異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第39節 目を背けた現実

 食事も楽しみ、チャドとセシルと別れ、宿に戻り、自宅に戻り、床に就き、朝を迎える。
 あっちの宿では朝食がないため、こっちで適当にカップ麺を食べる。
 麺をすすりながら、金に困らなくなったのに生活が劇的に変わるわけではないんだな、と寝ぼけた頭で下らない事を考える。
 チラリと充電中のスマホに目をやると着信有りとランプが点滅していた。
 手を伸ばし、スマホを手に取り、履歴を見ると親父から電話があったらしい。
 ――親父にはまだ、留年が確定した旨を伝えていない。だからこそ、親父からの着信が俺の胸に重くのしかかる。
 留年したことによる申し訳なさと、我が身可愛さの自己保身。
 しばらく異世界にかかりきりで、現実の問題を忘れていた。忘れようとしていた。
 小説とかで、よく見る文章。あの心理描写がそのまま自分に当てはまる。
 直視すればするほど、消えて無くなりたくなる。
 だからこそ、俺は異世界に熱中していた。本来あるべき現実を否定して。
 あの世界はある意味、今の俺を救ってくれている。


 アニーにあれだけ高説を垂れた俺でも現実ではこんなもんか。


 自己否定をする。それが良くないことだと分かっていても、自分の在りたい姿と今の姿があまりに乖離している。
 金を稼げば何とかなる。留年しても、自分で学費を稼げれば平気。
 それは俺の心の中にある問題の本質に対しての解決ではない事は分かる。
 それでも対処療法という便利な言葉がある。そうすれば俺はきっと救われる。


「ごちそうさん」


 カップ麺の汁を三角コーナーに捨て、カップをゴミ袋に入れる。


「さてと、現実逃避の時間だ」


 俺はA3サイズの非現実の扉を潜った。






 宿屋の一室に着地する。
 振り向くとそこには現実世界と異世界を繋ぐ一枚の紙。


「非現実のイマジナリーゲートか」


 やっぱり、能力にはカッコいい名前が必要だろう。
 漢字にルビを振るタイプか、漢字そのままのタイプか、最初から横文字のままか。
 とりあえず、能力名は『非現実の扉(イマジナリーゲート』。略称はI.Gとしよう。
 I.G-A4でA4サイズ、I.G-A3でA3サイズ、I.G-Mでモニター。
 そのうち、ゲートの数自体を増やしてエクセルあたりで管理しないといけないしな。


 さてと、今日の予定はチャドから三人の奴隷を受け取り、役人に奴隷所持の手続きをとる。
 まずはオルコット商会に向かい、セシルと合流する。チャドは忙しいため、今日会う予定は無い。
 手続きの書面に関してはチャドが昨夜か今朝までに用意する手筈だ。


 いつもどおり、所持品を確認。
 異世界用の財布や短剣、翻訳の耳飾と首飾り。あとはリュックと清涼飲料水が入ったペットボトル、緊急脱出用のI.G。あとは小物を多少。
 よし、準備OK。
 店先を掃いているエイヴに挨拶をしてオルコット商会に向かう。

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