異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第44節 契

 次に向かう先は魔宝石師の工房。しかし、工房とは言いつつ、店は商業地区にあるらしい。
 工房は商業地区の中でも、街の中心の近くに構えていた。たぶん、それだけ繁盛している店なのだろう。
 セシルの後を俺は付いていき、俺の後ろにはアイリス、ロージー、ハリソンと続く。
 タイン人はその矮躯のため、歩幅が小さく、小刻みにその足を動かしていた。パッと見、ハリソンの一歩がロージーの三歩に匹敵する。


「つきました。ここが魔宝石師の工房です」


 と言って、セシルは足を止めた。異質な店先の前で。
 周囲は確かに繁盛しており、人通りは少なくなく、その客層も比較的富裕層に見える。しゃれた帽子を被っていたり、良質な靴を履いていたりと目に見えるレベルで違う。その客が入る店はどれも大きな看板を掲げており、扱っている品々は嗜好品の類に見える。
 その中で、装飾品が一切ない石造りの店がポツンと建っている。かろうじてその建物が店だとわかるのは黒い縦長の菱形が描かれた看板が下がっているからだ。
 中を覗いてみると、椅子が一脚、カウンターが一つあるだけだ。カウンターの奥に更に部屋があるようで、店の主も奥にいるのだろう。
 セシルは率先して中に入り、俺もそれに続き中に入る。五人も入れば、窮屈に感じる程度の室内。中も装飾品の一切はなく、壁も石の肌が剥き出しだ。質素な部屋と形容するよりも廃墟に近い。


「ようこそ」


 カウンターの奥から、女性の声がした。
 ゆったりとした黒っぽいローブを着た、曲線に富む女性が現れた。
 年齢は三十代前半程の色気のある女性。色白で薄紫の長い髪をなびかせて現れた。
 トール人だ。


「初めまして、セシル・オルコットです」


「あら、オルコット商会の……。今日はどういった御用かしら?」


「実はアメリアさんに依頼があって来ました」


「何かしら?」


「絶対服従の契りに使うための魔宝石を譲って頂きたいのです」


「それでわざわざいらしたの? いいわ、少し待ってちょうだい」


 アメリアと呼ばれた魔法石職人は一度、カウンターの奥へと引っ込み、少ししてから戻ってきた。片手には宝石を手にしている。


「お望みの品はこれよ。……そうね、金貨二枚でいいわ」


「カズキさん」


「ああ」


 まだ資金には余裕がある。
 俺は財布から金貨二枚を取り出し、アメリアに手渡す。


「確かに受け取ったわ。ところで、契りのやり方は分かるかしら? よければ、私が教えてあげましょうか?」


 やり方?


「お願いします。アメリアさんにしていただけるなら、是非」


「主人はあなたね? 名前は?」


 アメリアは薄く微笑んで俺に視線をよこす。


「神崎一樹」


「カズキね。それで、従者となる奴隷はそこの三人のうち、誰かしら?」


「私です!」


 俺よりも前に出るアイリス。


「あなたね。名前は?」


「アイリスです」


「アイリスね」


 アメリアはアイリスの髪をそっと撫でる。アメリアの手にアイリスの抜け毛が数本、付いていく。
 そういえば、アイリスは髪の手入れなんてする余裕もなかったのか。


「カズキ、あなたの髪も貰えるかしら?」


「契りに使うのか?」


「ええ」


 俺は前髪を一本抜いて渡す。


「良い色ね。素晴らしい黒だわ」


 アメリアは俺とアイリスの髪の毛、それと宝石を巾着のような布袋に入れる。


「バーナード、いらっしゃい」


「はい」


 アメリアの呼びかけに応えたのは男の声だった。
 カウンターの奥から現れた男はアメリアよりも濃い黒のローブを身にまとっていた。
 少し目つきの悪い灰色髪の男。わりとイケメン顔だ。たぶん、アベル人。


「話は聞いていたでしょう? これを。やり方はわかるわね?」


「はい」


 バーナードと呼ばれた男は小袋を受け取り、すぐに奥に引っ込んだ。


「少し、待ってちょうだい。私の可愛いお友達がすぐに用意してくれるわ。それまで、少しお喋りしましょう? 特にカズキ、あなたとお話したいわ」

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