繋がりのその先で
1-8休暇の一時
...暑い。すごく暑い。
「春樹くん、しっかりして。パーツがぐちゃぐちゃになってる。」
「ったく、だらしないなぁ。僕のこの華麗で機敏な動きが見えないのかい⁇」
昴はテキパキと作業をこなしながら俺に嫌味を言ってくる。時雨も少し怒っている様子だった。
「お前や時雨はロボットだから暑さを感じないかもしれないが、俺は人間だから暑さを感じるんだよ。暑っ。」
ジージーと五月蝿い蝉がこんな猛暑日に大量発生しているという現実に『楽になりたいな』と思う気持ちを抑え、俺はタイムマシン製作を行っていた。時雨が転校してきて大騒ぎになった一学期も終わり、今は夏のど真ん中の8月、タイムマシン製作3ヶ月目を迎えたところだ。俺たちはあくまでも高校生なので夏休みがあり、それを利用してこうやって俺の家の父の部屋で3人でタイムマシンを作っている。
エアコンをフル稼働させているというのにも関わらず、この暑さとは。まったく、これだから夏は侮れない。俺のしんどさを悟ってくれたのか、時雨が助け船を出してくれた。
「それじゃあ、30分後にご飯にする??」
俺の体がピクりと反応する。
「す、昴、聞いたか!?今、女神のお言葉が聞こえたぞ!?」
「...暑さで春樹のキャラがぶれてる。いや、まぁ別にぶれるのは勝手にぶれてくれて良いんだけどさぁ、僕のキャラと被るのはやめてくんない??」
凄く不満そうな顔で、こっちを睨み付けてくる昴。
「自分がこんなキャラだっていう自覚はあったのかよ!!」
死にそうな暑さに加えて、何千もの数式を見ていると、やはり人間というものは壊れるんだな、と改めて再確認した。この作業を3ヶ月間耐えただけでも、自分を褒めてやりたいぐらいだ。
「それにしても、タイムマシンを作り始めてからもう3ヶ月だね。この3ヶ月、色々な事がありすぎてビックリだったよ。」
時雨が懐かしむように言う。
「そうだね。いろんな事があったね。」
昴が笑いながらそう言った。俺も口には出さなかったが、心の中では二人に共感していた。楽しそうに会話をする二人を見ながら、僕はこの3ヶ月を思い出していた。
6月の前半は梅雨の大雨で何もすることがなく、凄く暇だった。タイムマシンの材料を買いに行くにしても、どんなタイムマシンを作るかが決まっていなかったので、買いにいけない。デザインが決まったとしても、金属が雨で濡れてしまうといけないので、どのみち買いにいけなかった。
「ん~、この時間をどうにか活用出来ないものかな。」
俺はほとんど何も考えず、独り言のように呟いた。しかし、昴はこの言葉を聞き逃がさなかった。
「...え、じゃあ遊ぶとかは??」
...暫しの沈黙。それぞれが皆、自分の心の中で考えているみたいだ。しばらくして、時雨がその沈黙を破った。
「何もすることがないし、遊ぼう!!」
その言葉を聞いて、俺は内心驚く。いつもは厳しいあの時雨が、今は遊ぼうと俺達を誘っている。だが、俺も時雨の意見に賛成だった。
「...だって、いっつも3人で過ごしているのに、3人で遊んだことがないなんておかしいと思わない??」
確かに、時雨の意見も一理ある。
そういや、3人で遊びに行ったりすることは今まで無かったな。
「んじゃ~、どこに行くの??時雨ちゃんが行きたい所で良いよ~」
「...私の行きたいところ。」
昴がそう言うと、時雨は少し悩むように考え始めた。勝手に昴と時雨の中で話が進んでいる。全く、俺の意見は聞いてくれないのかよ。
「うん。聞いてくれない。」
「聞けよ!!てか、人の心を読むなっ!!」
昴は本当に人の(俺の)心を読むのが上手い。いや、本当にマジで腹が立つぐらい上手いよな。今度、二回連続で落とし穴にはめてやろうか。
「では、ここで。」
俺が昴に心を読まれないよう、最大限の注意を払いつつ悪口を言うという、高難易度かつ俺にしか出来ないしょうもない技を試している間に、時雨はどうやら行き先を決めたみたいだった。
一体、時雨はどこを選んだのだろう。いやまさか、いくら変わり者の時雨とはいえ、流石に今回は普通のところを選んでいるはずだ。
「んで、どこに決まったんだ??」
時雨は至極嬉しそうな顔で俺に見せてきた。
恐る恐る、俺は時雨の指指しているところを見る。...まさか「バンジージャンプとか飛んでみたい!!」とか言い出さないだろうな??
