異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第37節 奴隷取引

 チャドは俺と対面する場所に座り、俺の隣にはセシルが座る。


「お前がこの茶葉を使うって事は口だけの客じゃないようだな」


 チャドはコップを手に取り一口すする。


「うちの弟が随分とカズキさんに心を開いているようですね」


「そう、なんですかね」


 俺は首をポリポリと掻きながら答える。なんとなく返答に困る。


「ええ。俺にとっては可愛い弟です。なので、カズキさんとも良好な関係が築ければいいと思っています」


「俺もそうなればいいと思います」


「……セシルが交易から戻ってきた時、珍品を持って来ました」


 背筋を伸ばしていたチャドが前かがみになり、両肘を太ももにつけ、手を組む。


「多少の目利きならばできると俺は思っていましたが、あれが何なのか良く分からなかった」


 セシルに渡したって言うと胃薬と包帯か。


「それと見慣れない衣服を着た異国の客人。あれが異国の者が持ち込んだ代物だと言われれば俺は納得できる」


「お察しの通りです。あれらの代物は俺がセシルとの取引で持ちかけた物です」


「そして、その異国の者が私から買い取りたいという商品は何でしょう?」


「チャドさんが商品として取り扱っている奴隷を三人買い取らせてもらいたい」


「奴隷といっても、何人もいるのでね。どれのことか分からない」


「兄さん。今日、入荷されたトール人とタイン人の奴隷です」


「ああ、あの成金貴族から買ったアレか。あれならカズキさんに売ってもいいですよ。3人で金貨20枚」


「それは良かった。金なら用意しているんです」


 俺はジャラジャラと金貨20枚を卓上に並べる。
 チャドは金貨を受け取り、数え上げる。


「確かに20枚。……今から奴隷所有の書面を書いても役人が受け取ってくれるのは明日。お急ぎでないのでしたら、今晩の食事は私共と一緒になさってはいかがですか?」


「それはいいですね」


 金策に走り、夕食を食べる時間が無かった俺はこの申し出が非常にありがたかった。


「兄さん、商会長も一緒ですか?」


「いや、商会長は貴族様のご機嫌取りに忙しいらしい」


「そうですか。では、食事会は3人ということになりますね」


「そうだな。……そうだ、湖の国から卸された魚を出す店を見つけたんだ。そこに行こう。カズキさんは堅苦しい店よりも気楽な店がお好きだと思いますが、いかがでしょうか?」


「え? ええ。テーブルマナーにうるさくない食事処の方が俺には向いてます」


 豚肉とか牛肉よりも魚肉が俺は好きだ。好きな料理は寿司だ。ただ、この世界の海は忌み嫌われていて、出る魚も湖の物って事は淡水魚。生魚は食べられないんだろうなぁ。


「では、すぐに出掛けよう。しかし、外は冷えるな。カズキさん、これを着るといい」


 チャドが渡してきたのは少し厚手の毛皮の上着だ。
 そういえば、室内なのに少し肌寒いか。外に出たら体が冷えるだろう。


「ありがとうございます」


 俺は礼を言いながら上着に腕を通す。保温性は十分で、すぐに肌寒さが心地よい暖かさに変わった。


「カズキさん、この執務室を出たら俺は商売人ではなくなり、カズキさんは客人じゃなくなる。対等な友人として今日は夕食をご一緒しましょう」


 そう言ってチャドは一歩、敷居を跨いだ。


「さぁ。カズキ、セシル。飯だ飯だ! 今日はたらふく食うぞ!」

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