異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第51節 命令

「アイリス。お前は俺の従者で、俺の言うことはなんでも聞く。そうだな?」


「はい。カズキ様」


 簡単にはいと言われたら少しだけ試したくなった。


「今すぐ泣いてみろ」


「え……」


 俺が命令した直後、アイリスは呆然としたまま目に涙を浮かべた。そして、一滴、また一滴と涙がこぼれ落ちる。
 アイリスは自分に何が起きたのか分からない様子で呆然としつつも手で涙を拭っている。その時、アイリスの額に赤く浮かび上がる『祝』の文字を俺は見た。


「もう泣き止め」


「は、はい……。カズキ様……」


 アイリスは少し混乱しつつも俺の命令には従う。
 というか、生理的反応ですら俺の命令に従うのか。従来あるフィクション物の奴隷の刻印は普通、苦痛を与えて無理矢理に命令を実行させるもの。この世界でも、まぁフィクションじゃないけど、勝手にそういうものだと思っていた。でも、実際は違った。


「アイリス。俺が命令すれば、秘密は守れるな?」


「カズキ様の……秘密……ですか?」


 アイリスが少し充血した目でこちらを見る。


「ああ。これから俺がすることは口外するな。俺の能力の一切を他人に知らすな。いいな?」


「……はい」


 理解が追いついていないような曖昧な返事を聞きながら、俺は部屋に飾ってあった絵に手を伸ばす。


「カズキ様! 手が!」


「アイリス、声が大きい」


「ごめんなさい……」


 しょげるアイリスは俯きつつの上目遣いで俺の方を見る。その仕草が妙に可愛い。


「アイリス、お前にだけ教えておくが俺はこの絵を通して俺が生まれた国に戻ることができるんだ。だから、俺は色んな道具をすぐに取り寄せることができる」


「カズキ様の故郷に……ですか?」


「ああ。俺だけがこの絵を通って国に帰ることができるし、この絵から出てくることもできる。生き物は通れないが、物はこの絵を通ることができる。だから」


 俺はそう言いながら腕を伸ばし、手近な物を掴み取る。


「こうやって物を取り寄せることができる」


 俺が掴んだものは飴玉だった。俺はそのまま包装紙を破る。


「アイリス、口を開けろ」


「は、はい」


 ぶどう味の飴玉をアイリスの口の中に放り込む。


「カズキ様、これはなんでしょうか? とても甘い味がしますけど……」


 アイリスは飴玉を口の中で転がしながら訊いてくる。


「俺の国の菓子だ。飴と言って口の中で転がして味わうんだ。噛むなよ」


 虫歯になるからな。


「これがカズキ様の国のお菓子なんですか?」


「ああ。アイリスが俺の言うことを聞けば、ご褒美としてお菓子をあげてもいいぞ」


「本当ですか!」


「ああ」


 まぁ文字通りアメとムチになるかは知らんけど、やる気が出るなら安いもんだ。

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