異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第41節 奴隷の引き取り②

 役所は商業地区から外れ、居住区に存在する。
 住民は中流層のようで、華やかではないが丈夫で清潔そうな衣服を身に纏っている。
 こうしてみてみると、セシルは中流層よりもワンランク上の階層なんだなと思う。
 俺に金の指輪を売ってくれた前例もあるが、セシルは基本的に派手ではない装飾品を幾つか身に付けている。
 振り返りロウ一家の衣類を改めてみてみる。生地だけを見ればこの世界にしては上質そうだ。


「カズキさん。あれが役所です」


 セシルが指差した先には石造りの建物があり、看板には羊皮紙と羽ペンが描かれている。


「私が代筆をしますので、安心してください」


 セシルがニコリと笑いかけて言った直後、アイリスが俺とセシルの間に割り込んできた。


「カズキ様、よろしければ代筆は私にさせて貰えませんか」


 セシルは面食らった様子。俺も少し驚いた。アイリスは最初から人懐っこいというか、俺に敵対心がない。
 奴隷は主人に対してある程度の反抗心を持つもんだと思っていたが、この子は例外らしい。年上にこの子っていうのもおかしな話だが。


「じゃあ、アイリス。俺の代わりに書け」


「はい!」


 アイリスは嬉しそうな笑顔を浮かべ、両親の元へ戻っていく。


「カズキさん。いいんですか?」


 少し心配そうな表情のセシル。


「一応、変なことを書いてないかだけセシルにチェックして欲しい」


「分かりました」


 セシルは小さく頷く。
 役所に入ってみると中は閑散としており、俺たち以外に来訪者はいないようだ。
 受付らしきカウンターで仕事をしている男は俺達に気づいた。


「奴隷の移譲の手続きに来ました」


「移譲書はお持ちですか?」


「ええ。こちらに」


 セシルに任せると話がトントン拍子に進む。
 そして、俺の署名が求められる場面ではアイリスが率先してペンを持とうとする。


「アイリス、これを使え」


 新しく取引する商品のサンプルとして持ってきていた三色ボールペンをアイリスに手渡す。


「カズキ様、これは何でしょうか?」


「そのペンの頭にある黒い部分を指で擦って下にスライドするんだ」


 言って思ったが、今の台詞は卑猥だ。


「先から何か出てきました」


 アイリス。それは冗談にならない。


「それは俺の国のペンだ。そのまま書け」


「はい」


 アイリスは従順に俺の指示に従う。今、アイリスが書いているのは俺の名前だ。カンザキカズキという俺の名前がアイリスの手によって書かれている。
 どうやら、こっちの世界の文字は日本語のひらがなやカタカナのように一文字で一つの発音でできているようだ。確か、表音文字とかいうやつ。
 役人はボールペンに興味があるのか、アイリスの手元を覗き込んでいる。


「カズキ様、書けました」


「セシル」


「大丈夫です」


 アイリスの手元に注視していたセシルはすぐに答えた。


「よし、アイリス。そのペンはお前が持ってろ」


「いいんですか? カズキ様?」


「ああ」


 大学で無料配布されていた物だ。ボールペンの側面には俺が在籍している大学名がプリントされているが、その名前を読める人間はこの世界には居ない。


「カズキさん、これで手続きは終了です。正式にチャド兄さんからカズキさんに奴隷の所有権が移りました。もし、奴隷が逃亡した場合はすぐに警備兵によって捕獲され所有者の下に連れ戻されます」


「そういうのって外国から来た俺でもいいわけ?」


「本来なら陽の国の国民のための制度ですが、今回はカズキさんがチャド兄さんの賓客という扱いなのでカズキさんが陽の国に滞在している間は大丈夫です」


 あら。そこらへんもチャドに根回しされてるわけなのね。


「そうか」


 俺は正式に奴隷となった三人に視線を送る。


「これでお前らは正式に俺の奴隷となった。俺の言う事には服従しろ」


「はい!」


 一人だけ嬉しそうに返事をするアイリス。ハリソンとロージーは諦めた様子で従う態度を示した。


「カズキさん。時間があるなら、職人ギルドに行きませんか?」


「職人ギルド?」


「はい。奴隷の首輪の刻印と以前カズキさんが細工師を紹介して欲しいという話があったので」


「ああ、そうだな」


 今日一日は奴隷を所有する事のみに費やすつもりだったので、すんなりと手続きが終わった今、俺の予定は空白だ。


「それと、絶対服従の契りのための魔宝石を手に入れる心当たりがあります」


「ああ、そういや。それをしなきゃいけないんだった」


 アイリスの従順さに既に絶対服従の契りが終わったような錯覚をしていた。


「では、私にまた付いて来てください」


 再び、セシルを先頭に俺達は街中を歩き始めた。アイリスが俺に懐いているせいか、常に俺の真後ろにいる。

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