そう身構えていた俺だったが、いざ見てみると拍子抜けするぐらいに普通の所だった。
「...なるほど。ショッピングモールか。」
俺は驚きと期待を顔に出さないよう注意しながら、なるべく平たい声で返した。
先に言っておくが、俺は服に興味がない。何故なら、俺は『外見』ではなく、『内面』の方が興味があるからだ。外見よりも、その人がどういう判断をし、どのような行動をとり、どうやって生きてきたのか、また、どのように考えるのかを理解するのが好きだ。中学生の時、目の前を通り過ぎる、街中の人達を見て、「この人はこんな仕事をしていて」とか「この人はこんなところに住んでいて」など、その人個人を外見から探り、当てるゲームをしていたほどだった。そのせいか、俺の「他人の内面を観察する」才能が開花し、今では昴の(ロボットの)内面がわかるようになった。
...いや、まぁ、時雨の内面は全くわからないが。
「でも、女の子なら話は別なんだよなぁ~。春樹はすぐに男女差別を心の中で...」
「しねーよ!!じょ、女性だってちゃんと内面を見てるよ!!」
「じゃあ、女性の外見はどうでも良いんだね??」
「...いや、そういうわけじゃ。」
昴がニヤニヤ笑っている。ムカつくが、実際女性の外見を気にしないかと聞かれれば、俺はNOと答える。そりゃ俺だって人間だから可愛い人の方が好みだ。だが、人は「可愛い」だけじゃ上手く生きていけない。可愛いだけの人よりは、内面が良くできている人を俺は選ぶだろう。まぁ、見た目から入るのはあながち間違いではないけれども。
「ま、どうせお前は見た目100%だと思うがな。」
言われっぱなしは悔しいので、ちょっと言い返してやる。
「んなこと言って、どうせ春樹がそうなんでしょ??」
昴も応戦してくる。
あぁ、ヤバイ。俺と昴の間に火花が散っている。
「何をそんなに楽しそうに話してるの??私も混ぜてよ!!」
突然の時雨の声に、俺と昴は正気を取り戻す。そして瞬時にここが家の研究室ではなく、ショッピングモールの2階にある服屋であることを思い出す。
「え??いや、えっと...俺、何か言ってた??」
「え??いや、えっと...僕、何か言ってたかな??」
二人でほぼ同時にほとんど同じ言葉を発した。それを聞いた時雨は一瞬キョトンとしたかと思うと、すぐに表情が緩み、笑いだした。俺は心の中の焦っている自分を落ち着かせる。落ち着け。大丈夫だ。時雨には聞こえてない。この時の俺は何故ここまで時雨のことを気にかけていたのか、わかっていなかった。
(とりあえず今は、一時休戦だ!!)
