異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第11節 オルコット商会

 店を出ると日は高く、周囲は人通りが盛んだった。
 道路は砂利が敷き詰められており、目の前の道が主要道路であることが分かる。街並みは木造が七割、石造が三割。どうも木造の家屋は貧相で石造の家屋は裕福に見え、門構えや装飾品の有無でなんとなく分かる。また、あまり背が高い建物は無く、空が広く感じられた。
 人通りの多くはアベル人であり、褐色のシーク人や背が高く色素の薄いトール人はいない。小柄なタイン人に限ってはアベル人の子供とあまり見た目が変わらないらしく、俺には判別がつかない。
 俺は気を取り直して、まずは宿を探すことにした。
 初めはセシルに挨拶をと考えていたが、旅先で宿探しを後回しにすると大変なことになると北の大地の某有名番組でも放送されていたことを思い出したからだ。
 宿の場所をリコに聞くのもいいが、街を見て回りたいという気持ちもあり、適当に見て回ればそのうち見つかるだろうと大通りを選んで歩くことにした。
 見た目のわりに軽い布包みを片手に街をぐるりと回る。
 この街、サニングは城壁に囲まれた城塞都市といった感じのようだ。人間同士の戦争の話は聞かないため、魔族対策だろう。
 城壁の高さはそれなりで現代のビルの四階建ての程だろうか。もしかしたら、この土地には地震がないのかもしれない。
 ある程度ひらけた場所ならどこからでも城壁が見え、城壁で囲まれているためそこまで広い都市ではないかと思ったが、意外にも広い。
 城壁の上に見張り台があり、その見張り台が等間隔かつ、城壁が円形をしていると仮定するとサニングは約直径10kmにも及ぶ城塞都市ということになる。
 街の傾向もなんとなく読み取れる。
 城門が三箇所にあり、その城門から都市の中央にかけての大通りは繁盛した店や裕福な人間の住む地区であり、城門から離れ、街の外輪の地区ほど貧しい者達が居住しているような感じだ。
 リコの店は大通りに面しており、以外にも周囲は繁盛している店のようだった。そのことから、万屋猫目石も繁盛している店と言ってもいいのかもしれない。
 そういった傾向から繁盛している宿もまた大通りに面しているだろうとあたりをつけ、適当にぶらつく。
 店先には読めない文字と絵が描かれた看板の二種類がある。
 麦、肉、青果等の食品毎の食品店や服、帽子、靴といった各種の衣類店、中には薪屋なんてのもあった。もしかしたらギルド運営の専売制だろうか。
 そうやって見ていくと、ベッドが描かれた看板を発見した。やっぱり、この世界でもベッドは宿の象徴なんだろう。
 その隣には泡立つジョッキの看板。酒場だ。この世界でも酒場と宿屋は共栄関係にあるらしい。
 宿の作りは木造の三階建て。客室を多く確保するためだろうか、ぱっと見の敷地も広い。
 木製の扉を開き中に入る。内装は木材が中心。床は綺麗に石畳が敷かれている。
 カウンターには誰も居らず、フロアに客の姿は無い。
「すみませーん」
 店員が居ないかと呼びかける。すると奥の方からゴソゴソと物音が聞こえてきた。
「あいよ」
 カウンターの奥からおっさんが出てきた。側頭部から後頭部にかけてのみ、もっさりした茶色の髪があるおっさんだ。少し赤ら顔なのは酒を飲んでいたからだろうか。
「いらっしゃい」
 赤ら顔で笑みを浮かべるおっさん。真昼間から酒を飲むのは客商売としていかがなものだろうか。
「しばらく泊まりたいんですけど」
「お客さん、どこから来なさった?」
 おっさんは台帳を取り出しながら聞いてきた。単なる世間話だろう。俺の服装がこのあたりの人間から逸脱しているためか、そういう質問は投げられることは村でもあった。
「南にある村からです」
「南といえばオークス様の領地か」
 ゲイリーの雇い主も確かオークスって名前だから間違いないはずだ。
