繋がりのその先で

Bolthedgefox

2-4自己紹介

晴天の空から『本当に太陽なのか⁇』と思うほどのほのかな光に照らされ、静まり返っている103。そこに僕、No.717、ルヌフガを含む計9人が集合していた。皆が集まる時はもっと広い部屋に集まるものなんじゃないかと思うが、僕のことを気遣ってくれた可能性もあるし、部外者の僕に見せたくない場所があるのかもしれないので、特に何も言おうとは思わなかった。ただ、2人部屋に9人も集まると、ある程度圧迫感は感じる。やっぱり部屋を変えた方が良かったんじゃ…。

「まずは自己紹介からじゃな。」

そんなことを思っている中、ルヌフガが言いながら指で合図を送る。すると、一番右の少し年をとった女性が前に出た。

「えっと、まずは私から。私はクレミラ。ルヌフガの妻です。皆からは『クレ婆』と呼ばれています。」

身長は153cm程度、年は多分60代後半ぐらい、見るからに心優しい、穏やかそうなおばぁちゃんだが、信念は強そうに思う。

「ワシと二人でこのバルカル施設病院をやっておる。ちなみにここの委員長はワシじゃ。」

へぇ〜、ここ施設だけじゃなくて病院もやっているのか、便利だな。僕は感心しながら話を聞いていく。次に出てきたのは身長168cm程度、年は多分20代後半、水色の長い髪と細い体が特徴の女性だ。

「次が私ね。私はティマ。一応この施設の子供の中では一番年上で、みんなをまとめているの。これからよろしくね。」

差し出してきた手を僕は快く受け、握手をする。

「次は僕だね。こんにちはお兄さん。僕はタリュウスって言います。仲良くしてくれると嬉しいな。」

身長170cm程度、多分僕と同じくらいの年で紫色の髪を持っている。シュッとした顔立ちで、体は細いが筋肉で少しがっちりしている。相当に運動が得意だと思われる。

次は少しおとなしい雰囲気を出している身長163cm程度、多分僕と同じくらいの年で、髪は黄色く左右でくくっているのが特徴の女の子が前に出る。

「...私はメイレル。...よろしく。」

すぐに後ろに戻り、左隣の女の子の後ろに隠れる形で立つが、次はその女の子が前に出て自己紹介をする番だった。あ、この子、さっきザクレイルというものに入っていた子だ。

「ったく、メイレルは気が弱いんだから。私はバルシナ。よろしくな。あとさっきは悪かったな。あれはまぁ、なんだ、検査みたいなもんだったんだ。許してくれ。」

身長165cm程度、多分僕と同じぐらいの年で、髪は緑色のショートカットだ。
検査⁇検査ってなんだよ。そう思ってルヌフガの方を見ると、あとで説明すると言わんばかりにアイコンタクトを送ってくる。仕方ない、と俺は思いながら次の子に続きを促した。

「俺はキュモロっす。兄ちゃん、よろしくっす。」

二カッといい笑顔を見せる少年は、身長160cm程度、おそらく僕より1才下もしくは2才下で、髪は綺麗な紺色をしている。これはあくまでも第一印象だが、タリュウスが真面目だとするとキュモロはそのほぼ反対のヤンチャに当てはまるような雰囲気を持っていた。

「つ、次は私ですね。私はNo.717です。あの、今後とも仲良くしてほしいです。」

先ほどの照れが残っているのか、顔が赤くなっている。改めて、身長163cm程度、年は多分15才前後、昨日は暗くてわからなかったが髪は綺麗な白色、いや、少し銀色に近い白銀色で腰の上くらいまで髪を伸ばしている。思わず見惚れてしまうほどにその髪は綺麗だった。昨日見たあの一瞬、あの時は完全な銀色だった。だが今はかなり白の方が割合が多いように思える。僕が少女の髪を見ながら考えていると、耐えきれなくなったのか、少女はティマの後ろに隠れる。

「もう、717ったら恥ずかしがり屋なんだから。えっと、これで私たちの自己紹介は終わったわよ。次はあなたの番ね。」

自己紹介が自分に回って来たことにやっと気付き、僕は改めて皆の方を見る。
ええっと、さすがに『重谷雪人』と名乗らない方がいいよな、皆『姓』を持ってなさそうだし。
そこまで考えたところで、僕は口を開いた。

