異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第7節 能力調査

「……さてと」
 魔法のことはとりあえず置いておこう。どっちにしろ、街に行かなきゃ進展はなさそうだし。
 それよりも、目下の問題は五日間も馬車に乗るのは避けたい。だけど、街には楽していきたい。
 その解決策としてはこの絵をセシルに街に運んでもらう。そうすれば俺は簡単に移動できる。
 セシルに絵をアニーの姉がいるという猫目石なる店に届けてもらうという名目でいいとは思う。
 そこで色々と試したいのが俺のPCとこの絵がどうやって繋がっているのかという疑問だ。
「よいしょっと」
 俺は色々と試すため、一度現実世界に戻った。
 いつもどおりの俺の部屋。ただ、一晩を向こうで明かしたせいか、体が異常に重く感じる。この感覚は毎回慣れないな。
 俺は改めてPC画面を見る。そこには例のあの動画が一時停止していた。
 この動画を再生したら、もうあの世界に行けないんじゃないだろうか。
 そういった一抹の不安を抱きつつ、一度再生してから再び例のシーンで一時停止をしてから、画面に手を突っ込んでみると腕は何の抵抗もなく入った。
 とりあえずは安心した。
 次に俺はこのワンシーンをA4サイズで印刷する。
 まさかとは思いつつも、あちらの世界では絵で出入りできたという前例があるからこそ、試しにこのプリントに手を突っ込んでみた。すると腕は紙を突き破ることなく埋没していった。
 A4サイズのため肩から先までしか入らないが、確かに向こうの世界に繋がっている。
 つまり、あのPCからでなくともあの世界と繋がる事ができる。これは非常に大きいポイントだ。
 なぜならば、PCが勝手に再起動したら俺はあの世界に閉じ込められる。さすがにそれは勘弁したかった。
 俺は実験をレポートにまとめるため、ノートを取り出して色々と書き留める。
 次の実験はこの絵を通過中に破れたらどうなるのか。
 割り箸を取り出して、A4プリントに通過させ、その途中でA4プリントを破る。すると割り箸は宙に浮き、出し入れもできる。まるで空間に割れ目でもできたような変な現象だ。
 そして、箸をつまんだまま空間の割れ目に指、腕、そして肩とA4のプリントのサイズという制限を超えて俺の体も出入りできる。
 これは大きな収穫だ。どれだけ大きなサイズでも紙を破ることで一度だけなら紙や画面のサイズの制限を無視できるということが分かった。
 次の実験はあの例のワンシーン以外の絵でも同一のものなら移動できないかということ。
 ただし、俺の家のプリンターは最大でA3までだ。せめて体ごと移動するにはA2サイズは欲しい。
 コンビニのプリンターでA2サイズの印刷ってできたっけかな。
 調べてみるとA2はできるようだ。
 俺は適当なワンシーンを印刷し、それをコンビニでA2サイズに引き伸ばして2枚コピーする。
 このとき、試しにと片方のプリントに手を突っ込んでみるが、ただのプリントだ。現代から現代への移動はできないみたいだ。
 それをあっちの世界とこっちの世界に一枚ずつ置き、現代からA2プリントに手を突っ込んでみる。すると今度は簡単に腕がA2プリントに埋没する。
 つまり、現代から現代への移動はできず、現代から異世界に移動するには同一の絵が各世界に一枚ずつあれば良いということが分かった。
 これはかなり汎用性が高い。色々と使える。
 現代から現代は行けなくとも、間に異世界を挟めば擬似的な現代瞬間移動ができる。
 例えば、Aという二枚一組の絵とBという二枚一組の絵があるとする。Aを自宅と異世界に、Bを大学と異世界に。すると自宅からAを通り異世界へ、異世界からBを通り大学へ。こうやって瞬間移動ができる。
 これは便利だ。
 逆にこれを利用すれば、異世界から異世界への瞬間移動もできる。
 つまり、結論! 五日間も馬車に乗らなくていい!
 実験はおおむね良好な結果を得られ、PCの電源が切れても大丈夫なように普段はA2のプリントから移動するように変えた。
 まず、俺の自宅と村長宅を繋ぐ絵を設置。
 それから異世界に体重計を持ち込んで体重を量ってみるするとこの世界の重力は現代に比べておよそ三分の一ぐらいであることが分かった。五十四キロであるはずの俺の体が十八キロしかない。質量が変わっていないなら重力が変わっているというのは当然の帰結。
 にしても重力が三分の一で気圧も低いって俺の体にあんまり良い影響は無さそう。一歩間違えたら、血管に気泡ができて死ぬとか怖いことが起きてもおかしくない。
 まぁいいや。魔法の世界に科学を持ち込むのも邪道か? これも工学生の性か。成績は悪いけど。
 俺は例の絵を布で包んでセシルの所に向かう。
「セシル、ちょっといいか?」
「はい……お待たせしました」
 少ししてからセシルが出てきた。部屋の中にはセシル以外誰も居ない。傭兵達と一緒だと思ったが、外に出ているのか。見回りかな?