 おっさんは台帳を開いて俺に見せる。
「うちにある部屋は二種類。二等と一等の二つだ。二等はベッドがあるだけの部屋で料金は一泊銀貨三枚。一等は二等より広くてベッドとサイドテーブル、椅子と机、あとは扉に鍵が掛けられて一泊大銀貨一枚だ」
 鍵付きは重要だな。
「一等で」
 おっさんは台帳を捲り目的のページを開く。
「名前は?」
「神崎です」
 おっさんが台帳に俺の名前を書き込むがその文字は読めない。
「カンザキと。何泊するんだ?」
「三泊で」
 おっさんは台帳にサラサラとペンを走らせる。
「じゃあ大銀貨三枚だな」
 おっさんから要求された額をその場で手渡した。どうやら前払い制らしい。
 おっさんは俺から金を受け取ると、カウンターの奥へ振り向いた。
「おーい!」
「はい!」
 おっさんの呼び声に反応したのは若い男の子の声だった。
 やってきたのは男の子。まだ小学生の高学年ぐらいか。
 かなり生地が傷んだ服を着ていて、客商売とは思えない風体だ。
「旦那様、どうかしましたか?」
「お客だ。一等の部屋に案内するんだ」
「分かりました」
 男の子は一度奥に引っ込んで鍵を手にして戻ってきた。
「お客さん、こっちです。ついてきてください」
 男の子に先導され、俺は階段を上る。
 着いた先は三階の大通りに面した角部屋。
「こちらがお客さんの部屋です。それと、この鍵でこの部屋の鍵がかけられます。お渡ししておきますね」
「ああ、ありがとう」
 男の子は一瞬、呆けた顔をした後、凄く嬉しそうな顔をした。
「お客さん、何かあったら俺を呼んでね」
 少年は足取り軽く階段を下りて行った。
 俺は特に気にすることなく扉を開き部屋に入る。村に居た頃にトム爺さんに貸してもらった部屋より広くて清潔だ。
 俺は絵を適当に壁に立て掛け、ベッドに横になる。
 気分はまさしく、ゲームのチュートリアルを終えた直後のようだ。
 さてと、まずはセシルの所を訪れるか。兎にも角にも、魔法について知りたい。
 ベッドから跳ねるように起き上がり、支度をする。
 まずは現代の俺の部屋とこの宿を繋ぐゲートとなる絵を用意し、大学の製図の実習用に買った図面入れ。表彰状をくるくると丸めて入れるような筒に対応する絵を入れる。
 不思議なことに絵にくっきりとした折り目が入るとゲートとして機能しなくなる。例えば、絵の一部が欠けてもダメらしい。基準は分からないが、絵の損傷がダメなようだ。
 それと、セシルに売れるであろう調味料の類や、薬類、あとは適当にお菓子をリュックに詰めて持っていく。気分は遠足だ。もちろん、ゲイリーから貰った短剣も忘れない。
 さっきの少年にオルコット商会の場所を尋ね、向かった。
 オルコット商会は非常に大きく石造りの三階建て。しかもこの世界では珍しく、三階の一室にはガラス窓が使われていた。
 裏手では馬車の出入りが激しく、袋を担いだ人達の往来も激しい。商品の入荷や出荷は裏手で行われているようだ。
 俺はオルコット商会の正面玄関から入り、受付嬢にセシルとの面会を求め、俺の名前を伝えれば、セシルが応じてくれるだろうと伝えると、受付嬢が席を立った。
 待ち時間の間、俺は店内を見渡してみた。
 何人かの客が椅子に腰掛けている。
 貴金属の装飾品をした者や、華美な装飾品をしていないが清潔感のある者、清潔感が無く目が血走った者等、三者三様で並んで椅子に座っている。この店では色んな訪問客が居るらしい。
 内装も石造りが基調で、所々で木造の梁がわたしてあったり、ボードに紙が貼られていたりとゲームでよくあるクエストボードみたいになっている。
 天井が高く、窓は大きく広げられており、光を多く取り入れた設計だ。
 しばらくすると受付嬢と一緒にセシルがやってきた。
「カズキさん、随分お早い到着でしたね」
「まぁね。それより今は時間大丈夫だった?」
「ええ。他の人の耳に入れたくない話もあるでしょうから、上でお話しませんか?」
