異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第2節 商人との出会い

 どさりと床に転がる俺。さっきまで体が軽かっただけに、今の身体が異様に重く感じる。いや、今はそれよりも。
 押入れの奥に入れてあったはずの救急箱を取り出す。
 一人暮らしをする上で、看病をしてくれる優しい幼馴染のような存在がいない時、頼りになるのはこれぐらいのものだ。
 あの裂傷が獣の爪によるものなら、間違いなく雑菌が怖い。消毒薬と包帯、それと解熱剤やら痛み止め……。
 ええいまどろっこしい! 箱ごと持っていけばいいじゃねぇか! ついでに水だ!
 あの異世界と元の世界の物理法則やら、菌の種類やら不確定要素しかないが、そういったものを全部置き去りにして俺は再びパソコンの画面に右手を伸ばす――。
 俺は再び村人たちに駆け寄った。
「■■■!」
 俺の動きを注意するように、強い口調で捲し立てる大柄の男がいた。
「■■■■■■!」
 ああもう、言葉で説明できないってのに。
 その時チクリと腕が痛んだ。内出血していた箇所だ。急激な気圧の変化のせいで赤い斑点が更に大きくなっていた。
 俺は咄嗟にその大男にその箇所を見せながら、消毒薬をかけて見せた。頭突きをするための頭じゃなければ意味は分かるはずだ。
 その大男も俺の行動の意味を汲み取ってか、それ以上は言わなくなった。
 再び怪我人の様子を見る。どうやら若い女の子のようで、背中の痛々しい三本の赤い筋から血が流れている。服に付着した血の一部は凝固しており、それなりの時間が経過していることが見て取れる。本人は出血と傷口が痛むせいか意識が混濁しているようだ。目をあけられず、息が荒い。
 これは消毒薬の前に水で洗った方がいいか。
 水で傷口を洗い、その刺激で女の子は苦痛の声を上げるが我慢してもらうしかない。
 その上からスプレーの消毒薬をかける。シュワシュワと泡立ち、その刺激で女の子は更に苦悶の表情を浮かべる。
 女の子が苦痛の呻く度に村人たちがざわつく。あんまり注目しないでほしい。
 とりあえず、消毒は終わった。本当は縫合とかしたほうがいいんだろうけど……。残念ながら、俺は医大生じゃなくて工大生だからな。
 仕方なく中学生の保険の授業で習った知識だけを総動員する。
 とにかく、包帯で止血しないと。
 救急箱からハサミを取り出して少女の服を切る。
 背中に傷があるため、包帯を巻くにはどうしても胸を覆う形で巻く必要がある。それには服が邪魔だ。
 これは人命救助だと俺は心の中で言い訳をしながら、服を脱がそうとする。
 そこでふと手が止まり、俺を囲っていた男性陣を指差し、背を向けるように身振り手振りで指示した。
 男達は俺の指示を理解したのか素直に後ろを向く。
 俺は女の子の上半身だけ起き上がらせ、グルグルときつめに包帯を巻く。血は完全には止まっておらず、白い包帯が瞬く間に赤く染まる。しかし、ある程度の広がりを見せた後、出血量が少なくなってきたのかそれ以上広がりを見せない。
 残念ながら、縫合していないため傷跡は目立つ形で残るだろうがそこは我慢してもらうしかない。
 とりあえず、一番の怪我人はこれで対処できた。あとは少し血が流れた程度の傷を持つ者に対してそれなりの治療を行った。といっても、水をかけて消毒薬をかけ、包帯を巻いて化膿止めと痛み止めの薬を飲ませる程度だった。
 さてと、全員の治療が終わった所で俺も一息つけるため一度、現代世界に戻ろうとした矢先。馬車を操る商人と傭兵だろうか、武装した集団が村へやって来た。
「■■■!」
「■■■■■■」
「■■■■」
 商団の中から村人の服を着た人物が飛び出してきた。どうやら、助けを求めて村の外に飛び出た村人らしい。
 何やら色々と話している。何を話しているのか分からないが、軽くなった救急箱を片手に近寄ってみる。
 どうやら、この人達は交易商でこの村で取引を目的に来訪したようだ。忙しそうに馬車の積荷を卸したり載せたりしている。村で採れた農作物で物々交換をしているのだろう。
「■■」
 馬車で手綱を操っていた商人らしき人物が俺に近寄って、友好そうに話しかけてきた。
「あー、言葉分かんないんで」
 言葉は通じなくとも感情は通じるような口調で返答する。
 商人は顎に手を当てた後、腰に身につけていたポーチから綺麗な水色の石が装飾された耳飾りと黒革に赤い宝石が嵌め込まれた首飾りを俺に手渡してくる。
「これを身に付けろってことか?」
 商人は俺の言葉を分かってもいないくせに頷いて肯定してくる。
 俺は警戒しつつそれを身に付けてみる。そういやこっちの世界でも肯定は頷くんだな。
「これでいいのか?」
「はい。こちらの言葉は分かりますか?」
「おお!」
 言葉が通じた!
 俺が聞き取っている声と商人の口の動きが合っていないからリアルタイムで吹き替えを聞いている気分になるが大きな問題ではない。
「貴方がこの村を魔獣から救ったと村人の方々からお聞きしました」
 柔和な笑みを浮かべる商人。見た目はとても若く見える。俺の身長が166センチでその俺より低いから160ぐらいか? 耳が隠れる程度に伸びた栗毛に丸い顔。目も大きく可愛い系の顔立ち。十代後半から二十代前半、俺より年下か高く見積もっても俺と同じぐらいだろう。
 それにしても、魔獣と来たか。
「まぁ、火掻き棒で追い払っただけだけど」
 そういえば、あの火掻き棒はどこにやったっけか。
 ふと気になり、周囲を見渡すと例の魔獣が落とした綺麗な石の近くに落ちていた。
