異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第10節 万屋猫目石

 セシルがサニングに到着する予定の日がきた。
 俺は一度村に戻り、俺によくしてくれたトム爺さんやタニア婆さん、それにアニーに挨拶をした。
 アニーは全快とは言えないまでも、日常生活では支障が無い程度に快復した。
 あと、村を出るとき少し嬉しい事があった。村人達が全員で俺を見送ってくれたことだ。何かと俺に手土産を持たせようと気を使ってくれた人達もたくさんいた。
 せっかく用意してくれたそれらを断るのは心苦しかったが、五日間の旅程でそんなに持てないと少量だけをいただいて村を発った。
 それとこっそり村長の家の天井裏にゲートを仕込ませてもらった。これでいつでも俺はあの村に戻ることができる。
 村を出てしばらく歩き、村から十分に離れた場所で俺はゲートを使う。
 路上で使うため戻る気も無い。地面にイラストを置き、片足を沈めた状態でイラストを破り、そのまま俺は落下し、布団の上に着地。
 足から落ちたのに背中から着地する。変な感覚だが、これも慣れが必要だろう。
 俺は早速、例のワンシーンを印刷したプリントに飛び込んだ。
 今回は偵察目的で簡単なメモ帳とむこうの金を持ち、通訳の耳飾と首飾りをしている。
 首だけをつっこんでみると、薄暗い屋内のようだった。
 棚に様々な物品が並んでいる。たぶん、セシルは約束どおりサニングの万屋猫目石に絵を届けてくれたんだろう。
 陳列される物品を眺めてみると値札のような物はない。この世界の購買システムはどうなってるんだろうか。
 周囲に誰も居ないことを確認してから店に入る。
 俺が店内を物色していると誰かが入店したような音がした。
「リコ、いるか?」
 男の声だ。
「いるわよ。今日は何を持ち込んできたの?」
 今度は女性の声だ。やや気だるい声で返事をしている。
「これだよ。魔石だ」
 ジャラジャラと音がする何かをドンと置くような音。
「あら、結構な量ね。どうしたの?」
「魔獣狩りの依頼があってな。結構な数の魔獣が現れて、狩りつくしたらこの量になったんだ」
「そう。あんたのお友達に怪我は無い?」
「まぁ無傷ってわけにはいかなかったけど、廃業するほどの怪我はしちゃいないよ。これを売った金で飯を食えばすぐ治るさ」
 男はそう言って笑った。
「そう。ちょっと待ってて、すぐ終わるわ」
「ああ、その間に中を見せてもらうな」
「ええ。終わったら呼ぶわ」
 男の方がこちらにゆっくりとした足取り近づき、棚向こうで立ち止まる。
「リコ、また物が増えたんじゃないか?」
「……そうね。どれもそれなりの価値があるものだけど、買ってくれる人があまりいないのよね」
「今のご時勢じゃ、食べ物の方が大事だしな。そういえば、また宿の飯が値上がりしたんだよ」
「他のお客さんも言ってたわ。それに、最近は魔獣が出てきて収穫が減ってるって。それのせいじゃない?」
「あー、そういや今回の依頼も農村からだったな。最近、魔獣狩りの依頼が増えてる気がしてるのは気のせいじゃなかったか」
 そのタイミングで男は聞き耳を立てていた俺に気がついた。
「お、先客が居たのか」
「え? 誰か居るの?」
 男の方が俺に気づき、リコも俺が居ることを察したらしい。
「こんにちわ」
 俺は適当に挨拶をする。
「おっと、こんちわ」
 男の方も俺に挨拶を返してくる。
 俺は男をぱっと見てみた。革鎧に部分的な金属のプレート。腰に短剣を差し、ゲームでよくみる初心者のような装備だ。
 歳は若そうに見える。俺とあまり変わらないぐらいだろうか? 西洋人風の容姿なので俺の感覚はあてにならないかもしれないが。
 突出した特徴は無いことから、たぶんアベル人なんだろう。
「ちょっと物珍しくて店の中を見させてもらってたんですよ」
 俺は敵意が無い事のアピールとして男に対して笑いかけた。
「まぁ普通の店には並ばない物も多いからな」
 男は俺を特に警戒している風もないが、俺の顔をマジマジと見る。
「……あんた、ここら辺じゃ見かけない顔だな?」
「ええ。最近、サニングにやってきました」
 最近というか今日なんだけど。今日というかさっきなんだけど。
「そうか。まぁこの街は人も物も自然と集まってくるからな。でも珍品はこの店にしかないぜ」