「上に商談室でもあるのか?」
「ええ。私もオルコット商会の一員ですから、部屋の一つぐらいなら今すぐ取れますよ」
「じゃあ、お願いしようかな」
「はい。そういうことなんで上で空いている部屋はあるかな?」
 セシルは受付嬢に尋ねた。
「今は全室空いていますよ」
「良かった。それじゃあ、カズキさん。こちらへどうぞ」
 セシルの先導に俺は従って付いて行く。
 オルコット商会を目の当たりにして、改めてセシルが坊ちゃんであることを認識した。
 二階に上がると廊下には幾つも扉がある。あの扉の一つ一つが商談室なんだろうか。
「この部屋にしましょうか」
 階段側から見て、一番奥から二番目の部屋。
 中を覗き込むと思ったより狭い。扉の間隔に対して部屋が狭いって事は盗聴防止のためか壁が厚くなっているのかもしれない。
 大きめの机が一つ、椅子が六つ。俺は扉から見て奥側の椅子に座り、セシルは俺の正面に座った。
「今日はどういったお話でしょうか?」
「ああ。今回はこんな商品を持ってきた」
 俺はリュックを下ろして、薬品類、調味料、甘味類を並べた。
「こっちの小瓶が薬で、こっちが調味料、こっちがお菓子」
「これがカズキさんの国の品々ですか……」
「まぁね。一応、サンプルとして各種一つずつはセシルにあげるよ」
「いいんですか?」
「商売人が商品を知らないで取引もないだろうからね。こっちが解熱剤で熱を下げる薬。こっちが胡椒で香辛料の一種。こっちがチョコレートで甘いお菓子」
「これが解熱剤ですか……薬草を煎じた物を乾燥させて固めた物ですか?」
「もっと言えば、薬草の中から熱を下げる成分だけを取り出した物かな」
「成分だけを?」
 俺の言葉に驚いたセシルは小瓶を開けて錠剤を一粒取り出してじっくりと眺めてから中に仕舞った。
「まぁ俺の国ではそういうことができるんだよ」
「では、こちらのコショウは……一度見せてもらったことがありましたね」
「そうだったな。じゃあそれの話は省こうか」
 チョコレートの袋を開き、中から包装紙に包まれた一口サイズのチョコレートをセシルに手渡す。
「こっちが甘味のチョコレートですか」
「まぁ口で言うより、実際に食べたほうが早いよ」
「では、いただきましょう」
 そこでセシルは一度手を止めた。
「このチョコレートはこのまま食べられるんですか?」
 セシルが何に戸惑っているのか俺はここで気がついた。透明な包装紙に慣れていないんだと。
「ああ、これはこうやって包み紙を取って食べるんだよ」
 包装紙の両端を引っ張り、くるりと一回転させて中身を取り出す。
「これが包み紙ですか? 透明な紙でわざわざ包む程、高価な物なんですね……」
 呟きながら、チョコレートを口に入れる。
 セシルが勝手に勘違いしているが、まぁそれはいいか。
「……これは……」
「どうかした?」
「……いえ。カズキさんの国は技術力だけでなく、食品加工までレベルが違うのだと改めて知らされました」
「まぁ……こっちに比べたら製糖技術とかも進んでるだろうね」
「……いいでしょう。では、カズキさん。これらの商品をおいくらで売っていただけますか?」
「あー、値段のことなんだけど俺だってこの商品がどれぐらいの値なら売れるかさっぱり分からなくてさ」
「……それで?」
「だからさ、あのリコさんの鑑定で値段を付けて貰おうって思ってさ」
「リコさんに鑑定を?」
 ここでリコの名前が出たことが意外そうなセシル。
「リコさんの鑑定を俺も間近で見たんだけど、名称、用途、価値が分かるって話でさ」
「確かにリコさんの鑑定なら、正しい価値が分かるかもしれませんね」
 セシルは少し考え事をし始めた。
「……分かりました。早速、リコさんを交えて商談としましょう。今からリコさんに遣いの者を出してきます」
 セシルは商談室から出て行き、俺一人になる。
 口寂しくなった俺はチョコレートを一つ摘んで口に入れる。