「魔石が気になりますか? 大丈夫ですよ。誰も貴方から魔石を横取りしようなんて人はいませんから」
「魔石?」
 あの獣が死体の代わりに残した綺麗な石を魔石と呼ぶらしい。まるでゲームのドロップアイテムだな……。もしかして、ここはゲーム世界?
「魔石をご存知ないのですか?」
「ああ、あの石って魔石っていうんだ」
 俺が石に近づこうとすると、商人も俺に付いてくる。
「ええ、もしよければあの魔石をこちらで買取りましょうか?」
 急に売買の話か。商人らしい。
「この魔石って売れるのか?」
「ええ」
 俺は4つの魔石とひん曲がった火掻き棒を拾う。これの持ち主には悪いことしたな。
「随分と強い力で追い払ったんですね」
「まぁ、ところでこの魔石はどんぐらいで売れるんだ?」
 商人はしきりに俺が握っている歪曲した火掻き棒に目をやる。
「え、えーとですね。一つ銀貨二枚でどうでしょうか」
 それが安いのか高いのか分からない。
「それって安いのか? 高いのか?」
「そ、相場通りですよ」
 と言われても物価が分からん。
「街の大人が一日働いた時の日当はどれぐらい?」
「そうですね……。銀貨三枚から五枚ですね」
 強引な換算をすれば日当が六千円から一万円ぐらいとすると銀貨一枚で二千円ぐらいか?
「街の人間が一日暮らすのにいくら必要だ?」
「そうですね……。三食と薪代で銀貨一枚ですかね」
 一日分の食事と薪代で二千円ぐらいか? 薪代の換算が分かりにくいけど。
「じゃあ、この魔石を……二つだけ。銀貨四枚で」
 念のため魔石を二つ、手元に残しておく。
「はい。銀貨四枚ですね。えーっと」
「どうかしました?」
「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「ああ、俺は神崎一樹。カンザキが苗字でカズキが名前」
「カンザキ・カズキさんですね。私はセシル・オルコットと申します。セシルが名前でオルコットが苗字になります」
 ああ、そこらへんは西洋っぽいんだな。
「カンザキさんはどちらの出身なのですか? 苗字が先で名前が後というのはここらの人ではないですよね?」
 魔石と銀貨を交換しながら話を続ける。銀貨は太陽の様な図形が彫られ、五百円玉と十円玉の間ぐらいの大きさで、五百円玉より厚さが約二倍だ。
「えーっと、日本だけど」
 言っても分からないだろう事は予想が付いている。
「すみません。聞いたことが無い国名ですね。それにココとは文化が随分と違うようですね」
「あまり気にしないで」
「ニホンではそのような衣服を身に纏うものなのでしょうか?」
 セシルは俺の服を指す。俺の今の格好はTシャツにジーパンと非常にラフな格好だ。Tシャツの方は獣に噛み付かれた時に爪を立てられたせいかやや傷んでいる。ジーパンの方はさすがと言うべきか、丈夫だ。
「まぁこういう服も着るね」
 俺は部屋着も外着もシャツとジーパンが基本だ。
「私も商人の端くれですから、目利きは利くつもりです。これほどまでに綺麗に仕立てられ、染色された服をただの村人が、ましてや旅人が着るものでもないでしょう?」
 まぁ確かに村人でも旅人でもない。
「まぁ日本ならこれぐらいの服は普段着だな。それより俺からも質問いいか?」
「その服が普段着……。それで質問とはなんでしょうか?」
 柔和な笑みを浮かべて俺の言葉を待つセシル。
「この耳飾りと首飾りは何なんだ?急に言葉が分かるようになったけど」
「カンザキさんは魔宝石を知らないみたいですね」
「その魔宝石って?」
「……そうですね。魔宝石を説明する前に魔族について説明をする必要があると思います。カンザキさんは魔族についてご存知ですか?」
「聞いたことしかないな」
 ファンタジー物でよくある人間の敵対種族の総称だけど。
 そこで、武装した大柄の男がやってきた。
「セシルさん。荷卸しは終わったぜ」
「お疲れ様でした」
 セシルは男に労いの言葉をかけた後に空を仰ぐ。俺も同じように空を仰ぐ。
 日はまだ高いように感じる。
「今日はここで一泊しましょう」
 セシルは男に向かって指示を出した。
「ああ、分かった」
 武装した男は再び仲間達の所に戻った。
「彼は懇意にしている傭兵の方々でして、大口の取引の時に頼りになる人達なんですよ」
「傭兵……か……」
 つまりは傭兵を雇う程度にはこの世界は治安が悪いとも言えるか。
「さて、積もる話もあると思いますので宿で食事でも摂りながら」
「宿ってどっち?」
「ご案内しますよ」
「いや、ちょっと村の人達に用があるから終わったらすぐ行くよ」
「そうですか。実は宿といってもこの村には宿は無いんですよ。本当は村長の家の一室を貸して頂いてるだけなんです」
 まぁ村の規模からして観光地というわけでもないから、民宿がないってこともあるのか。
「分かった。村長の家だな」
「ええ、また後ほどお会いしましょう。その耳飾りと首飾りは明日までお貸ししますから、安心してください」
 そういやこれらは借り物だった。返さなくちゃいけないとなると困るなぁ。

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コメント

  • モンキー『』

    本当にパクリ臭がする

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  • ノベルバユーザー89126

    商人の名前がインフィニット・ストラトスのパクリ臭すごい(どっちが先か知らんけど)

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