異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第8節 村娘の検診

「あの、待ってください」
「ん? どうかした?」
「カンザキさんはどうして、村にここまで良くしてくれるんですか?」
「どうしてって?」
「カンザキさんは私にこうして無償で治療をしてくれます。村人の手当ての時にも金銭の要求はしなかったそうじゃないですか」
 まぁこの世界のお金を貰っても現代じゃ使えないし。
「別に無償って訳じゃないよ。部屋を貸してもらったり、飯の用意をしてもらったり、絵も貰ったし、村人の治療をしてその代表の村長がきちんと対価を払っている。何もおかしいことはない」
「そう言われれば……そうですけど……」
「どうせあと五日もすればこの村を離れるわけだし、それまでは俺の気が届く範囲で適当にお節介するよ」
「あと五日で?」
「ああ。五日後には村を出てサニングって街に向かう予定なんだ」
「サニングに行くんですか?」
「うん。ついでにアニーのお姉さんにも会う予定。鑑定屋の猫目石って店って聞いている」
「そうなんです! お姉ちゃんの名前はリコって言って、お店の名前は万屋猫目石です!」
 なんか急にアニーのテンション高くなってないか?
「万屋猫目石ってどんなお店?」
 とりあえず、ここはアニーの話に乗っておこう。
「お店は何でも屋さんなんです。その中でも珍しい物、使い方が分からない道具や魔石の識別なんかもできるんです!」
「それは凄いな。本当に何でも鑑定できるんだね」
「そうなんです。実は鑑定ができるっていう魔宝石がお店にあって、どんなものでも精確に物の鑑定ができるんですよ。その魔宝石に選ばれた人にしか使えなくて、その魔宝石にお姉ちゃんは選ばれたんです!」
 選ばれた人間にしか抜けない剣みたいな感じか。ということはその魔宝石に意志があるってことか? 魔宝石は魔人か魔王の魔石を特殊な加工をしてできるもんだけど、そこに意志が残ったりすることはあるのかな。
「その魔宝石ってどんやなつ?」
「私も一度しか見たことないんですけど、黄色くて縞々の模様が見える綺麗な魔宝石なんです」
「きっと綺麗な石なんだろうね」
「とっても綺麗なんです。元々はお父さんが冒険家で、その魔宝石を手に入れてから鑑定屋を始めたんです。……お父さんが死んじゃってからはお姉ちゃんが代わりにお店をしているんです」
 お父さんは死別だったのか。お母さんはどうしたんだろうなぁ。
「一人でお店をやっていくのって大変そうだね」
「私もきっとそう思うんです。本当は私が手伝えたら良かったんですけど、お姉ちゃんが私は村に居たほうがいいって言って、それで私はずっとお爺ちゃんとお婆ちゃんと一緒に暮らしてるんです」
 それも不思議な話だな。姉妹で店をやっていくのってそんなに大変なんだろうか。
「お姉さんとは時々やりとりしているの?」
「はい。セシルさんが時々手紙を配達してくれることはあります。今回はなかったですけど……」
「セシルはよくこの村に立ち寄るんだ?」
「セシルさんはここの領主様と取引をしているそうで、頻繁にこの村には立ち寄りますよ」
 そうなんだ。ここの領主といえば、兵士をこの村に派遣するって時に出てきた人物だよな。
 この村で魔獣退治をして、村人を勝手に治療して、その後に兵士が来る……。なんというかトラブルの臭いがするなぁ。
「その領主様? の兵士達が今度この村にやってくるって聞いたんだけど、その兵士達ってこの村のどこに泊まるんだろう?」
「たぶん、この家だと思いますよ?」
 それはトラブルの臭いがプンプン臭って来た。
「心配しないでください。セシルさん達が今使っている部屋に兵士さん達が入る予定だと思いますので、カンザキさんはこれまで通りあの部屋を使ってください」
 俺の心配を察したであろうアニーが繕うように気を使ってくれる。
 まぁ別に寝る場所に困っているわけじゃない。出入りするための絵を置く場所さえあれば俺は現代で寝ることができるんだから。
「この村でここ以外俺が泊まれそうな場所はある?」