 手持ち無沙汰で、この世界に来るときは必ず携帯している短剣を抜き、刀身を眺める。
 ゲイリーの手入れは行き届いており、数日程度では錆が浮くことも無い。
 ちょっと調べた感じだと、こういった刀剣は紙やすりで錆を落として、油やら防錆剤を塗る必要があるらしい。
 これからはこの剣の手入れは俺がしなきゃいけないんだなーと思っていると、セシルが戻ってきた。
「お待たせしました。しばらくすればリコさんもいらっしゃるでしょう」
「ああ、分かった」
 俺は短剣を鞘にしまう。
「では、取り分の話をしましょうか」
「取り分?」
「ええ。オルコット商会では相場として、品物の定価の七割が仕入れ主に、残りが販売者の懐に入ります」
「へー、じゃあその定価ってのがリコさんに鑑定してもらった額になるってこと?」
「はい。そこで相談なんですが、カズキさんさえ良ければ、私と独占契約を結んでいただけませんか?」
「独占契約?」
「はい。カズキさんの取り分を定価の八割にする代わりに、商品は私だけに売っていただきたいのです」
「まぁそれはいいんだけど」
「いいんですか?」
 俺のあっさりした返事にセシルは面食らった様子だ。
「他の商人の知り合いがいないしね。それより、セシルには色々と教えてもらったり、この翻訳の魔宝石を譲ってくれたり、世話にはなったからね」
「本当に、私と独占契約をしていただけるんですか?」
「うん。あ、それとお願いなんだけど」
「お願い?」
 セシルが少しだけ身構える。
「うん。俺への代金の支払いはこの国の通貨じゃなくて、純金でお願いしたいんだけど」
「純金ですか?」
「うん。純金のメダルだったり、純金の装飾品だったり、なんでもいいんだけど、大事なのは重量」
「さすがに純金の流通量によりますが、可能な限り支払いは金ということでいいですか?」
「うん。用意できない分は普通にエルグ硬貨でいいよ。一応、純金だったら俺の国でも売ることができるからさ、俺の国の商品は俺の国のお金じゃないと買えなくてさ」
「分かりました。一応、シーク人との人脈もあるので一定量の純金を優先的に仕入れることは可能です」
 シーク人というと山の国の種族だ。採鉱や製鉄が盛んだという話だから金鉱も取れるのだろう。
「あともう一つお願い」
「もう一つ?」
「うん。魔石を加工できる職人を紹介して欲しい」
「それは魔石を魔宝石に加工するという意味ですか?」
「いや、単純に魔石をカットしたり、研磨したりできる職人。指輪とか耳飾にできる細工職人とか」
「それならば可能ですよ。商会ギルドは職人ギルドとも交流が深いので明日にでも紹介します」
「それは助かる。もしかしたら、魔石で作った装飾品でも俺の国で売れるかもしれないからさ。一応、代替品も用意したくてね」
「そういうことだったんですか。それならば、後で職人ギルドの方には話を通しておきます」
「了解」
 コンコンコン。
 商談室を叩く音。どうやらリコがやってきたらしい。
「どうぞ、開いてますよ」
 セシルが入室を促す。
「えーっと、セシルさんが私をお呼びだと伺ったんですが……」
「ええ。どうぞ、おかけください」
 リコはおずおずと部屋に入り、俺の隣に座った。
「さてと、こんな時間にお呼びして申し訳ありません」
「いえ、お客さんが来ない時は本当に来ないので別にいいのですが」
「実はリコさんと商談をしたいと思いまして」
「商談ですか?」
 セシルとリコが話している間、俺はチラリとリコを見た。
 両手は太ももの上に置かれ、片方の手ではノーマンの魔宝石が握られていた。
「ええ。実はカズキさんから商品を売っていただこうと思ったのですが、適正な価格が分からない。そこで、リコさんの鑑定の力でこれらの商品がいくらの価値を持つのか鑑定していただきたいのです」
「本当ですか、カズキさん」
「はい。できれば適正な価格で売りたいんですよ。俺はこの国に来て間もないですし」
