たず俺と水城は別れた。俺があまりにも自己中心的で水城から愛想を尽かされたというのが簡単な経緯か。
 ……もしかしたら、俺はアイリスにあの頃の愛理を求めていたのかもしれないな。
 独占欲が強く、自己中心的な俺を肯定してくれる理想の存在。それをアイリスに求めている。そして、アイリスはその事を知ってか知らずか応えてくれている。


「…………」


 チョコレートをひと袋だけ買い物かごに入れた。

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