異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第36節 金策

 俺は早速、現代のスーパーに向かい、店員に無理を言って胡椒を買えるだけ購入した。
 なんか途中までは店員に冗談かと思われたが、会計まで進むと信じてもらえた。
 他にも何件か回り、手持ちの金が許す限り、合計200を超える胡椒瓶を購入した俺は、それをリュックにつめてトイレに駆け込み、A4サイズのゲートに腕を突っ込んで破る。紙のサイズの制約を無視できる手段は便利だ。
 そして一度セシルに胡椒瓶を売り払った。俺の取り分は金貨16枚に相当する。そして、それと等価な純金を要求したが、さすがにすぐに準備できる量ではないと言われ、そしてセシルはこう提案した。


「金貨16枚相当の純金ではなくてはいけないでしょうか? 金貨そのものでも純金の価値はあると思いますが」


 そのとき、俺はなるほどと思った。
 通貨を勝手に現代に持っていくのはまずいと思っていたが、それを咎める人間はいない。
 そう改めた俺は金貨を受け取り、それを質屋に持っていった。
 予め、金相場を調べてみると、およそ1グラムあたり5000円。金貨1枚が約20グラムのため、単純に計算すると金貨1枚で10万の価値がある。
 俺は金貨を1枚だけ換金した。当初の予定からやや劣るが9万円の現金を得た。ウハウハである。
 金貨は残り15枚。質屋換算で135万。
 ここで1エルグ=20円という俺相場が崩れた。金貨1枚の1万エルグで9万円。質屋換算だと1エルグ=9円となる。
 それでも大金には違いない。現金9万円と潜在資金135万。順風満帆だ。


 なんというか、働かずにこれだけの金が手に入るのはいいのだろうか。と、変な罪悪感すら感じてしまうほど、金を稼ぐのが簡単だ。
 ともかくだ。わりと時間が押している。既に現代世界では夕方に差し迫っている。
 俺は次に薬局に向かい、解熱剤を買占めに走った。これまた何軒か回り、100瓶。それから30個入りのチョコレート袋を100袋仕入れる。


 大量の商品をリュックに詰めては異世界に送り、気づけば夜になっていた。


 それにしても一度の会計で万単位が当たり前になってきたあたり、金銭感覚が狂い始めている。
 手に入れた9万という金も仕入れで全て飛んでいった。しかし、それに見合うだけの品物をセシルに引き取らせ、金貨11枚。手持ちの金貨が15枚。計、金貨26枚。
 目標達成!


 夜も深まり、さすがのオルコット商会も昼の熱気はない。


「セシル、これを買い取ってくれ。そうすればあの三人を買い取るのに十分な額になるだろう」


「……まさか、一日で金貨20枚に相当する品物を用意できるとは思っていませんでした……」


 さすがの俺も午後の全てを品物を買う事に費やした。もう店員にあんな視線を向けられたくない。今後は大量購入しても怪しまれないルートを考えなければ行けない。
 ともあれだ。


「セシルの兄貴に合わせてくれ。金は用意した」


「……分かりました。今なら、執務室にいることでしょう。案内します」


 セシルはランタンを手に持ち、周囲を照らしながら案内してくれる。


「そういえば、これから会うのはセシルの上の兄貴? 下の兄貴?」


「下の兄です。名前はチャド・オルコット。たぶん、今は今日一日の売り上げに目を通している頃だと思います」


 と、オルコット商会の三階に上る。三階の廊下には絨毯が敷かれ、金満な生活が伺える。
 セシルが扉の前で止まる。
 扉一つにしても細かな意匠が施され、これだけでいくらするんだろうか。
 コンコンコン。静かな廊下にノック音が響く。


「――誰だ?」


 セシルとは似ていない低く厚い声が扉の向こうから返ってきた。


「セシルです。兄さんと取引がしたいというお客様をお連れしました」


「そうか。俺がこの時間に何をしているのか知った上で、ということはそれなりの案件か。――通せ」


「はい」


 セシルは扉を開き、俺に入室を促す。


「ほう。異国の者か」


 俺の姿を見て最初にそう思う人間は多いらしい。
 チャド・オルコット。セシルと同じ栗毛だが、セシル程は長くは無い。耳に掛かるかかからない程度か。
 体格も良く、がっちりとしている。栗毛のヒゲが印象的で威厳のある風体だ。たぶん、セシルの下の兄ということは二十代後半から三十台前半ぐらいだろうと見ているが、見た目だけなら40に届きそうでもある。


「俺はカンザキ・カズキです。夜分遅くに申し訳ありません。チャドさんから買い取りたい商品がありまして尋ねさせてもらいました」


「少し待ってくれないか。立ち話でできる程度の商談ではないのだろう。セシル、客人に茶の用意を」


「はい」


 セシルは俺に一礼してから部屋を出て行った。


「カズキさん。そちらに腰掛けてお待ちください」


 部屋の脇に革製のソファーが数個と木製の机が置かれている。商談スペースのようなものかもしれない。
 俺はチャドの言葉に従って座る。座り心地は悪くない。
 さてと、ここで頭の中を整理しよう。手持ちの資金は金貨26枚。あの奴隷の展示価格は3人で金貨20枚。多少の値上げをされても平気だ。
 最悪、アイリスだけを購入し、残りの二人を予約という形で前金を支払ってもいい。
 商才があるわけでもなければ、弁才もないが、無尽の物資を供給できる程度の能力があればなんとかなる。


「カズキさん、こちらを飲んで肩の力を抜いてください」


 いつの間にかセシルがそばに近づいていた。随分と金勘定に没頭していたと気づかされる。


「ああ。ありがとう」


 金属製のコップには緑茶が注がれていた。
 カルチャーショック。


「セシル、この国に陶器は無いのか?」


「カズキさんは陶器製の器の方が良かったですか?」


「ああ、俺の国……というか、俺の家は陶器だったからな。まぁいいや」


 金属製のコップは比熱が低いから、熱くなりやすい。だから、陶器の方がいいんだけど。
 俺は注意しながらコップを触ってみるが、そこまで熱くない。熱くないが、飲んでみると温い。
 こういう文化圏なんだろうか? それともセシルが淹れ慣れてないだけだろうか。


「カズキさん、お待たせしました」


 チャドは謝りながら、ハンカチで右手を拭いている。白地のハンカチが微妙に黒く染まっている。


「それで、本日はどういった御用で?」

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