と俺は昴にアイコンタクトを試みるが、何故か昴は不思議そうな顔をして、こっちを見ている。...こういうときに限って、何で伝わらないかなぁ。
「あー、面白かった。二人とも流石、仲良いね。まぁ別に今回は良いや、面白かったし。そんなことより、これ見て!!可愛いでしょ??」
ひとしきり笑い終わった時雨が、今度は俺達に向かって自分の選んだ服を見せてきた。
俺はホッと一息つき、改めて時雨と昴の話に耳を傾ける。
「おー!!すごく似合ってるよ!!時雨ちゃんってこんなに可愛かったっけ??」
「昴、それってさー、褒めてるの??」
一見、時雨は表面上では笑っているように見えるが、どう見ても心が笑っていなかった。昴もやっと自分の過ちに気がついたのか、あたふたしながら言葉を探している。
「いやぁ、時雨ちゃんは元々可愛いから、どんな服も似合うみたいだね。」
この言葉が、悩んだ末に導き出された昴の言葉だった。
「...それって、どんな服でも変わらないってこと??」
さらに時雨は笑った。表面上だけ。昴の方を見ると、流石にこれは予想してなかったのか、今にも泣き出しそうになりながら、こっちを見ている。気持ちはわかる、俺もそんな返しをされるなんて思ってもいなかった。だが、俺はあえて見て見ぬふりをした。昴、そういう自分で撒いた種は自分で回収しないといけないんだぞ。昴、今までありがとう。安らかに眠れ。
このあと、無事に昴が殺されるのを楽しみに待っていた俺だったが、予想外の出来事が起こった。
「...春樹くんはどう思いますか??」
「...え??」
急に話を振られた俺は、変な声を出してしまった。
「この格好を見て、どう思いますか??」
さっき昴にした質問を、今度は俺に振ってきた。...正直、俺は女性の服に詳しくはないので何とも言えないが、上は青色の半袖??を着ていて、下は白のミニスカートっぽいものを着ていた。俺は先程の昴を見ているため、必死に「ああはなりたくない」と頭をフル回転させる。が、今までにこんな状況になった経験がないため、あまり自信のない言葉が頭に浮かんだ。仕方なく、俺はそれを口にする。
「...時雨は青も似合うけど、俺は赤の方が好きかな。」
とりあえず、思ったことを口に出してみた。...でもこれ、よく考えると俺の好みを答えただけになってるよな??俺は少し、返答が上手くいかなかったことに後悔していたが、時雨はニッコリと笑ってから言った。
「はい!!わかりました!!」
俺は時雨の反応を見て、これであっていたのかどうかを考える。それを悟ってか、時雨はそんな俺を見てまた笑った。んー、まぁ上手くは行ったみたいだな。少しの安堵と共に、先程ボロボロになった昴を思い出す。ふと気になってパッと横を見ると、そこにはもう昴の姿はなかった。...まさかあいつ、拗ねたんじゃ。
再び時雨に視線を戻す。時雨はさっきよりもテンションが上がったように見えた。そんな幸せそうな時雨を俺は少し微笑みながら見ていた。
幸せだった。この時、俺はふとそう思った。こんな幸せが、続いてくれれば良いのに。そう心の中で思いながら、僕は時雨をしばらく見ていた。
が、俺の目に、時雨の首辺りにある、黒っぽいあるものが写った。
俺は目を見開いた。自然に心臓が脈を打つスピードをあげる。
おいおい。そりゃーないぞ、神様。
「春樹くん、しっかりして。パーツがぐちゃぐちゃになってる。」
「ったく、だらしないなぁ。僕のこの華麗で機敏な動きが見えないのかい⁇」
昴はテキパキと作業をこなしながら俺に嫌味を言ってくる。時雨も少し怒っている様子だった。
「お前や時雨はロボットだから暑さを感じないかもしれないが、俺は人間だから暑さを感じるんだよ。暑っ。」
ジージーと五月蝿い蝉がこんな猛暑日に大量発生しているという現実に『楽になりたいな』と思う気持ちを抑え、俺はタイムマシン製作を行っていた。時雨が転校してきて大騒ぎになった一学期も終わり、今は夏のど真ん中の8月、タイムマシン製作3ヶ月目を迎えたところだ。俺たちはあくまでも高校生なので夏休みがあり、それを利用してこうやって俺の家の父の部屋で3人でタイムマシンを作っている。
エアコンをフル稼働させているというのにも関わらず、この暑さとは。まったく、これだから夏は侮れない。俺のしんどさを悟ってくれたのか、時雨が助け船を出してくれた。
「それじゃあ、30分後にご飯にする??」
俺の体がピクりと反応する。
「す、昴、聞いたか!?今、女神のお言葉が聞こえたぞ!?」
「...暑さで春樹のキャラがぶれてる。いや、まぁ別にぶれるのは勝手にぶれてくれて良いんだけどさぁ、僕のキャラと被るのはやめてくんない??」
凄く不満そうな顔で、こっちを睨み付けてくる昴。
「自分がこんなキャラだっていう自覚はあったのかよ!!」
死にそうな暑さに加えて、何千もの数式を見ていると、やはり人間というものは壊れるんだな、と改めて再確認した。この作業を3ヶ月間耐えただけでも、自分を褒めてやりたいぐらいだ。
「それにしても、タイムマシンを作り始めてからもう3ヶ月だね。この3ヶ月、色々な事がありすぎてビックリだったよ。」