「さすがにないと思います。床で寝るというのであれば、どこでも受け入れてくれるとは思うんですが、ベッドは村人の数だけしかありませんので」
 それもそうか。敷布団の文化なら予備の布団を用意すればいいけど、ベッドの文化だと人数分のベッドしかないってわけか。
「どうかなさいましたか?」
「いや、ちょっと。兵士の人に目を付けられないか心配で……」
 つい心配事が口について出てしまった。
「確かにそうですね。カンザキさんが火掻き棒一本だけで魔獣を何体も倒したと私は聞きました。その噂を兵士さん達が聞いたらきっと興味を持つと思います」
「だよなぁ」
 やっぱり、この世界で裸足に部屋着で火掻き棒一本を手に魔獣に勝つのは異常性があるようだ。
 どうせ五日後には街に逃げるんだから完全に無視を決め込んだほうがいいか……。
 そもそも、俺はこの世界で何がしたいんだろう……。
 なんだかんだと村人を助けたり、治療をしたりしたのは成り行きだし……。
 この世界で貴金属を手に入れて換金すれば金は手に入るし……。金儲けが目標といえば分かりやすいか。
 異世界を利用して現代でリア充になる。それもいいな。
「……カンザキさんはどうしてそんなに凄いんですか?」
 アニーが急に話を振ってきた。
「どうしてって? 何が?」
「魔獣を倒す力もあれば、私にこうやって親切に治療もしてくれる。お父さんとお姉ちゃん以外で私が凄いと思ったのはカンザキさんが初めてです」
 やばい。普通にニヤけてしまう。恥ずかしいなもう。
「恥ずかしい言葉禁止」
 口元を右手で隠しながら左手でアニーを指差す。
「すみません……。ただ、私もお姉ちゃんの役に立ちたいんです……。カンザキさんのようになれたら、きっとお姉ちゃんの役に立って一緒に暮らせると思ったんです……」
 別に俺が凄いわけじゃないんだよ。たまたまこの世界の重力が弱くて相対的に俺が強くて頑丈に見せかけているだけだし。薬だって市販のものを用意しただけ。
 しかし、そんなことを言っても伝わらないし、アニーが求めているのはそういうことじゃないんだろうなぁ。
「……まぁなんかの助けになるなら、話すよ。たぶん、凄く偉そうに聞こえるだろうし、あんまり人に聞かせるような事じゃないんだけどさ。それでもいい?」
「はい! お願いします!」 
 大学を三留し、四留目が確定。卒業も危うい俺が人様に高説をたれるなんてあほらしいし、俺自身が凄く恥ずかしいから言いたくない。けれど、それでも何かしてあげたいと思った。
「何から話そうかな……。そうだな……アニーはあの時ああしていれば良かったみたいな事を思うことはある? 後悔みたいな」
「……あります」
「きっと、そういうのって大きく分けて二種類あると思うんだ。選択を間違ったときと、そもそも自分には何もできなかったとき」
「はい」
「あのときは左を選んだけれど、右を選んでおけば良かったなんて結果論だから、どうしようもない。そもそも自分には何もできなかったからしょうがない。そうやって自分を許す事が大事だと思うんだ」
「自分を許すですか?」
「うん。自分を許す事が大事。じゃないと生き苦しくなる。生きていくことが辛いって事。人生を楽しむためには辛かったり苦しかったりばかりじゃダメ。自分を許す。それだけで随分と生きるのが楽になる」
「不思議な話ですね」
「うん。でも、大事だと俺は思う。俺は俺のために生きて、俺のために行動する」
「でも、カンザキさんは私達のために色々としてくれました」
「それも自分のため。もしも、俺がアニー達を助けずにあの魔獣から逃げたとする。そしたら、俺はいつまでも後悔するだろうね。あの時、俺は助けられたんじゃないか? って、だから俺は一度だけは魔獣と戦ってみた。勝てないと思ったら俺は自分の身を守るため一目散に逃げたよ。俺は魔獣に勝てないからって自分を許せたからね」
「そうだったんですか!?」
「うん。だから別に正義感とかじゃなくて、俺が後悔とかして生き苦しくならないように行動してるだけ」
「意外です。カンザキさんは自分の身を犠牲にして私達を助けてくれたんだと」
