異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第53節 宝石細工

 夕食をファミレスのエンジョイで摂った後、家に戻って少ししてから異世界に行く。
 まだアイリス達は戻ってきていないようだ。
 例の魔法石、互いが引き寄せ合うという魔法石を床に置いてみると、コロコロと不自然に転がった。その方向には商業地区がある。俺の命令通りに食堂で夕食を摂っているんだろう。
 俺は工業地区に向かい、例の宝石加工職人の下を訪れる。


「お、お前は昼過ぎに来たセシルの連れじゃねぇか。もう酒が用意できたのか?」


 ちょうど仕事を終えたところだろうか。


「ああ。持ってきたぜ」


 俺はリュックからミニ缶を取り出すと、事前にキンキンに冷やしたビールの表面が結露している。


「それはなんだ? それが酒だってのか?」


「ああ。俺の国で主に飲まれてる酒でビールってんだ」


「その中に酒が入ってんのか?」


「ああ、ちょっと待ってろよ」


 俺は店先でミニ缶のプルタブを引いた。引いた直後に気がついた。この世界の圧力って現代より低いんだった。


 プシューッ!


 開けた瞬間、泡が溢れ出し、あっという間に缶と俺の手は泡だらけになる。


「だ、大丈夫か!?」


 さすがのおっさんも慌てて俺に近寄る。


「凄いだろう? これが俺の国の酒だよ。これだけ泡立つ酒を飲んだことがあるか?」


「飲んだことがあるかよ!」


 俺はベタつく缶をそのまま突っ込んでくるおっさんに手渡した。中身はたぶん、少しは残ってるはずだ。


「なんだこれ、なんでこんなに冷えてやがるんだ!」


「俺の国ではビールは冷えててなんぼなんだよ。温くなる前に飲んでくれ」


「あ、ああ」


 おっさんは缶の飲み方に慣れないせいか、少し戸惑いながらも、穴に口を当てて飲めばいいのかと缶に口を付け、缶を傾ける。


 ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。


 おっさんの喉仏がビールを飲むたびに大きく動く。


「こいつは美味いな。もっとないのか?」


 おっさんは空になった缶を振りながら、不満げに言った。


「まだまだあるぜ」


 俺は自宅から持ってきたビールジョッキを出し、その中にビールを注ぐ。今度は泡立たないように気をつけながら慎重に開けた。


 俺はそれをおっさんに手渡し、おっさんは飲む。そして空かさず事前にレンジで温めておいた焼き鳥を出す。甘辛なタレをかけた鶏皮だ。
 右手に焼き鳥、左手にビールを持ったどこに出しても恥ずかしくない立派な中年然としたおっさんになった。


「おっさん、これで俺の依頼を引き受けてくれるか?」


「ああ。これだけ美味いもんを用意されたら断れねぇ。それに最近は仕事が減り気味だったしな」


「そうなのか?」


 酒を飲んで少し愚痴っぽくなったおっさんは溜息をついてまた一口酒を飲んだ。


「ああ。最近は魔獣騒動で小魔石ばっかり出回りやがって、魔人が落とす魔石があんまり出回らねぇし、最近は食い物の値段も値上がりして、魔宝石そのものがあんまり売れねぇって話だ」


 また一口酒を飲んで、鶏皮を食べる。


「兄ちゃん、このつまみはもうないのか?」


「今日は持ってきてないな。ただ、俺の依頼をこなしてくれたら通常の報酬とは別に差し入れとして用意してもいいぜ」


「そうか。なら、仕事はさせてもらわないとな」

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