 まぁ『神の見えざる手』が働くのを待つってのもいいんだけど、あれは需要と供給で決まる法則で、供給量に関しては極端な話、この街の全員を余裕で賄えるだろうし。
 供給を絞って値を吊り上げるか、供給を開放して安価で普及させるか。そこらへんは経営者を目指す人間が考えればいい。
「分かりました」
「それで、鑑定料の話なんですが」
「それは結構です。カズキさんが持ち込んだ品々は無料で鑑定すると決めましたので」
「そうなんですか?」
 セシルの問いに俺は頷き返した。
「ええ。どれから鑑定いたしましょうか」
「じゃあ、この順で」
 俺は解熱剤、胡椒、チョコレートの順でリコの前に並べた。
「では、少しお待ち下さい」
 リコは一つ一つ丁寧に鑑定していく。まぁ実際に鑑定しているのはノーマンだけど。
「鑑定が終わりました」
「それで、これらの商品の価値は?」
「こちらの薬は一瓶で大銀貨一枚。こちらの調味料も一瓶で大銀貨一枚。こちらの菓子は一粒で大銅貨一枚です」
 なかなかな値が付いた。これの八割なら俺から文句はない。
「一瓶で大銀貨一枚ですか……」
 さすがのセシルもその額に驚いている。まぁ小瓶一つで大銀貨一枚、俺換算で二万円だ。
「はい。これらの商品一つに対しての公正な値段です。これより高い値を付けるか、安い値をつけるかはセシルさん次第ですが」
 部屋に入るときの姿とは代わって、今のリコの姿は鑑定人として凛としている。
「分かりました。鑑定していただき、ありがとうございました」
 今の値段を聞くに、庶民向けの商品というよりも貴族や王族相手の商売になるのかな。
「今後、カズキさんから商品を提供した頂いた品物は万屋猫目石に持ち込んでも良いでしょうか?」
「はい。いつでもいらしてください。ただし、セシルさんからの依頼での鑑定というならば今後は有料となりますのでご注意ください」
「ええ。今回はカズキさんに対するリコさんの厚意に便乗した形となりましたが、今後はきちんとした取引としましょう」
「ええ、ところで出張鑑定はこれでおしまいですか?」
「はい。それと、これは私からリコさんへご足労頂いた手数料みたいなものです」
 セシルは安くはない額のお金をリコに手渡す。たぶん、大銀貨が数枚といった所か。
「意味は分かりますよね?」
「ええ」
 短いやり取りを終え、リコは席を立つ。
「カズキさん。今度はゆっくりお食事でもしましょう」
 思わぬ臨時収入が入ったからか、リコは少し嬉しそうだ。
「はい。そのときは俺の方から誘わせてもらいますね」
「楽しみにしてるわ。またね」
 リコは扉を開き退出していく。
「私達も出ましょうか」
 リコを見送り、俺も席を立つ。
「そうだな。そういや、オルコット商会ってかなりでかいんだよな。裏手の人の出入りが激しかった」
「良かったら見学されていきますか?」
「え、いいの?」
「ええ。今後はカズキさんもオルコット商会のお客さんであり、仲間ですから」
「じゃあ、セシルに案内してもらおうかな」
「いいですよ。では、私についてきてください」
 セシルの先導に従って商会の裏手に回る。イメージとしては、大型スーパーの関係者以外立ち入り禁止区域を通っている気分。
「ここは商品を保管する倉庫です」
 見たまんまだ。木箱や木枠がたくさん並んでおり、その中に各種の商品が詰まっている。
「こちらが商品の入荷や出荷をする裏門です」
 何台もの馬車が並んでは、荷を降ろしたり積んだりしている。
 その中で一際でかい箱、というより檻を見つけた。檻は馬車から下ろされている真っ最中だ。
「あれは?」
 俺は檻を指差す。遠目からは分からないが、見世物の動物でも受け入れているのだろうか。
「あれは奴隷ですね。ちょっと待ってください」
 セシルは近くの人間を捕まえた。
 それにしても奴隷かぁ。この世界の奴隷は財産と考えられるのか、消耗品と考えられるのか……。