 男は軽口をたたいて笑った。
「ちょっと、余計なことを言うのはやめてよね!」
 さっきまで気だるそうなだったリコの声が少し高くなっている。俺という客がいるからだろうか。
「そういえば、ある村で万屋猫目石の店主のリコさんのお話を聞いたんですよ」
 俺は棚影から顔を出してリコと目線を合わせた。
「私の?」
 リコの容姿はアニーと大きくは変わらない。ただ、目元が猫のように大きく、可愛らしい顔立ちだ。
「アニーという名前に聞き覚えは?」
「アニー!? 私の妹に会ったの?」
「ええ。リコさんのことを凄く尊敬しているようで、色々とお話を聞かせてもらいました」
「そうだったの。あー、色々とお話したいんだけど今は鑑定中だし……」
 リコはそう言いながら俺と魔石を見比べる。
「俺は別に急いでるわけではないので、お仕事を続けてください。その間、俺も店内の品物を見せてもらいますので」
「すみません。すぐ終わらせますので」
 リコが右手で持っている黄色い石。握り拳よりも大きいそれは占いで使われている水晶球のようだ。それを魔石に掲げている。それがアニーから聞いた魔宝石だという事はすぐに察しがついた。
 俺は適当に店内を物色しながらさっきの男に話しかけた。
「最近、魔物が出るって話ですけど、そんなに増えたんですか?」
「ん? ああ、増えたね。依頼書だけで言うなら三倍ぐらいかな。俺としては仕事が増えてありがたいけどな」
 男は商品を手に取り、角度を変えながら眺めては棚に戻していた。
「そういえば、俺が居た村でも魔獣騒動がありましたよ」
「へぇー。村で? それでよく無事だったな」
 男はまた陳列された商品に手を伸ばす。
「火掻き棒でぶん殴ったら簡単に倒せたんですよ」
 俺の言葉に男は手を止めた。
「ハッハッハ。笑える冗談だ」
「それ、たぶん冗談じゃないわよ」
 俺の言葉を真に受けない男にリコが鑑定をしながら注釈する。
「あなた、もしかしてカズキさん?」
「もしかして、セシルから聞きましたか?」
 俺の名前を知っている理由なんてそれぐらいしか思い当たらない。
「ええ。オルコット商会の三男。この街で店を構えている人間で知らない人はいないでしょうね」
「オルコット商会と言えば、街一番の商会じゃないか」
 男は意外そうな声を上げた。
「ええ。そのセシルさんがそこに飾ってある絵を持ち込んできたのよ。その時にあなたの事や村の魔獣騒動の話、あとは村人を治療してくれたって話もね」
「へぇー。でも、火掻き棒で魔獣を倒したってのは嘘だろ?」
 男は訝しんで俺に確かめてくる。
「セシルさんが話した内容が本当なら、火掻き棒は普通の人間じゃありえない曲がり方をしていたそうよ。たぶんシーク人並の力じゃないとできないって話よ」
「本当かよ。だったら、とんでもねぇ力持ちなんだな。でも、体は俺とあんまり変わらないように見えるけどな」
 男が言うように俺と男の背はあまり変わらない。ただし、胸板は男の方が厚い。
「ちょっと腕相撲してみようぜ。リコ、そこのテーブル使っていいか?」
 男が指差したテーブルは腰ほどの高さの丸テーブルだ。
「いいわよ」
 なんか流れで俺と腕相撲をしたいらしい。
 こっちでも力自慢といえば腕相撲なんだな。
「リコ、適当に合図してくれ」
「……仕方ないわね」
 俺と男はがっちりと手を握り合い、肘を机につける。
「3、2、1、0!」
 ドカーン。ゴロゴロ。ガシャン。
 体は使わず、腕だけの力で捻ってみると男は簡単に転んだ。
 手の甲が机についたとかじゃなく、体ごと持っていかれて転がった。そして、壁に激突。そういう惨状だ。
「大丈夫ですか!?」
 思わず心配して駆け寄った。
「あ、ああ」
 男は呆けた顔をしている。念のため腕や肘を確認してみたが、痛めた様子は無い。たぶん、とっさに自分から飛んだんだろう。
「まさかこんなことになるなんて思わなくて」
「……ああ。いや、いいんだ。うん。火掻き棒で魔獣を倒したってのは信じるよ。素手で倒したって言っても俺は信じるね」
 男は呆けた顔のままそう呟く。
「まったくもう……店を荒らさないで欲しいわね。鑑定、終わったわよ。72000エルグ。金貨と大銀貨でいいかしら?」
 72000エルグといえば……現代換算で……144万円!? 大金じゃねぇか!