「よし。じゃあ最後は僕だな。僕の名前はユキト。記憶喪失者だが一応機械類が得意だったみたいだ。これからよろしくな...って言いたいところなんだが。」

僕は重大なことに気づき、少し言葉に詰まる。忘れかけていたことだが、僕はまだ正式にルヌフガ達に許可をもらっていない。いきなり来ていきなり住むなんて迷惑なんじゃないかと僕は思う。が同時に、心のどこかでここに住むことになるんじゃないかとも思っていた。なぜか僕は確信を持っていた。

「えっと、僕はここにいても大丈夫なのか?もし迷惑なようであれば、僕はここを去る。出来れば、町への行き方について聞きたいんだけど。」

言い終えた僕は急にその場の空気が変わったことを感じた。皆、急に隙がなくなり、僕のことを警戒視するようになった。ん、なんか僕、変なこと言ったか⁇

「こら、お前ら。こやつは今さっき言うておったじゃろう?こやつ、ユキトは記憶を無くしておるのじゃ。」

空気を察したルヌフガがすぐさま止めに入る。

「でも ︎今、ユキトは町に行くって言ったよ⁇もしかしたら敵かもしれない。」

少し慌てた様子でティマが構えを取っている。敵⁇何のことだ⁇
さらに僕は彼らの目の異変に気がつく。明らかにこれは恐怖からくる防衛本能ではなく、恨みや憎しみからくる攻撃意思だ。

「やめて!皆!」

急に717が叫びながら僕の前に立ち、手を広げる。

「皆、知ってるでしょ ︎私の前では誰も嘘はつけないの ︎だからこの人は敵じゃない ︎」

必死に717は皆に言い聞かせる。ティマ達は717の行動に心底驚いているらしく、ギョッとした目をしている。僕は何が原因で疑われているのかもわからず、ただ立っているだけだった。

「私は717に賛成よ。ここに皆が集まる前にユキトと先に話していたが、こいつは頭が相当キレてる。もしこいつが本当に敵なら、私らは一人ずつ殺されてるよ。わざわざこんなバカな真似はしない。」

そう言ってくれたのは、さっきザクレイルという容器の中に入っていたバルシナだった。

「でも頭がキレるっていうのなら、バルシナっちが騙されている可能性だって否定できないっすよね⁇」

キュモロはバルシナを牽制するように言葉を選んでいる。喧嘩を売られたバルシナは「あぁん⁇」と睨んでいる。

昨日出会ったばかりの717とルヌフガ。さっき話したばかりのバルシナ。他の皆のように僕のことをそんなに早く信用できないのが普通であり、当たり前だ。だが、僕のことを信じてくれる人がいる。
ならば僕はその人達のために考えるべきなんじゃないか⁇
僕は静かに口を開く。

「何が原因で疑われているのかもわからない。僕に失言があったのなら取り消すし、謝る。」

僕の言葉に皆が静かになる。

「多分『町』に何か君たちの敵になるような奴がいるんだな⁇状況は全く知らないけれど。で、717の前で嘘はつけないってのは本当か⁇それは皆が共通認識として持っているものなのか⁇」

構えながら、ティマは静かに頷く。
それなら。と、僕は717の方を向く。

「僕は君たちの敵じゃない。この世界が今どうなってるのかなんて知らない。僕は君たちを傷つけたりしないし、殺したりもしない。なんなら僕は君たちの味方になろう。」

僕はそう言い切った。皆が見ている前でそう言い切った。これは誰も否定できない事実だ。

「これで信じてもらえる⁇」

するとティマ達は一斉に僕との距離を詰める。なっ ︎こいつら、攻撃を仕掛けてきたのか⁇
僕は思わず目を閉じて身構える。が、少し経っても体のどこにも衝撃はこない。恐る恐る僕は目を開ける。そこには綺麗に並んで土下座しているティマ達の姿があった。僕は『え⁇』と拍子抜けした声を出してしまう。

「ご、ごめんなさい ︎私達、内心ユキトを疑ってた。本当に記憶を失っているのか、そんなことがありえるのか、なんて考えてた。い、今まで町の奴らはあらゆる方法で私達を追い詰めようとしてきたものだから。本当にごめんなさい。」