「まぁ美談にするんだったらそれでもいいんだけどね。それに他人の事なんかどうでもいいって性根の持ち主が俺みたいな考え方していたら単なる悪党になるんだけどね」
「そう……なるんですか?」
「俺は基本的に自分が一番大事だし、他人は二の次。それでも、まともに見えるのは他人を蹴落として自分が幸せになれるとは思ってないから」
「難しい話ですね」
「俺が言いたいことは二つ。一つ、他人を蹴落として幸せにはなれない。二つ、自分を一番大事にすること」
「本当にそれで、カンザキさんのようになれるんですか?」
「それは分からない。俺の考えの全てが伝わったとは俺は思えないし、受け取ったアニーがそれをどう解釈するかによるさ。ただ、何事も自分のために行動したら他人のせいにはできない」
「……」
「まぁ難しく考えないで。俺風の言葉で言えば、自分の良心に従えってこと。良心というのは良い心まぁその良心も親の影響を受けてるからある意味、両方の親とも言えるか。言葉遊びだけどね」
「自分の良心ですか」
 あー、この世界で日本語の言葉遊びってどうやって訳されて伝わっているんだろう。楽しんでいるのは俺だけなんじゃないかな。アニーの反応が鈍いし。
「ありがとうございました。少しは迷いが晴れたような様な気がします」
「いいんだよ。ただの戯言だし、いつでも忘れていいからね」
 俺は軽口を言いながら部屋を出た。
「あー、恥ずかしかった」
 マジで自分の思想とか考えとかを人に話すのって無理だわー。黒歴史だわー。もうマジ無理。
 自分で自分の耳が熱くなるのを感じる。
 自己嫌悪になりつつも、さっきも自分で言ったとおり、アニーに何かを言ってあげたいと思って話したんだから後悔はない。自分を許そう。許した。
 俺はそのあと、村中を診察して回った。その礼として野菜や山菜、何故か薪なんかも貰った。幸いにも誰も重症患者がいなかった。
 俺はそれらをタニア婆さんに晩飯にでも使ってくれと渡した。
 次に俺は一度、現代に戻りスマホを持ち出した。あの世界の一日の周期を調べるためだ。
 方法は簡単で適当な木を選んで、日向と木の陰の境界に石を置く。そして、明日の同じぐらいの時間に確認すれば一日のおおよその周期が分かる。
 あとは何を調べようか。この世界の大気の成分とか調べるのもありかなと思ったが、俺がこうやって活動している以上は一定の酸素やら窒素か類似したものがあるのだろう。
 そんなことを考えていると日も暮れ、タニア婆さんの飯の仕度が終わったようで、アニーが俺を呼びに来てくれた。
 夕食には俺がタニア婆さんに渡した具材が使われ調理されている。やっぱり飯は美味い。美味いが何かが物足りないとも思う。
 やっぱり、この世界の料理文化には圧倒的に足りない。色々と。
 夕食も終え、俺は現代へ戻る。この現代と異世界の二重生活。気づけば日付は九月になり、残りの夏休みも一ヶ月を切った。
 さすがに大学が始まれば、大学に通わざるを得ない。それまでにある程度の区切りをつけなければならない。
 あの世界の都市システムは分からないが、どこかの都市で店を構え、現代商品をあの世界で売り、儲けで金を買い付け、現代で転売する。
 そうすれば俺はバイトもせずに金満生活ができる。
 ……店の運営はどうしようか。アニーは姉と一緒に居たいらしいし、アニーを雇ってサニングで生活させるっていうのもいいか?
 まぁ皮算用だが、妄想は膨らむ。
 俺はPCに向かい、日課の動画を漁る。ここ最近、動画を見る暇がなかったせいか随分と溜まっていた。
 結局、それを消化し終わって就寝した。やっぱり夏場にはクーラーをかけないとな。
 そういえば、あの世界……というか、陽の国か。陽の国の気候ってどんなもんなんだろうか。
 雨季と乾季があったり、四季があったりするんだろうか。主食がパンってことは麦が取れるんだから、ある程度雨は降るんだろうけど……。
 布団であれやこれやと考えているうちに意識は泥のように沈んでいった。



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