「カンザキさん、何の御用でしょうか?」
「ああ、ちょっとセシルに頼みがあってさ」
「なんでしょう?」
「この絵を街まで運んで欲しい」
「それはいいんですけど、どこの誰にでしょう?」
 あ、そりゃそうだ。そこで俺は唯一知っているサニングに住む人物を思い出した。
「鑑定屋の猫目石ってお店なんですけど、知ってますか?」
「ああ、あのお店ですね。この村の村長のお孫さんが今は店主の」
「そう、そこにこの絵を運んで欲しいんだ。この絵は村を助けた礼にって村長から貰ってさ」
「そういうことですか。分かりました」
「運送料ってどれぐらい?」
「そうですね……銀貨一枚でいいですよ」
「じゃあ、これで」
 俺は大銀貨を取り出してセシルに渡し、釣り銭として銀貨九枚が戻ってくる。
「あと、セシルに連絡を取ろうと思ったら街のどこに向かえば良い?」
「そうですね……。一応、街にオルコット商会という私の父の店があるので、そこで私に用があるといえば繋いでもらえると思います。私が不在の場合は伝言か書置きをしていただければ、こちらから伺わせて貰いますよ」
「分かった。ちょっと用事があって一緒に街に行けなくなったけど、たぶん近いうちにまた会えると思う」
「……そうですか。分かりました。きちんと絵は届けますので安心してください」
 セシルに白い布で包まれた俺の絵を渡す。
 とりあえず、これで五日後か六日後かに何の労もなく街に行くことができる。
 俺はセシルに礼を言って部屋を後にした。
 セシルに頼みごとをした後、俺は現代に戻り、救急箱を取り出して再び異世界へ渡る。
 アニーや村人達に薬の配付や包帯の交換をしなければならない。まぁ単なる思い付きだけど。
 そう思って俺はまずアニーの所へ足を運んだ。
「アニー、ちょっといい?」
 俺はアニーの部屋の扉をノックする。
「あ、カンザキさんですか? どうぞ」
 返事を聞いてから扉を開く。
 中にはアニー以外は誰も居ない。無用心な。
「包帯の交換に来たんだけど、大丈夫?」
「包帯の交換?」
 意外そうに首をかしげるアニー。その仕草が可愛くて思わず口がニヤけるのを隠すため口に手を当て隠す。
「ああ。血でべっとり汚れてるのはあんまり良くないと思ってね。いいかい?」
「分かりました。えーっと、私はどうすれば?」
「とりあえず、包帯を外そうか。こっちに背中を向けて服を脱いでもらえるかな?」
「ふ、服をですか……」
 まぁ恥らうのは当然だし、俺も好きでお医者さんごっこしているわけじゃない。
 こういう何とも言えない空気は大嫌いだ。だけど、気がかりを放っておくと後から自己嫌悪するから、自分の性格は面倒くさいと思っている。
 そういう意味では他人のためではなく自分のためである。情けは人のためならずとはよく言ったものだ。
「アニーに全部任せてあげられたらいいんだろうけど、傷が背中だからアニーは見えないだろうしね。一応、怪我の状態を見つつ悪化している場合は薬か栄養剤を用意する必要があるし、まぁ医者の真似事だけど」
「確かに私一人じゃできませんけど……」
「まぁ無理強いはしないよ。怪我人が嫌がっているのに我を通すのはあまり好きじゃないし」
「……すみません。恥ずかしがっていちゃダメですよね。見てください」
 アニーはこちらに背を向けて着ている物を脱ぎ始める。
 肌が露出すると同時に痛々しく赤く染まった包帯もあらわになる。やっぱりいやらしい気持ちになる前に痛々しい気持ちになる。きっとアニーも好きな男性が現れたときにこの傷で悩む時が来ると思うと少しだけ心苦しい。
「それじゃ包帯を取るよ。さすがに俺が外すと肌に触れるかもしれないから、少し手伝ってね」
 包帯を外す際に誤って胸なんか触った日には居心地が悪くなる。そういうラッキースケベはホントにいたたまれない気分になるからNG。
「はい」
 包帯を外していくと傷はカサブタができていた。ただ、背中一面に血が付着していたせいで、こびりついて凝固した血がボロボロとベッドの上に落ちる。
 ボロボロと落ちる血のカスを濡れた布で拭きたいが、せっかく治りかけている傷に触れるのは問題があるか。
 傷口を見ると膿んでいる箇所がある。傷が深いせいなのか、栄養状態が良くないのか、とりあえず応急処置的に抗生物質入りの軟膏を塗ろうとする。
「傷の治りが良くなる薬を塗るから、ちょっと痛むだろうけど我慢してね」
「……はい」
 自然に体に力が入っているのか、アニーの背中は小さくプルプルと震えている。
 できるだけ刺激を与えないように軟膏を塗り広げる。
「痛まない? 大丈夫?」
「大丈夫、です」
 痩せ我慢だろう。
 軟膏を塗り終え、新しい包帯を巻きなおす。今度は清潔な白い包帯だ。赤く染まらない。
「とりあえず、これで終わり。一応、抗生物質……飲み薬を渡しておくね。これは……食後か。食後に三錠飲むように」
 俺は何十錠と入った薬の小瓶をアニーに手渡す。
「薬までいただいていいんですか?」
「まぁいいんじゃない。アニーの命に比べたら、この薬なんて安いもんだし」
 千円するかしないかだし。
「……ありがとうございます」
 アニーは手で胸元を隠しつつも俺に正面を向けて丁寧にお礼を言う。
「いいよ。部屋を貸してもらっているし、飯も用意してもらっているし。さてと、それじゃ他の村の人の診察……の真似事をしにいくから」

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