驚いている僕に、彼らはうつむきながら必死に謝る。あれ⁇僕そんなにきつく言ったっけ⁇

「あぁ、いやそこまで謝らなくても。第一、疑われることの方が当たり前なんだから。これから僕のことを信じてくれるならそれで十分だよ。」

僕はそう言葉をかける。それを聞いた彼らはコクコクと頷き、元の位置へと戻る。なんだ、この違和感は。変にこの子達、自分の感情に素直すぎるような気がした。僕の中でなにかモヤモヤしたものが生まれる。

皆が落ち着いたところで、「あの ︎」と717が話を戻す。

「皆、私ね、ユキトには私達と一緒にここに住んで欲しいと思ってるの。この人、さっき言ってくれたみたいに私達を守ってくれるような気がするんだ。それに約束もしたしね。」

少女はこっちを見る。名前のことを言っているのだろう。僕は「そうだったな」と少女に微笑みかける。それにしても、717の発言に今度は僕以外の全員が驚いている。なんでさっきも今もこんなに驚いているんだろうか。僕にはさっきからわからないことだらけだった。

「なんと。今まで人に意見など言うことがなかったんじゃがな。さっきといい今といい、成長したのぅ。717よ。」

僕の心中を察してか、ルヌフガは説明するかのようにわかりやすく言ってくれた。

「さて、おぬしらよ。ユキトをこのバルカル施設病院に招き入れてもいいんじゃな⁇」

ルヌフガの問いに、皆は首を縦に振る。717は小さく喜んでいる。僕は流れに逆らわず、感謝の気持ちを伝えることにした。

「ありがとう。ってことで、これからよろしく。」

「よし。ならこれで自己紹介は終わりじゃ。おぬしらはそれぞれの持ち場に戻るのじゃ。バルシナは104で717の手伝いをしておいてくれ。あとユキト、おぬしはちょっと話があるから残っとくれ。」

ルヌフガは自然な流れで彼らをそれぞれの持ち場へと帰し、僕と二人の空間を作り出す。ルヌフガに言われるまでもなく、こっちは聞きたいことが山ほどあるんだ。僕はできるだけ感情を込めずに「わかった」とだけ返す。
全員が出て行ったことを確認したルヌフガは早速と言わんばかりに僕に質問してきた。

「ユキトよ。さっきの会話、何か気づかなかったか⁇」

僕は感じた違和感のことを話す。するとルヌフガは「やはり、鋭いのぉ。」と言って感心する。
僕は今まで気になっていたことを待ちきれずにルヌフガに質問する。

「で、本題だ。『彼ら』は一体なんなんだ⁇」

先程、僕は至って冷静に個人を分析している風を装っていたが、内心は驚きの連続だった。明らかに彼らは人間ではない。彼らは共通して『耳』に特徴を持っていた。さらに最初にバルシナとここで話した時、『しかもあんた、ルヌフガと同じ人間でしょ⁇』と言っていた。つまり、ルヌフガは『人間』であって彼らは『人間ではない』ということだ。彼らは人間ではない。が、限りなく彼らは人間に近かった。

「しかも途中の様子がおかしい。妙に素直というか、言ってしまえば、すごく浅はかで安直な考え方をしてるみたいだ。感情に身を任せている、みたいな。あと、なんで皆は共通認識として『717の前では嘘がつけない』ってのを持ってるんだ⁇」

僕は頭で考えていた質問を一気に吐き出す。まだまだ質問したいことがあったが、一気にたくさんの質問をしてしまうと逆にちゃんとした答えが返ってこなくなるので、これぐらいでやめておくことにした。ルヌフガは難しい顔をしながら「長くなるぞ⁇」と告げる。僕は頷き、同意の意思を示す。

「まず、あやつらは『エル』と呼ばれる、人間に最も近しい存在じゃ。外見はおぬしも見たじゃろうが耳に特徴を持っている以外、あまり人間と区別がつかん。じゃが、『エル』と我々人間には二つ、大きな差がある。それは。」

僕はゴクリと唾を飲んだ。もったいぶるルヌフガに僕は「それは⁇」と相槌を入れる。
そして、ゆっくりとルヌフガの口が開かれる。

「それは寿命の長さと特殊能力の保持じゃよ。」









コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品