異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第5節 村長宅で夕食

 夕食の時間となりタニア婆さんが呼びに来た。ついでに絵を布で包んで持ってきてくれた。
 そういえば、今は何時なんだろうか?
 というか、そもそもこの世界の時間は24時間なんだろうか? 
 ふと湧いた疑問。
 ベッドから起き上がり、部屋を出る。
 タニアさんがちょうど土鍋から木の器へスープをよそってくれているところだった。
 これは美味そうだ。そういえば、外食以外で人の手料理を食べるのはずいぶんと久しぶりな気がする。
「さぁさ、カンザキさん。お座りくださいな」
 既に席についているトム爺さんは席を勧めてくる。
 テーブルの周りには椅子が三脚あり、俺に勧めている席は本来ならアニーの席なんだろう。
 俺は会釈をしながら席に座る。
 目の前に並べられたのはパンとスープ、それに野菜で包んだ肉が皿に盛られていた。
 パンはこの世界でよく食べられているのだろうか。なんとうか、文化調査の研究者気分。
 スープは肉と野菜が入っている。俺が知っている料理としてはジャガイモが入ったオニオンスープという感じか。
 野菜で包んだ肉の方はロールキャベツっぽい。
「今日はカンザキさんのために腕によりをかけたんですよ」
 タニア婆さんも席に着く。
「では頂こうかの」
 トム爺さんが手を合わせ何かを唱えている。かなりの小声で俺にはかすれて聞き取れない。
 タニア婆さんも同じように唱えている。たぶんこの国か村での風習なんだろう。
「ここって神様に祈る風習でもあるんですか?」
 二人が祈り終わったタイミングで訊いてみた。
「ああ、森の神様にね。感謝をしているんだよ。カンザキさんの国ではしないのかい?」
「奇遇ですね。俺の国でも自然に感謝をして食事をする習慣がありますよ。長い祈りの言葉こそないですけど、手を合わせて『いただきます』と言うのが俺の国の作法です」
 やっぱり自然崇拝をする風土が有るところは安心するな。
「それはいいお国ですね」
「ここらへんに来たばかりで、知らないことばかりですけど似た文化や風習があると親近感が湧きます」
 では、早速料理を頂こうか。
 と、ここで気づいた。箸もフォークもスプーンもない。
 トム爺さんとタニア婆さんを見てみると素手で食べている。
 マジか。素手で食べる文化圏だったのか。
 これはちょっと我慢できない。パンとスープはなんとかなってもロールキャベツぽいものは素手では無理だ。
 郷に入れば郷に従えというが、現代の衛生観念を持っている俺には無理だ。
「すみません、ちょっと忘れ物があったので少し席をはずします。冷めないうちに戻ってきます」
 二人に丁寧に断ってから即座に部屋に戻り、現代に戻って割り箸を一膳だけ持ってきた。
「すみません。俺の国では食事にはこれを使うんですよ」
 そう言いながら割り箸を割って食事を取る。
「ほう。その細い木の枝を器用に扱って食べるのか」
「ええ。熱くて触れなくても持てますし、摘んだり、割ったり、刺したりと便利ですよ。使い慣れるまでは少し大変ですけどね」
 俺は箸を開いたり閉じたりさせながら、ロールキャベツらしきものを一口サイズに割って口に入れる。
 どうも鳥っぽいさっぱりした肉。それでいて噛めばしっかりと肉汁が出てくる。異世界でも肉はやっぱり美味いな。
 パンはかなり固い。焼きたてではなく、一度焼いて保存が利くようにしてあるのだろうか。いや、それだとカビが生えるか?
 もしくは村の誰かが村人全員分のパンを朝に焼いて、午後には固いパンになっているとか?
 それともセシル達が運んできたパンなのかもしれない。
 まぁ固いパンもスープと一緒なら食べられないことはない。固いパンでもスープを吸って柔らかくなる。スープを吸ったパンを口に含めば香り豊かなスープが口の中に広がっていく。
 まぁ普通に美味しいよ。タダ飯でここまでしてもらえたら俺も魔獣と戦って怪我人の応急手当をしたかいがある。
「そういえば、アニーさんはお二人のお孫さんですよね?」
「ああ。アニーはワシの息子の娘でね。アニーの上にもう一人、孫がおるんじゃよ」
「上というとお姉さんですか」
「ああ。もう息子はおらんようなったが、姉の方は息子の店を引き継いで今でも街で商売をしとるようじゃよ」
 息子がおらんようにってことは蒸発したのか死んじゃったのかな。
「商売って事は今はどちらに?」
「街で『万屋猫目石』という鑑定屋をやっていたはずじゃ」
「街で鑑定屋ですか?」
「ああ。街のことならワシよりセシルさんの方が詳しいと思うわい」
 なるほど。とここで料理を食べ終わってしまった。
 量は並だが、味は良かった。肉も野菜もバランスよく食べられ、あっという間になくなった。
 強いて言えば味付けが塩だけであり、ロールキャベツも悪く言えば塩水で茹で蒸しただけである。醤油の風味があれば更に美味しいことは確信できる。
 そういや、金と胡椒が等価な時代もあったと聞くしこの世界でも調味料は売れるんじゃないか?
