異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第54節 魔法

 俺は職人との約束を結んだ後、宿に戻った。既に三人は戻っており、ハリソンとロージーは俺が与えた部屋に引っ込んでおり、アイリスは戻った俺を迎えてくれた。


「カズキ様、おかえりなさい」


「ああ。ちゃんと飯は食ってきたか?」


「はい。残ったお金はこちらです」


 アイリスは大銅貨や銅貨を何枚か俺に手渡そうとする。


「いや、それはお前にやる。好きに使え」


「いいんですか?」


「ああ。好きな物を買ってもいいし、ハリソンとロージーのために使ってもいい。それより、ハリソンから紙は受け取ってきたか?」


「はい。こちらに」


 俺はアイリスから紙を受け取る。やはり、何が書かれているのかわからない。


「ハリソンの得意な魔法は何だ?」


 俺がそう尋ねるとアイリスは少し考えてから口を開いた。


「お父様は風を操るのが得意でした。本気を出したお父様が風の魔法を使うと、どんな人間でも立っていられず、飛ばされる光景を見たことがあります。一度、お父様が王宮に呼ばれ、余興でフルプレートの鎧を着たシーク人の冒険者と決闘を行ったことがあります。その時でも、風魔法でその冒険者を吹き飛ばしていました」


 恐ろしいな。体重を三倍増にしている俺と変わらないぐらいの重さでも吹き飛ばせるってことだろう。


「他にはどんな魔法が使える?」


「蝋燭ぐらいの明かりを灯したり、一瞬ですが太陽の光のように眩しい光も出したことがあります」


 太陽拳か。視覚頼りの敵なら大きな効果が出せるだろう。


「風や光が得意みたいだな」


 どっかのちびっこ先生と同じ属性か。


「アイリスは魔法使えるのか?」


 魔力が少ないという情報を念頭に置きつつ、確認するように尋ねた。


「使えますよ」


「え」


 思わず聞き返してしまった。


「私、魔法は使えますよ?」


 そんなキョトンとした可愛らしい顔をされても。


「だってさ、奴隷にされる時に魔力がないって分かったから金貨五枚って話だったじゃん」


 あの時、確かにセシルがそう言っていた。


「お父様に魔法を教わっているうちに、体にある魔力を操れるようになったんです。それで、魔力がないように見せてたんです」


「魔力ってそんな簡単に操れるものなのか?」


「難しいらしいです。お父様もそのことで褒めてくれましたから」


「そうなのか」


 セシルが言っていたけど、肉体能力は母親に、魔法能力は父親に似るという話だった。セシルがおかしいと言っていたのは本当だったらしい。


「お父様は普段の魔力を10とすれば、8から12ぐらいまでは自由にコントロールできるそうです。私の場合は1から12ぐらいまではコントロールができます」


 上限が父親と一緒で下限だけがずば抜けて低いのか。アイリスがハーフだからできるのかもしれない。


「アイリスはどんな魔法が使える?」


「お父様程ではないですが、風や光は操れます。あとは簡単な魔法なら、物を温めたり、冷やしたり、物を飛ばしたり引き寄せたりできます」


「この世界の魔法はどういった体系になってるんだ? 四大属性とか五大属性とかないのか?」


「体系ですか? ……そうですね。森の国では『二極説』が一般的でした」


「二極説?」


「はい。昼は明るく、暖かく、生き物は活発になり、夜は暗く、寒く、生き物は寝静まるという考え方です。前者を陽極と言い、後者を陰極と呼びます。そして、陽極と陰極との間に魔があります」


 途中までは分かった。陰陽師や太極図に近い考え方。でもその間の魔ってのが良く分からない。


「その魔ってのは何なんだ?」


「お父様が言うには魔とは可能性の塊だそうです。陽にも陰にもなれるけれど、見えないもの。陽や陰がはっきりと分かるものは安定していて、魔は不安定な状態です」


「不安定な状態?」


「はい。魔力はあらゆる魔法の素だから、魔力は何にでも変じることができる可能性の力という考え方らしいです。ただ、何にでも変じるからこそ、扱いを間違えると術者にまで危険があるらしいです」


 アイリスの話を俺なりに解釈すると魔力ってのはエネルギーの事なんだろうな。エネルギーも速度やら熱やらの形で存在しているけれど、エネルギーそのものは目に見えないみたいな考え方なんだろう。それで、エネルギーの扱いを間違えると危険があるみたいな。概ね間違ってないような気がする。


「なるほど。なんとなく分かってきた」


「わかったんですか?」


「ああ。これは教えてもらった礼だ。駄賃をやろう」


 俺は財布から銀貨を一枚取り出してアイリスに手渡す。


「本当に頂いてもいいんですか?」


「ああ」


 俺はアイリスの頭をガシガシと撫でる。アイリスは目をつむったままくすぐったそうに笑っている。
 アイリスの髪を手櫛で梳かしてみると少し傷んでいることに気がついた。


「アイリス。頭を洗ってやるから少し待ってろ」

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