「ああ。それでいいよ」
 男はまだ呆けているのか、金額に対して大きな反応はない。それともこれが普通なんだろうか?
 男は金を受け取って店を出て行こうとし、一度足を止めた。
「そういえば名乗ってなかったな。俺はジム。無いとは思うけど、何か依頼があったらギルドに来てくれ。それじゃ」
 ジムはそういい残して金を受け取って去って行った。
「お待たせしました。カズキさん。どうぞかけてください」
 俺はリコに促されるがまま座る。
「セシルさんから聞きました。村の人達やアニーを助けてもらったって。本当にありがとうございました」
 リコはその場で深々と頭を下げた。
「どういたしまして」
 綺麗な女性に感謝されるというのは素直に嬉しいが、照れる。
「それにアニーの治療をしてもらったって聞きました。あの子の事が本当に心配だったんです。アニーは今でも無事ですか?」
「うん。一応、薬を飲ませて安定してましたよ。膿みを抑える薬とか痛み止めとかも飲んでもらったし、それなりの量の薬を手渡してるから俺がいなくても大丈夫と思います」
 リコに心配させないようアニーに対して俺ができる範囲で手助けした事を伝えた。
「そうなんですか……本当にありがとうございます」
「まぁ気にしないでください。偶然が重なっただけなんで」
 それこそありえない偶然ばかりだ。
「それでも、カズキさんがアニーを助けてくれたんです。あの子がいなくなったらと思うと居ても立ってもいられなくて……もし、セシルさんからカズキさんの事を聞いていなければ店仕舞いをして村に帰る所でした」
「まぁ心配しないでください。もう無事ですから」
 実際、大方の治療は終わって後は自然に回復するのを待つ状態だ。
「ところで、アニーに渡したという薬は今もお持ちですか?」
 俺の話で頻繁に出てきた薬に興味が引かれたのか、リコが聞いてくる。
「あー、今は無いかな。準備すれば持ってこれるけど」
「今度、見せてもらってもいいですか? どんなお薬なのか見てみたくて」
 一種の職業病だろうか。
「その魔宝石で鑑定できるんですよね?」
「もしかして、アニーから聞きました?」
「はい。魔宝石に認められたお姉ちゃんは凄いって」
「アニーったら、そんなのことまで話して……」
「その魔宝石ってどういう仕組みなんですか?」
「そうですね……。あまり他言しないでくださいますか?」
「はい」
 俺の返事と同時に俺の顔を覗き込むリコ。その大きな瞳が俺を映している。
「カズキさんは魔宝石の元となる魔石が魔人から手に入ることはご存知ですよね?」
「それは知っています」
 セシルから教えてもらったからな。
「実はこの魔宝石には魔人の意識が入っているんです」
「魔人の意識?」
「はい。私の父がある魔人と契約を交わしたんです。その魔人の願いを叶える代わりに魔人の知識を与えるという」
 なんか悪魔の契約みたいだな。まぁこの場合は逆だけど。
「じゃあ、その中に今も魔人が?」
「はい。魔人が自ら魔石となる場合は、その魔人の意識はそのまま魔石に残ることもあるらしいんです」
「だから魔宝石が仕える人間を選ぶってわけなのか。で、リコさんがその魔人に認められたと」
「簡単に言うとそういうことです」
 セシルは魔石を特殊な加工で魔宝石にするといってたけど、そういう方法もあるのか。
「それで、その魔宝石はどうやって使うんですか?」
「この魔宝石を通して鑑定したい物を見るか、この魔宝石に語りかけるとこの中に居る魔人が直接教えてくれるんです」
「自動鑑定機……便利ですね。どんなものでも鑑定できるんですか?」
「今まで鑑定できなかった物はないです」
 ここまでの自信があると試したくなる。
 俺は手元にあるメモ帳とボールペンを机の上に置く。
「これが何か鑑定してもらえますか? 鑑定料は支払いますので」
「いえ、お代は結構ですよ」
 リコは魔宝石を取り出して、面前に掲げる。
「……え? ……それだと、カズキさんが……。……分からない……ですか? ……じゃあ、値段に置き換えると? ……それは高すぎませんか?」
 リコはぶつくさと言いながら鑑定している。たぶん、魔人との対話なのだろう。
 それにしても、リコが持っている魔宝石。店の名前の猫目石の由来となっているのだろう。綺麗な黄色い猫目石だ。光の反射でその魅力を増している。
「鑑定が終わりました」
「どうでしょうか?」
「そちらは名称が分かりませんが、筆記具ですね。価格にして1000エルグ。こちらの紙も名称は分かりせんが、用途はそのまま紙で書き留める物。価格にして紙一枚に付き50エルグ。人によってはもっと値が付くでしょう」
 ボールペンが20000円で紙1枚が1000円か。やっぱり、現代道具ってのは良い値がつくな。それにしても現代の道具を異世界の価値に換算できるってのはめちゃくちゃ便利じゃないか?
