異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第38節 食事会

 チャドに連れられてきたのは商業地区っぽい区画でも比較的賑わっている場所。
 俺の主観から言えば、この国の中流階層ぐらいの店々が立ち並んでいる。
 チャドはその中の一軒の店の前で立ち止まる。
 文字は読めないが、魚のような看板がぶら下げられている。外観は木造の建物で食事処のためか清潔感もある。
 チャドは俺達がちゃんと着いてきてるか確認してから店に入り、俺達もそれに続く。
 俺達三人は適当に空いたテーブルに着く。
 周囲を見渡してみると、それなりに繁盛しているようで空席は目立たない。
 壁に何枚か木札がかけられており、その木札に文字が書かれている。たぶん、お品書きだろう。


「二人とも、好きな物を頼んでいいぞ」


 なんというか、チャドがただの気前のいいおっちゃん化している。
 そして、お品書きが読めなくて困る俺。


「カズキさん。何がいいですか?」


「えーっと、寿司か刺身はある?」


「スシ? はありませんけど、刺身ならありますよ」


「え、マジで。でも、それって湖の国の淡水魚じゃないの?」


「はい。タイン人の技術で冷凍保存したまま輸送された生魚ですよ。さすがカズキさん、お目が高いです」


「じゃあ、それを貰おうかな」


 そういえば、タイン人は独自の技術を持ってるって話だったっけか。


「分かりました。それと、お酒はいかがですか?」


「えーっと、セシルも飲む?」


「そうですね。チャド兄さんも飲みますよね」


「ああ、飲むぞ。でも、俺のことはあまり気にするな。セシル、お前は少し気を遣いすぎるぞ。今日は商売人としてじゃなく、友人としてカズキに接してやれ。いいな」


「――分かりました。兄さん。カズキさんもボクと同じお酒を飲みますか?」


「あ、ああ」


 セシルって商売人の時は一人称が私なのに、普段だとボクなんだな。
 俺がそんなことを考えていると、セシルが手を挙げて店員に呼びかけた。


「こっちにビールと刺身を三人分」


 こっちにもビールがあるのか。それとも、そういう翻訳なんだろうか。


「少し待ってなー。お、今日は珍しいですね。兄弟二人で店に来るなんて。……そっちは異人ってことは、さっきまで商売でもしてたんですか?」


「ああ、まぁな。でも今じゃ友人だ。その友人を空腹でいつまでも待たせるわけには行かないからな」


 そういって、チャドは店員に何かを握らせた。


「旦那は気前がいいねぇ。ちょっくら厨房まで行って、ケツでも蹴り上げてきますよ」


 調子のいい店員は気持ちがいいほどに上機嫌な足取りで厨房に向かっていった。


「さっき、タイン人の技術で魚を冷凍しているって話がありましたけど、タイン人の技術ってどんなものなんですか?」


 俺は二人に尋ねてみた。


「タイン人の技術って言えば、主に二つだな。一つは航湖術。もう一つは魔石術」


「航湖術っていうと、湖を船で渡るってこと?」


「そうだな。俺も今のセシルみたいに交易で修行をする時期があってな。その時に漁船に乗せてもらったんだよ。いやー、あの小さな体であんなでかい船を操ってるってのが当時の俺には感動的だったぜ」


「なるほど。船を浮かべられる程の湖を持つ国ならではですね。それと魔石術というのは?」


「簡単に言うと魔石と特殊な道具を使って魔術を再現するってやつだ。魚の冷凍保存もその魔石術の成果って訳だ。ただ、魔石術には魔石が必要でそれなりに費用が掛かる」


 もしかして、刺身ってめっちゃ高い?


「なんで、タイン人だけの独自技術みたいな扱いなんですか? アベル人でも使えそうなんですが」


「確かに技術利用だけなら俺達でも使える。現に金持ちの交易商は冷凍技術を使って、こうやって魚を運んでる。ただ、どういった理屈でそう動いているのか分からないんだ」


「分からないんですか?」


「ああ。タイン人にとっては魔石術も一つの産業だからな。それで儲けてる奴は当然、その技術を漏洩しないように気をつけてる」


「それでも漏れる事はあるんじゃないですか?」


「ああ、確かに魔石術が陽の国に伝わった初期はそれなりに技術流出があったらしい。ただ、伝わったのは基本技術まで。応用技術に関してはさすがに流れなかった」


「アベル人も研究するという流れは無かったんですか?」


「確かにそういう流れもあった。だが、魔石術は初期投資が高い。それなら、タイン人から欲しい技術だけを買い取ったほうが利口だという流れになったんだよ」


「そういうことですか」


「後もう一つ、魔石術は流出を恐れるあまり、基本的には一子相伝。そのせいで、失われた技術もあるって話さ」


 家系が途絶えたって訳か。


「旦那、お待たせしました! 刺身盛りとビール三人前!」


 黒皿に並べられた白身の刺身。さすがに醤油やワサビはついてこなかったが、代わりに酸っぱい匂いの液体が入った小皿も着いてきた。酢だ。
 陶器製のジョッキに並々と注がれたビールが泡立っている。失礼を承知で匂いをかいで見ると、普段飲んでいるビールと香りが違った。


「さぁ、料理がきたぞ。小難しい話はここら辺にして、飯を楽しもう!」


 チャドはジョッキを手に取り、セシルもそれに習う。俺もつられてジョッキを手に取る。


「乾杯!」

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