異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第43節 マイ箸

 昼食を近くの食堂で取る俺達。昼食は俺の奢りだ。
 俺は割り箸を数膳持参してきている。セシルもマイスプーンを持参している様子。奴隷一行はもちろん食器は持ってきていない。
 周囲を見渡せば、素手で食べる人間は少ないようだ。この店の客層は比較的裕福なのかもしれない。
 奴隷に素手で食べさせるのは躾になるのか逡巡してから、馬鹿馬鹿しいことに悩むぐらいならと割り箸を三人に配った。


「お前らはこれで飯を食え」


「カスキ……様、この木の棒は何ですか?」


 ハリソン。発音しにくいのかもしれないけど、人のことをカス呼ばわりは良くないぞ。


「ハリソン。俺の名前はカズキだ。次、言い間違えたらお前だけ売り飛ばすぞ」


「は、はい!カジュキ様」


 俺の名前って発音しにくいのか? いや、セシルやアイリスは普通に話せるし、トール人の発音が悪いのか、ハリソンの発音が悪いのか。まぁいい。


「これは箸といって、俺の国の食器だ。こうやって使うんだ」


 俺は割り箸を割って、現代風に言えば野菜炒めの得体の知れない野菜を箸で摘み食べる。


「使ってみろ」


 俺の手元を覗き込む四人。昨日の食事の時にもセシルは俺の箸の使い方に興味を持っていた。
 俺を真似て三人は箸を使おうとする。まぁ直ぐに使えるわけも無く、悪戦苦闘していた。
 比較的マシなのはアイリスで、箸を片手で持ち、箸先を開閉できる程度にはなっていた。
 ロージーとハリソンは上手く箸が持てないようだ。


 どうせ紹介状を書いてもらうまで時間を潰さなきゃいけない。それならばと、俺はセシルと雑談をしながらアイリスに箸の使い方を教える。
 アイリスが覚えれば後からアイリスから二人に覚えさせればいいと思ったからだ。


 三人にはしばらく使い終わった割り箸はきちんと洗って今後も使うように命令する。
 三人は大人しく俺の命令に従った。
 そういえば、アイリスの服の襟元に何故か三色ボールペンがかけられていた。そういえば、この服にはポケットがないのか。
 服か……。


 食事を終え、職人ギルドに戻るとおっさんは紹介状を書き終えていた。
 セシルが礼を言って紹介状を受け取り、また歩き始める。


 初めに訪れたのは革細工師の工房。セシルが紹介状を渡すと嫌な顔一つせず相手をしてくれた。
 ここで初めて知ったことだが、奴隷となったら姓を失うらしい。
 なので、奴隷の三人はただのアイリス、ハリソン、ロージーになる。
 革細工師に注文をすると、直ぐに三人の首輪に名前を刻んでくれた。まぁ俺には読めないんだけど。


 次に訪れたのが加工職人の工房。こっちは紹介状を渡すと、おっさんは少し嫌そうな顔をしてから話だけは聞いてくれた。
 おっさんは魔宝石を首飾りや耳飾り等にすることはあれど、ただの魔石を装飾品にするのはまずないと教えてくれた。
 俺は無理を言って魔石を装飾品に加工してくれるよう頼む。


「なら、俺が美味いと思えるような酒をもってこい。俺が認めるような酒を持ってきたら、お前の依頼を最優先で受けてやる。持ってこれなかったら、お前の依頼は半年後に受けてやろう」


 と、条件を出された。
 どんな酒が好きかと訊くと


「俺はエールが好きだ。俺がまだ飲んだことの無いエールだったら認めよう」


 エールとビールの違いも分からない俺だ。これは少し難しい。


「俺の国のエールを飲ませてやる。キンキンに冷えた犯罪的なエールをな」

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • クズ小説ばかり

    随分と素晴らしい性格なようで、ワタクシ、ゾクゾクしております。ハイ

    1
コメントを書く