「この紙はメモ帳といいまして、俺の国ではメモを取るための紙です」
「メモ帳ですか? このような良質な紙をメモに使うんですか?」
「まぁね。で、こっちがボールペン。この中のインクが残ってる限りは書けます。ただ、ペン先が汚れたりインクが固まると書きにくくなるので注意が必要です」
「ちょっと、書いてもらえますか?」
 俺はサラサラとメモ帳に落書きをする。
「……凄い。インクが途切れずに出るし、線の太さも一定……これなら確かに1000エルグの価値はあるかも……。紙もインクの乗りが良いし、こんなに薄いのに丈夫だし……1枚で50エルグでも間違いなく売れる……。オルコット商会なら100エルグでも買い取ってくれるかも」
「良かったら、プレゼントしましょうか?」
「ええ! そんな、勿体無い! 売ってもらえるならきちんと代金はお支払いします!」
 高価なプレゼントをされると困るタイプなのだろうか。商売人かつ、鑑定業をやっていると物の価値に聡くなるのかな。
「じゃあ、これらはこちらで売ることにしましょう。このメモ帳は100枚1組だけど、1枚使っちゃったんで99枚ですね」
「いえ、全部買い取らせてもらいます。全部で6000エルグですね。大銀貨でいいですか?」
「はい。大丈夫ですよ」
「では、こちらを」
 俺は裸銭の大銀貨をそのままポケットにしまう。
「それにしてもカズキさんはセシルさんから聞いたとおり不思議な人ですね」
「そうですか?」
「だって、魔宝石に魔人の意識があるなんて聞いたら普通の人なら驚くか敵意を見せるのに、カズキさんはそれが当たり前のように受け入れてくれましたから」
 ああ、この世界で魔宝石に魔人の意識があるってのは常識じゃないのか。
「まぁ魔族が居ない土地から来たんで魔石とかには疎いんですよ」
 そこらへんはセシルから聞いてないのだろうか。
「魔族が居ない土地ですか……。きっと平和な国なんですよね」
 まぁ国民が平和ボケしてるって言われる程度には。
「そうですね。少なくとも俺の国では戦争なんて無いですね。自然災害は多いですけど」
「自然災害が多いと飢饉の時は大変でしょう?」
「俺の国で飢饉なんてしばらく起こってないんじゃないかな。飽食の時代って言われて、食べ物を捨てることが問題になったりするぐらいだし」
「食べ物を捨てる!?」
 リコが驚いて立ち上がり、机から身を乗り出す。顔が近い。可愛い。
「まぁそういう国です」
「そんな信じられないような国の人がどうしてサニングに来たんですか?」
「まぁ簡単に言うと事故という偶然で村に辿り着いて、俺の国の道具は高く売れるって知って、サニングなら買ってくれる人がたくさんいるんじゃないかって」
「そういうことですか。でも、あまり荷物は無いようですけど……セシルさんの話ではカズキさんは馬車も持ってないという話でしたし」
「まぁそこは商売人としての秘密ってやつです。こういう便利な道具がある国ですから、荷物を運ぶぐらい簡単ですよ」
 まぁ現代だと荷物を運ぶ事がどれだけ大変かは昔からあまり変わってない気もするけど。
「そうなんですか……そういえば、セシルさんから実家の絵が届けられたんです。トムお爺ちゃんがカズキさんにお礼として渡したと。あれはカズキさんにとって価値のある物なんですか? 私の鑑定でもあまり値打ちの無い絵だったんですけど」
「まぁ俺にとっては大事な物です。わざわざ飾ってもらったようですが、引き取ってもいいでしょうか?」
「それはいいですよ。ちょっと待っててください。包んでた布を持ってきますから」
 そういってリコは店の奥に入っていった。
 リコが戻ってくる間、俺は店内を物色しようと立ち上がると視界にリコが持っていた魔宝石が写る。
 なんとなしに手を伸ばしてみると、さっきまでリコが持っていたためほんのり暖かい。
「小僧」
「え?」
 何者かの声に反応して咄嗟に周囲を見渡したが誰もいない。そして目の前には魔人の意志が残留しているという魔宝石。
「Can you speak?」
「ああ、話せるとも」
 英語だろうがなんだろうが、この首飾りは訳してくれるのか。
「小僧、この世の者ではないな?」
「それってどういう意味で?」
 まるで人を死人みたいに言うのはやめていただきたい。
 偉そうな老紳士風の口調で重たいトーン。威圧感を与えるには十分な声だ。
「我はこの世にある万物の名称、用途、価値を見出す物。しかし、小僧が持ってきた品々はこの世にあらざる物」
