ep.if 10話 静寂を打つ拳

　ー王　抗命sideー

　とても安心する温もりを感じる。似たようなものを僕は過去にある一人の少女からしか受けたことがない。

　故に僕が反射的に言ってしまったのも理解してくれるだろう。

「ミィ､､､ナ」

　体の感覚が戻ってくるのを感じながら、ゆっくりと目を開けた。同時に目の前にいた人が知らない人だということを知覚した。

「良かった、目が覚めて」

　まだ記憶が朦朧としているけど、彼女が助けてくれたことは違いない。だから例を言おうとした。

　しかし、口から漏れるのは空気のみだった。

「無理しないで。傷が言えたとはいえ体力が戻ったわけじゃないんだから。､､､それじゃもういくね」

　待って、そう言おうとしても声は出なかった。それでも僕が言わんとしていることを察してくれた。

「私は優希。それだけ覚えておいて。あ、あと出来ればピンチの時に助けて欲しいかな。それじゃ」

　彼女が走っていったあとしばらくして艦内に戦闘音が響き渡った。一体何が起こっているのだろう。

　先程の少女が戦っているのだろうか。相手は誰なのか。

　数ある戦闘音の中から一番近い所に向かっている中様々な思考が頭をよぎった。だけど、その思考も無駄だったと悟った。

　なぜなら、向かっている方向が静寂に包まれたからだ。期待と不安を抱えながら進もうとした直後悲鳴が聞こえた。

「止めて！」

　その声には聞き覚えがあった。そう、優希と名乗った少女の声だった。

　期待など一瞬で消え去り不安が身体にまとわりついた。その不安を振り払うように駆け出し、その姿をこの目で捕えることが出来た。

　不思議なことに彼女自体は無事だった。隣に立つ少年もまた致命的な傷を負っている訳ではなかった。

　彼らの視線の先を見るとその理由が明らかになった。

　そこには僕の兄、墜落星が人質に対し刃を振り下ろそうとしている姿があった。

　見た瞬間今まで感じえなかった感情を感じたように思う。気づけば落星に刹那の間に近づき、固く握られた右手で殴りつけていた。