時雨が懐かしむように言う。
「そうだね。いろんな事があったね。」
昴が笑いながらそう言った。俺も口には出さなかったが、心の中では二人に共感していた。楽しそうに会話をする二人を見ながら、僕はこの3ヶ月を思い出していた。
6月の前半は梅雨の大雨で何もすることがなく、凄く暇だった。タイムマシンの材料を買いに行くにしても、どんなタイムマシンを作るかが決まっていなかったので、買いにいけない。デザインが決まったとしても、金属が雨で濡れてしまうといけないので、どのみち買いにいけなかった。
「ん~、この時間をどうにか活用出来ないものかな。」
俺はほとんど何も考えず、独り言のように呟いた。しかし、昴はこの言葉を聞き逃がさなかった。
「...え、じゃあ遊ぶとかは??」
...暫しの沈黙。それぞれが皆、自分の心の中で考えているみたいだ。しばらくして、時雨がその沈黙を破った。
「何もすることがないし、遊ぼう!!」
その言葉を聞いて、俺は内心驚く。いつもは厳しいあの時雨が、今は遊ぼうと俺達を誘っている。だが、俺も時雨の意見に賛成だった。
「...だって、いっつも3人で過ごしているのに、3人で遊んだことがないなんておかしいと思わない??」
確かに、時雨の意見も一理ある。
そういや、3人で遊びに行ったりすることは今まで無かったな。
「んじゃ~、どこに行くの??時雨ちゃんが行きたい所で良いよ~」
「...私の行きたいところ。」
昴がそう言うと、時雨は少し悩むように考え始めた。勝手に昴と時雨の中で話が進んでいる。全く、俺の意見は聞いてくれないのかよ。
「うん。聞いてくれない。」
「聞けよ!!てか、人の心を読むなっ!!」
昴は本当に人の(俺の)心を読むのが上手い。いや、本当にマジで腹が立つぐらい上手いよな。今度、二回連続で落とし穴にはめてやろうか。
「では、ここで。」
俺が昴に心を読まれないよう、最大限の注意を払いつつ悪口を言うという、高難易度かつ俺にしか出来ないしょうもない技を試している間に、時雨はどうやら行き先を決めたみたいだった。
一体、時雨はどこを選んだのだろう。いやまさか、いくら変わり者の時雨とはいえ、流石に今回は普通のところを選んでいるはずだ。
「んで、どこに決まったんだ??」
時雨は至極嬉しそうな顔で俺に見せてきた。
恐る恐る、俺は時雨の指指しているところを見る。...まさか「バンジージャンプとか飛んでみたい!!」とか言い出さないだろうな??
そう身構えていた俺だったが、いざ見てみると拍子抜けするぐらいに普通の所だった。
「...なるほど。ショッピングモールか。」
俺は驚きと期待を顔に出さないよう注意しながら、なるべく平たい声で返した。
先に言っておくが、俺は服に興味がない。何故なら、俺は『外見』ではなく、『内面』の方が興味があるからだ。外見よりも、その人がどういう判断をし、どのような行動をとり、どうやって生きてきたのか、また、どのように考えるのかを理解するのが好きだ。中学生の時、目の前を通り過ぎる、街中の人達を見て、「この人はこんな仕事をしていて」とか「この人はこんなところに住んでいて」など、その人個人を外見から探り、当てるゲームをしていたほどだった。そのせいか、俺の「他人の内面を観察する」才能が開花し、今では昴の(ロボットの)内面がわかるようになった。
...いや、まぁ、時雨の内面は全くわからないが。
「でも、女の子なら話は別なんだよなぁ~。春樹はすぐに男女差別を心の中で...」
「しねーよ!!じょ、女性だってちゃんと内面を見てるよ!!」
「じゃあ、女性の外見はどうでも良いんだね??」
「...いや、そういうわけじゃ。」
昴がニヤニヤ笑っている。ムカつくが、実際女性の外見を気にしないかと聞かれれば、俺はNOと答える。そりゃ俺だって人間だから可愛い人の方が好みだ。だが、人は「可愛い」だけじゃ上手く生きていけない。可愛いだけの人よりは、内面が良くできている人を俺は選ぶだろう。まぁ、見た目から入るのはあながち間違いではないけれども。
「ま、どうせお前は見た目100%だと思うがな。」
言われっぱなしは悔しいので、ちょっと言い返してやる。
「んなこと言って、どうせ春樹がそうなんでしょ??」
昴も応戦してくる。
あぁ、ヤバイ。俺と昴の間に火花が散っている。
「何をそんなに楽しそうに話してるの??私も混ぜてよ!!」
突然の時雨の声に、俺と昴は正気を取り戻す。そして瞬時にここが家の研究室ではなく、ショッピングモールの2階にある服屋であることを思い出す。
「え??いや、えっと...俺、何か言ってた??」
「え??いや、えっと...僕、何か言ってたかな??」
二人でほぼ同時にほとんど同じ言葉を発した。それを聞いた時雨は一瞬キョトンとしたかと思うと、すぐに表情が緩み、笑いだした。俺は心の中の焦っている自分を落ち着かせる。落ち着け。大丈夫だ。時雨には聞こえてない。この時の俺は何故ここまで時雨のことを気にかけていたのか、わかっていなかった。
(とりあえず今は、一時休戦だ!!)