 手料理をご馳走になった俺は礼もそこそこに早速、現代世界に戻った。
 さすがに疲れた。ずっと向こうに居たせいか、体が異様に重い。本来の体重が重いってのも困りもんだな。
 やっぱり、むこうの世界の重力は弱いようだ。
 壁掛けの時計を見ると午後五時を指している。
 こっちの世界と向こうの世界の時間は同じらしい。
 俺は救急箱を押し入れに仕舞ってちょいと買い物に行く。
 行く先は某有名質店。そこでセシルから渡された指輪を鑑定してもらうと五万もの値が付いた。
 銀貨二十枚の金の指輪で五万円なら、銀貨一枚当たり二千五百円ぐらいか? これなら俺の予想も大きく外してなさそうだ。
 これで大雑把だけど、あの世界とこっちの世界のレートが分かってくる。
 向こうで儲けたら金にして、こっちの世界で現金に換える事はできそうだ。
 さてと、これらを元手に何を買うか迷う。
 まず、包帯を十個と正露○を十瓶。それから消費した常備薬を補充。
 とりあえずの買い物を終え、スマホを見ると午後七時だ。
 俺は大学の友人のカミやんに電話を掛けた。
 カミやんの本名は上沼勇太。俺と同期で入学して今は院生二年。今の時間ならまだ大学で卒研をしている頃だろう。
「もしもし、カミやん? ちょっと頼みごとがあるんだけど、いい? ちゃんとお礼はするからさ」
「ああ、神崎君? ええよ。ボクも休憩しようかと思って研究室出たとこやし。どこで集まろか」
 カミやんは関西の出身で訛が俺と違う。
「ちょっとお金も手に入ったから、前金として奢るよ。高くない店ならカミやんの指定で」
「じゃあ、大学前の豚骨ラーメンが美味いあの店でいい?」
「了解」
「どれくらいで着く?」
「5分かな。先に着いたら注文しといてくれる?」
「分かった」
「ありがとう。豚骨ラーメン大盛りにんにくあり」
「了解、先に行ってるわ」
 通話を切ってラーメン屋に向かう。
 ラーメン屋は駅から大学に向かう道のちょうど真ん中にある。
「おっす」
「おっす」
 先に席についていたカミやんが手を上げて挨拶をしてきた。
 カミやんは自転車好きでアニキャラ好き、声優オタク。
 今日もアニキャラを背負った上着が眩しいぜ。
「研究どうよ? 卒業できそう?」
「それは神崎君が言うたらダメやろ?」
「まぁそりゃそうか」
 俺は笑いながら冷水を注ぎ、飲み干す。
「そんで、神崎君がボクに頼みってなんなん?」
「そうそう。ちょっとこれの材質とか調べて欲しいんだよね」
 俺は換金をするかどうか迷って、結局ポケットにしまったままだった銀貨と魔石を卓上に出す。
「これ……ゲーセンのメダルやないね。こっちは……宝石とかの原石ぽいな」
「大学の研究設備で調べて欲しいんだけど、できる?」
「これの何を調べばええん? 材質? 硬度? 成分?」
「材質で。こっちのメダルは銀でできてるなら、含有率まで調べられるといいかな」
「んー、非破壊検査じゃないとダメなん?」
「これは試料だから好きなように扱っていいよ。結果さえ分かれば」
「分かった。大学の課題やないし、レポートみたいにはせんでええやろ?」
「それで十分。どれぐらいで結果が出そう?」
「設備使用の申請もせないかんやろうし、いつってのは言えんかな」
「そうか」
「もしかして急に金が入ったってこの件なん?」
「まぁそんなところ。成功報酬に諭吉一人でどう?」
「まぁええわ。期限とかある?」
「早ければ早いほどいいけど、遅れたからって問題があるわけじゃないし」
「オッケー」
 そこで豚骨ラーメンが二つ差し入れられた。
 柔らかく煮られたチャーシューが三枚。細く刻まれたきくらげとメンマ、もやしとネギがトッピングされ、真ん中には煮卵が入っている。
 麺は俺好みにカタで茹でられ、わずかに芯が残っている。
 最高だ。
 やっぱりラーメンは別バラだ。

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