「君、あの商品について知っているかい?」
「おや、セシル様。こんな場所に来なさるなんて珍しい。……ああ、あの奴隷ですか。確か、森の国の貴族が借金漬けで売られてきたって話ですぜ」
「おや、貴族の奴隷とは珍しいですね。どういった経緯か聞いていますか?」
「詳しいことは分かりませんが、サニングの貴族様があの奴隷に金を貸して、返せなくなったから、領地と一緒にあいつら自身も貴族様の所有物になったって聞きましたぜ。貴族様が欲しがってたのは領地だけで奴隷は要らないって話だそうで」
「ありがとう」
 セシルは男に大銅貨を一枚握らせると、男はヘコヘコしながら立ち去っていった。
「カズキさんの国では奴隷は売れませんか?」
「あー、俺の国には奴隷そのものがいないから売れないな」
「そうですか。それにしても、カズキさんが興味を引くなんて珍しいですね。先程の倉庫では高価な毛皮や良質な岩塩には興味も示さなかったのに」
 そうだったのか。
「ちょっと、あの奴隷を見てもいいか?」
「ええ。奴隷の受け入れ先はあちらなので、ついて来て下さい」
 再びセシルの先導に従う。
 それにしても奴隷か。
「この国では奴隷っていくらぐらいするんだ?」
「アベル人の相場なら金貨五枚から十枚でしょうか。子供の奴隷で五枚、労働力となる成人男性や、綺麗な成人女性なんかは十枚というのが相場です」
 というと、この国では奴隷は消耗品じゃないってことか。安い子供の奴隷で金貨五枚というは俺換算で百万円だ。それなりの扱いは受けるんだろう。
「なるほどね。それにしても、他国の貴族を奴隷にできるってのは凄いな」
「そういう契約だったのでしょうね。アベル人は金を持っていて、金の力で他国を侵略するなんて言われることもあります」
 まるで貿易摩擦だな。
「森の国の貴族って事はトール人なんだよな。トール人はあまり金を持ってないのか?」
「そうですね……森の国は主に狩猟による肉や毛皮といった嗜好品、それから建築用の木材、それから薪や木炭、農業による麦といった人々の生活に欠かせない物を扱っているので決して貧しいわけではないはずです」
「だとすると不思議な話だな」
 俺が考え込んでいる間に檻が倉庫に格納されていた。ゆっくりと近づいてみると、大きい影が一つ、小さい影が二つあった。
 大きい影がトール人なんだろう。噂通り、背が高く色素が薄い。白い肌に金の髪。男だ。
 二つの小さい影は女の子のようだ。……いや、片方は少し老け顔のようにも見える。ひょっとして噂のタイン人か? もう一つの影はトール人に似た白肌に金色の髪の少女だ。
「どうやら、その子はトール人とタイン人の混血のようですね」
 俺の疑問にセシルが先んじて教えてくれた。
「へー、混血ってやっぱり珍しい?」
「そうですね。やはり混血は忌み嫌われますから、産後に処分されることも少なくないです。それに生き残ったとしても場合によっては魔人と間違われ迫害を受けることもあります」
 あー、そういうこと。
「あなた方は?」
 トール人の男が話しかけてきた。
「あー、ちょっと社会見学してるだけの旅人」
 適当に返事をする。
「この人らってどれぐらいの値が付く?」
「そうですね……トール人ならば魔力が高いので、軍の研究材料になるかもしれませんし、貴族の便利な道具になるかもしれません。出身が貴族ならば礼儀作法も行き届いているでしょうし、きっと金貨二十枚は下らないでしょう。売られたら最後、家族もバラバラとなり再会できる保障もないでしょうね」
 トール人の男は、そんな……と膝を着き項垂れている。
「――旅人さん」
 可愛らしい声につい耳が反応してしまう。
 その声がどこからしたのか一瞬分からなかった。まさか、その声が檻の中からするとは思わなかった。
「私を買ってくださいませんか?」

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