と俺は昴にアイコンタクトを試みるが、何故か昴は不思議そうな顔をして、こっちを見ている。...こういうときに限って、何で伝わらないかなぁ。
「あー、面白かった。二人とも流石、仲良いね。まぁ別に今回は良いや、面白かったし。そんなことより、これ見て!!可愛いでしょ??」
ひとしきり笑い終わった時雨が、今度は俺達に向かって自分の選んだ服を見せてきた。
俺はホッと一息つき、改めて時雨と昴の話に耳を傾ける。
「おー!!すごく似合ってるよ!!時雨ちゃんってこんなに可愛かったっけ??」
「昴、それってさー、褒めてるの??」
一見、時雨は表面上では笑っているように見えるが、どう見ても心が笑っていなかった。昴もやっと自分の過ちに気がついたのか、あたふたしながら言葉を探している。
「いやぁ、時雨ちゃんは元々可愛いから、どんな服も似合うみたいだね。」
この言葉が、悩んだ末に導き出された昴の言葉だった。
「...それって、どんな服でも変わらないってこと??」
さらに時雨は笑った。表面上だけ。昴の方を見ると、流石にこれは予想してなかったのか、今にも泣き出しそうになりながら、こっちを見ている。気持ちはわかる、俺もそんな返しをされるなんて思ってもいなかった。だが、俺はあえて見て見ぬふりをした。昴、そういう自分で撒いた種は自分で回収しないといけないんだぞ。昴、今までありがとう。安らかに眠れ。
このあと、無事に昴が殺されるのを楽しみに待っていた俺だったが、予想外の出来事が起こった。
「...春樹くんはどう思いますか??」
「...え??」
急に話を振られた俺は、変な声を出してしまった。
「この格好を見て、どう思いますか??」
さっき昴にした質問を、今度は俺に振ってきた。...正直、俺は女性の服に詳しくはないので何とも言えないが、上は青色の半袖??を着ていて、下は白のミニスカートっぽいものを着ていた。俺は先程の昴を見ているため、必死に「ああはなりたくない」と頭をフル回転させる。が、今までにこんな状況になった経験がないため、あまり自信のない言葉が頭に浮かんだ。仕方なく、俺はそれを口にする。
「...時雨は青も似合うけど、俺は赤の方が好きかな。」
とりあえず、思ったことを口に出してみた。...でもこれ、よく考えると俺の好みを答えただけになってるよな??俺は少し、返答が上手くいかなかったことに後悔していたが、時雨はニッコリと笑ってから言った。
「はい!!わかりました!!」
俺は時雨の反応を見て、これであっていたのかどうかを考える。それを悟ってか、時雨はそんな俺を見てまた笑った。んー、まぁ上手くは行ったみたいだな。少しの安堵と共に、先程ボロボロになった昴を思い出す。ふと気になってパッと横を見ると、そこにはもう昴の姿はなかった。...まさかあいつ、拗ねたんじゃ。
再び時雨に視線を戻す。時雨はさっきよりもテンションが上がったように見えた。そんな幸せそうな時雨を俺は少し微笑みながら見ていた。
幸せだった。この時、俺はふとそう思った。こんな幸せが、続いてくれれば良いのに。そう心の中で思いながら、僕は時雨をしばらく見ていた。
が、俺の目に、時雨の首辺りにある、黒っぽいあるものが写った。
俺は目を見開いた。自然に心臓が脈を打つスピードをあげる。
おいおい。そりゃーないぞ、神様。
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