 チートやん。
「単純にあなたが勉強不足なのでは?」
「それはない」
 完全否定された。そういう能力があるが故に否定できるって事なのかな。
 アニメ、小説、漫画とフィクションの世界で自身の持つ能力の絶対さから断定する者も少なくないし。
「どうして俺に話しかけたんですか? 確か、認められた者以外にこの魔宝石は使えないって聞きましたけど」
「簡単な話だ。小僧の持ち込んだ品々に我の好奇心が刺激されただけのこと。故に小僧に話しかけた」
 めっちゃ素直な人だ。人ってか魔人だっけ? にしても、ゲイリーが言ってた通り、人間と変わらないやり取りができる。それにフィクションで言われるようなテレパシーみたいな意志のやり取りではなく、音として声を認識できる。それは通訳の耳飾と変わらない。
「なるほど。じゃあ、一応自己紹介をしておこうかな。神崎一樹。あなたは?」
「悪いが、我が認めた者にしか名は明かさない。呼び名が無いと不便ならばノーマンと呼ぶがよい」
 えらく偉そうだ。
「それじゃノーマンさんは何でも鑑定ができるんですね?」
「ああ。我に鑑定できぬものはない。用途が明確な物品ならば、用途を明らかにし、価値まで測ろう」
「じゃあ、これは?」
 俺はスマホを取り出してノーマンに見せてみる。
「我を掲げ、我を通して、対象を見よ」
 ノーマンの指示に従って魔宝石を通してスマホを見る。本来の猫目石ならば不透明で見通すことができないはずだが、ノーマンの指示に従って見ると猫目石が透け、スマホが見える。
「なんだこれは……」
 ノーマンが驚きの声を上げる。
「どうかした?」
「この品、用途が多すぎる。なおかつ、本来の能力が制限されているにもかかわらず、この能力……とても一言では言い表せん」
 電波が届かなくてもできる機能としては計算、時計、アラームに音楽。文書の保存もできるだろうし、確かに制限を受けた上でもできる用途は多い。
「これに値を付けるとしたら?」
「用途が複雑すぎ、買い手が見つからんわ。それでも値を付けるならば皇貨一枚は下らないだろう」
 確か皇貨は最上級の通貨。銀貨に換算すれば一万枚に相当する。魔獣の魔石で言えば五千個だろう。
「ただ、ただの魔力とは違う力、雷に似た力を内包しておる。それを安定的に供給する必要があるのだろう?」
「凄いですね。見るだけでそこまで分かるんですか」
「ああ。しかし、こんな品を当たり前のように持ち歩く小僧も中々だわい」
 この魔宝石欲しいな……便利だな……リコ、売ってくれないかな。でも、俺は認められてないから使えないんだろうな……。
「カズキさん? どうかしましたか?」
 畳まれた白い布を持ってきたリコが戻ってきた。
 村で貰った布より白い。たぶん、代わりの布を見繕ってくれたんだろう。
「ああ、ごめん。ちょっと気になって魔宝石を見てたんだけど、中の魔人が話しかけてきてさ」
「え? そんなこと初めてです。ちょっといいですか?」
 リコは俺から魔宝石を受け取り、何かを話している。
 俺は適当に待っていると話はすぐに終わった。
「どうやら、ノーマンさんはカズキさんの事を気に入ったみたいです」
 単刀直入に言うとそうらしい。
 魔人に気に入られた俺。よく分からん。
「カズキさんが持ち込んだ物なら無料で鑑定しても良いと言ってますね」
「ああ、そういや買取だけじゃなくて鑑定料とかでも稼いでるんだっけ」
「そうですね。収入の一部ではありますけど、鑑定料もノーマンさんの言い値で決まっちゃうのでノーマンさんが無料で良いと言うなら私もそれで良いと思います」
 ああ、自分の鑑定の能力の価値まで自分で決めちゃうんだ。ノーマン。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
 ノーマンは俺がこの世在らざる者と認識してるみたいだけど、敵対的な感じじゃない。むしろ、好意的に見ているらしい。これは僥倖。
「いつでもお店にいらしてください」
 社交辞令とは思えない可愛い笑顔をリコは浮かべた。
 俺は何故か直視できず、眼を背けたまま壁に掛かった絵を外し、リコから布を受け取って包む。
「うん。必ずまた来ます」
 さてと。長いプロローグの終わりだ。

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